AIによって生成された動画は、現在不治の病である肺疾患COPDの偽の漢方薬を喧伝しています。

【主張】

  • 3日以内にCOPDが治るという薬をアメリカの医師が発明した。

  • 私達は、慢性閉塞性肺疾患、慢性気管支炎、肺線維症といった呼吸器疾患の治療に特化した60種類以上の天然ハーブを配合した画期的な錠剤を開発した。

【詳細評定】

事実無根:

  • 生活習慣の改善や薬物療法はCOPDの症状を抑えるのに役立ちますが、今のところ治療法はありません。

裏付け不十分:

  • ハーブ製剤が安全でCOPD患者に有益であるかどうかのエビデンスは限られており、結論は出ておりません。

  • 明確な結論を出すには質の高い臨床試験が必要です。

【キーポイント】

  • 慢性閉塞性肺疾患(COPD)は慢性進行性の肺疾患で、現在の所、治療法はありません。

  • 薬物療法に加え、禁煙、汚染された環境を避ける、体を動かすといった生活習慣を改善することで、症状を抑え、病気の進行を遅らせることが出来ます。

  • COPDを治す効果があるという製品は、有害な成分を含んでいたり、薬との相互作用が予測不可能であったりするため、詐欺的で危険な可能性があります。

【レビュー】

2024年12月初旬、慢性閉塞性肺疾患(COPD)を「3日以内」に治すとされる「革命的な薬」を喧伝する動画がFacebook上で拡散されていました。動画には、FOXニュースのキャスター、Jesse Watters氏や、この薬の開発者とされる外科医、タレントのMehmet Oz氏、通称 《Dr. Oz》が登場しました。

動画の画像は投稿によって異なっているものの、我々が見つけた動画はどれも同じナレーションを使い、薬がCOPDを治せなかったら「100万ドルを支払う」と約束しているものでした。それらの動画は、COPDを治せなかったら「100万ドルを支払う」と約束しているものでした。

しかしながら、これらの動画には明らかに画像加工された形跡がありました。

有名人や大手テレビ局が出演する、改変された、或いはAIが生成した動画が、ここ数年、詐欺に多用されてきています。Science Feedbackは、糖尿病の治療薬カンナビジオール(CBD)グミを様々な病状の治療薬として偽って喧伝する、そのようなAI加工動画の例をいくつか報告しています。

《Dr. Oz》はしばしば、これらの製品の開発者として、或いは推奨者として言及されてきましたが、彼はこれらの広告への関与を繰り返し否定してきました。2019年にウォール・ストリート・ジャーナル紙に寄稿し、FacebookTwitterでもシェアした記事の中で、Oz氏はこれらの広告は「合法的」ではないと述べ、彼のイメージを悪用した詐欺の可能性について警告しています。

同様に、Facebook上に投稿されたCOPDの動画も偽物です。第一に、COPDは現在の所、治療法が確立されていないため、治癒を謳う製品は単なる詐欺です。第二に、動画と音声の同期が悪いことから、音声は偽物であると推測されます。

Watters氏の服装、身振り手振り、背景といった視覚的な手がかりから、Fox Newsのクリップの出所を特定することが出来ました。これは2024年6月28日の生放送(➡削除済)からの抜粋(タイムスタンプ00:10から00:20)で、Watters氏はジョー・バイデン氏とドナルド・トランプ氏とのCNN大統領討論会についてコメントしています。Watters氏はCOPDや新しい治療法については一切触れていません。

COPDは現在不治の病であり、生活習慣の改善と薬物療法で   症状を管理しています。

COPDは肺の障害から起こる進行性の肺疾患です。この障害により気道内に炎症が起こり、肺への空気の出入りが制限され、呼吸が苦しくなります。

COPDの初期段階では、息切れや疲労感、特に運動時に感じることがあります。しかしながら、病気が進行するにつれて症状は悪化し、呼吸困難、胸のつかえ、咳が止まらなくなり、大量の粘液を伴うことが多くなります。大気汚染や感染症といった特定の要因によって、COPDの症状が一時的に悪化する「増悪」と呼ばれる症状が数日から数週間続くことがあります。COPDの症状が重くなると、日常生活が制限されることもあります。

タバコはCOPDの主な原因であり、高所得国ではCOPD患者の70%以上を占めています。その理由は、タバコの煙には気道の腫れや肺の損傷を引き起こす有害な化学物質が多数含まれており、どちらもCOPDの一因となるからです。電子タバコのような無煙タバコ製品とCOPDを結びつける明確な証拠はありません。しかしながら、これらの製品は気道に慢性的な刺激や炎症を引き起こし、呼吸器疾患の発症の一因となる可能性があります。

COPDの発症リスクには、タバコに加えて、大気汚染と遺伝が大きく関係しています。大気汚染は低・中所得国で特に大きな影響を及ぼしており、喫煙はCOPD患者の半数以下となっています。また、特定の化学物質、埃、煙に長期間職業的に曝されることもCOPDの発症リスクを高めます。

最後に、α1アンチトリプシン欠損症という遺伝的疾患もCOPDの稀な原因となっています。α1アンチトリプシンは肝臓で作られるタンパク質で、肺をダメージから守る重要な役割を担っています。このタンパク質を制御するSERPINA1遺伝子に特定の変異がある人は、α-1アンチトリプシンが十分に産生されないため、環境による肺のダメージを特に受けやすくなります。

