【あたおか主張何回目?】COVID-19ワクチンのブースター接種を受けた35人に1人が心臓障害を発症したことを証明する動画、スイスの研究は存在しません。

Moderna 社のCOVID-19 mRNA-1273ブースターワクチン接種を受けた35人に1人が心筋障害を起こしたのでしょうか?いいえ、そんなことはありません: この主張を裏付ける信憑性のある証拠やデータはありません。このような高率の副反応は極めて異例であり、(もし起きていたならば、)広範囲に懸念と調査が広がっているはずです。この主張のために引用された研究の著者も、「全ての症例は一過性で短時間の心筋傷害のみで軽度でした」とリスクを軽視しています。

この主張は、2023年7月26日にJohn Campbellによって公開されたYouTube上の動画(アーカイブはこちら)に、タイトル「35人に1人の心筋損傷」として登場しました。動画のほんの数秒後、Campbellは次のように切り出しました:

もし世界中の規制当局が、この論文を通じて私がこれから述べる情報に注意を払わないのであれば、それはよく言って怠慢である。私は、最悪の事態を考えたくもない。

スイスで実施された試験で、Moderna社のブースターワクチンを接種した後、777人の就労者と777人の対照者を追跡調査した。ブースターワクチンを接種した人の5.1%に、心筋細胞障害を示すトロポニンが増加した。つまり、5.1パーセントは血液中の心臓マーカー損傷化学物質が増加した。

777人中2.8%、つまり35人に1人がワクチンによる心筋傷害を受けたことになる。驚くべき結果だ。

One in 35 myocardial injury - YouTube

記事執筆時のYouTubeでの投稿は以下のようなものでした:

(出典: 2023/07/28 金曜日 17:45:30 UTCに取得されたYouTubeのスクリーンショット)

定義

Campbellは、医療関係者以外には馴染みのない用語として、トロポニンと心筋細胞障害を挙げています。

トロポニンは、心筋が損傷したときに放出されるタンパク質です。トロポニンの濃度は血液中で測定することが可能であり、濃度が高ければ心臓の損傷の指標となります。トロポニンの濃度は、他の活動によっても上昇することがあります。

心筋細胞は心臓の収縮を司る細胞なので、平たく言えば心筋細胞の損傷は心筋の損傷ということになります。

心臓専門医

米国心臓協会の専門家で、ダラスにあるUTサウスウェスタン医療センターの循環器科部長であるJames de Lemos医師は、Campbell氏とは異なり、この研究結果をそれほど「驚異的で信じられない」とは考えていません。

Lead Storiesへの2023年7月31日の電子メールで、彼はブースターワクチン後に記録されたトロポニン値の上昇を「些細なものです」と表現しました。

この所見には全く驚きませんし、ワクチンのリスク/ベネフィットに対する私の評価を変えるものではありません。このような小さなトロポニン上昇は、臨床的に重要な事象ではないと考えています。

Fact Check: Video, Swiss Study Do NOT Prove 1 In 35 Given COVID-19 Vaccine Booster Develop Heart Injury | Lead Stories

2023年7月31日、Lead Storiesとの電話インタビューで、ヴァンダービルト大学メディカルセンター感染症科のWilliam Schaffner医学教授は、スイスの研究に対するCampbellの評価を「役に立たない」、「不正確である」と評しました。

世界中の規制当局は、これらのワクチンが臨床的に重要な心筋炎を引き起こすことがあることを認識しており、一般向け文献でも医学文献でも広く公表されています。ですから、心筋炎に関する情報は、それが初めて報告されたときから世に出回り、明確に定義され、広く公表されてきました。

Fact Check: Video, Swiss Study Do NOT Prove 1 In 35 Given COVID-19 Vaccine Booster Develop Heart Injury | Lead Stories

アメリカ心臓協会は、心筋炎を心筋、つまり心臓壁の中間の筋肉層に炎症が発生する、稀ではあるが重篤な疾患と定義しています。

研究

この研究(Campbellが言うところのトライアル)は、2023年7月20日付のEuropean Journal of Heart Failure誌に「性差によるCOVID-19 mRNA-1273ブースターワクチン接種後の心筋傷害発生率の差」というタイトルで発表されました。Campbell は、この結果を規制当局が「怠惰」にならないように注目する必要があるものと呼びかけていますが、論文の著者らは違った見方をしています。研究の結論は次の通りです::

mRNA-1273ワクチンに関連した軽度の一過性心筋傷害は、これまで考えられていたよりも遥かに頻繁に起こることが判明しました。それは35人中1人に見られ、軽度で、一過性であり、男性より女性に多く見られました。抗IL-1RA抗体も、ワクチン/感染症誘発免疫や全身性炎症も、心筋傷害の支配的な機序ではないようでした。30日以内にMACE[主要有害心イベント]を発症した参加者は一人もいませんでした。