COPDは身体障害と死亡の主な原因であり、喫煙歴とは無関係に、心臓病、糖尿病、肺癌の発症リスクの上昇と関連しています[1]。2019年には、COPDは世界中で推定4億人に影響を及ぼし[2]、この数字は喫煙や大気環境の悪化により、今後数十年で増加すると予想されています[3,4]。

COPDの治療法は今の所証明されていません。しかしながら、禁煙、汚染された環境を避ける、その他の危険因子を管理するといった生活習慣の改善は、発症の可能性を減らし、既に発症している人の症状を緩和するのに役立ちます。また、炎症を抑えたり、気道周囲の筋肉を弛緩させる治療(気管支拡張薬)は、病気の進行を遅らせるのに役立ちます。

ハーブ製剤がCOPD治療に有効であるという決定的なエビデンスは存在しません。

COPDの治療や治癒を謳う自然療法がSNS上に溢れていますが、科学的根拠に乏しく、量も質も限られています。

英国のエクセター大学名誉教授(補完医学)のEdzard Ernst氏は、Science Feedbackの取材に対し、ハーブ製剤に関する研究の中には「COPDやその他の肺疾患に対して有望な知見」を得たものもあると述べています。しかしながら、同氏は、COPDに対するハーブ療法の有効性の主張は、「確実な証拠によって裏付けられているわけではありません」と注意を促しています。

Ernst氏は、既存の研究の問題点として、「科学的厳密性が乏しく、独立した再現性が乏しい傾向があります」と指摘しています。このような限界があるため、COPD患者にハーブ製剤が安全で有益かどうかは依然として不明なままなのです。

2006年にErnst氏が共著者としてEuropean Respiratory Journal誌に発表した研究では、COPD治療におけるハーブ製剤の使用について、当時得られたエビデンスをレビューしています[5]。著者らは、14の無作為化臨床試験(1,359人)を分析し、COPDの治療に単独ハーブまたはハーブ混合物を使用し、多くの場合、従来の治療法と併用されていることを明らかにしています。

COPDの症状や肺機能の改善を報告した研究もありましたが、COPD治療に対するハーブ製剤の有効性は「合理的な疑いを超えて確立されていない」と結論づけました。その理由は、エビデンスが全体的に「乏しく、方法論的に弱いことが多い」からだというものでした。

無作為化臨床試験は、バイアスのリスクを最小限に抑えることが出来るため、治療法の有効性を評価するためのゴールドスタンダードと考えられています。しかしながら、レビューの著者は、既存のRCTの殆どが質の高いRCTに不可欠な2つの特徴である二重盲検化とプラセボ対照を欠いていると説明しています。レビューでは、不明確或いは不適切な方法論や統計解析の使用、全体的な結果の不十分な報告等、分析された個々の研究における他の弱点が指摘されています。

Complementary Therapies in Medicine誌[6]とFrontiers in Pharmacology誌[7]に掲載された過去のRCTの2021年の2つの解析も同じ結論に達しています。いずれの研究も、COPD症状管理におけるハーブ製剤の安全性と有効性をプラセボと比較して評価しています。解析に含まれた研究は全て、従来の治療法に加えて漢方薬を使用しています。

その結果、漢方製剤を使用した患者のCOPD症状とQOLの改善が示唆するものとなりました。しかしながら、いずれの研究においても、個々の研究における方法論的質の低さ、異質性、バイアスリスクの高さが強調されていました。そのため、COPD患者における漢方製剤の潜在的な有益性について信頼のおける結論を得るためには、サンプルサイズがより大きく、追跡期間がより長い、質の高いRCTが必要となってきます。

天然製品は危険な場合もあります。

ハーブ製剤の有効性に関する疑問とは別に、「天然」が必ずしも「安全」を意味しないことにも注意が必要です。というのも、天然物には複数の化学化合物が含まれており、身体に影響を及ぼす可能性があるからです。これらの作用の中には有益なものもあれば、未知のものや有害なものもあります。また、これらの化合物の多くは、特定の医薬品と干渉し、その効果を低下させたり、重篤な有害事象のリスクを増大させたりする可能性があります。

更に、栄養補助食品には、処方箋薬や市販薬のような厳しい規制はありません。医薬品とは異なり、サプリメントには安全性と有効性の試験が義務付けられていないため、病気の治療、治癒、予防を謳うことは出来ません。製造業者と販売業者は、製品が正しく表示され、安全要件を満たしていることを確認する責任があります。しかしながら、規制機関は消費者の手に渡る前に製品の成分をテストすることはありません。つまり、製品の成分や品質は保証されていないのです。

このような理由から、専門家は、特に現在薬を服用している人や健康状態に問題がある人は、漢方薬を使用する際には注意するよう警告しています。

【Scientists’ Feedback】

  • 筆者の知る限り、この主張は確実なエビデンスに裏付けられてはいません。

  • 漢方薬に関する研究は数多くあり(その数は数千にのぼります!)、COPDやその他の肺疾患に対して有望な結果を生み出しているものもあります。

  • しかしながら、問題は、その科学的厳密性が乏しく、独立した再現性が乏しい傾向にあることです。

引用文献

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