Sex‐specific differences in myocardial injury incidence after COVID‐19 mRNA‐1273 Booster Vaccination (wiley.com)

本研究の「考察」の項には次のように補足されています:

全ての症例は軽度で、心筋傷害は一過性で短期間でした。心電図変化を示した患者はなく、30日以内にMACEを発症した患者もいませんでした。

Sex‐specific differences in myocardial injury incidence after COVID‐19 mRNA‐1273 Booster Vaccination (wiley.com)

研究著者らは、ワクチンによる心臓へのダメージを「軽度かつ一過性」と表現しています。更に、COVID-19ブースター接種後30日以内にMACEを発症した患者は一人もいませんでした。MACEとは非致死的脳卒中、非致死的心臓発作、心血管死と定義されます。

この研究ではまた、「ECGの変化を示した患者はいませんでした」とも述べています。心電図は心臓の電気的活動を記録する検査です。

研究論文著者

Lead Storiesは、バーゼル大学病院の臨床研究・定常心臓病学部長である研究筆頭著者Christian Mueller博士に連絡を取り、Campbellの分析結果が正しく解釈されているかどうかを確認しました。結果はそうではありませんでした。2023 年7月31日付の電子メールで Mueller 氏は、この研究は自明のことです、と述べ、次のように付け加えました:

残念ながら、2023年夏の今でも、この心筋傷害の副作用についてバランスの取れた議論をするのは難しいようです。あなたが挙げたような大げさに言う人もいれば、完全に無視する人もいます。私の立場からは、どちらの反応も適切とは思えません。この研究は、この副作用を回避するか、少なくともその有病率を減少させることで、より安全なワクチンの製造に役立つはずです。

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この研究では、777人中22人に「ワクチン関連心筋傷害」の証拠が認められました。

ネブラスカ大学医療センター感染症科のJames Lawler博士は、Lead Stories誌の2023年7月28日付けの電子メールに、心臓の損傷を測定するために使用されるトロポニン値は非常に敏感であり、すぐに跳ね上がったり下がったりする可能性があると語っています。彼は続けて次のように述べました:

結局のところ、これらは全て軽度の上昇であり、殆どはすぐに正常値に戻りました。つまり、少なくとも心筋炎の弱い定義には合致していますが、重大な損傷や障害の証拠はありません。これは全参加者777人中2人(0.26%)でした。

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Schaffner氏はLead Stories誌の取材に対し、この研究から得たものは、心筋炎は「軽度で、一時的なもので、全く無症状なものでした」と語ってくれました。彼は次のように付け加えましたた:

言い換えれば、この研究が実施されなければ、誰もこのことを知ることはなかったでしょう。

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米国CDC

2023年7月28日、「Lead Stories」への電子メールで、米国CDCは、動画でのCampbellの主張に対して回答を寄せてくれました。同機関は次のように述べています:

米国CDCとFDAは、複数の補完的なサーベイランスシステム(VAERS、VSD、CISA、v-safe、v-safe Pregnancy Registry)を用いて、COVID-19ワクチンの最近の歴史の中で最も包括的なワクチン安全性サーベイランスを実施しています。現在までのところ、COVID-19ワクチンと心臓疾患との関連を示すエビデンスはなく、COVID-19ワクチンが心臓発作を誘発することを示すエビデンスもありません。

CDCの研究では、mRNAベースのCOVID-19ワクチン接種後、思春期及び若年成人男性において、2回目のワクチン接種後に心筋炎(心筋の炎症)のリスクが僅かに増加することが示されています:

・12~15歳の男性➡Pfizer社製ワクチンにて100万回接種あたり70.7例
・16-17歳➡Pfizer社製ワクチンにて100万回接種あたり105.9例
・18〜47歳➡Pfizer社製ワクチンとModerna社製ワクチンで各々100万回 
      接種あたり52.4〜56.3例


約96%が入院し、その87%は退院までに症状が治まっていました。非ステロイド性抗炎症薬(589/676、87%)が最も一般的な治療法でした。

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補足として、米国CDCは次のように述べました:

心筋炎は、mRNA COVID-19ブースターワクチン(一価または二価)接種後に、一次シリーズのmRNA COVID-19ワクチン2回目接種後よりも頻繁に発生することはないというデータがあります。

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ワクチンと疾患

ワクチン接種には潜在的なリスクがありますが、大多数の人にとっては、病気そのもの(この場合はCOVID-19)に罹患するよりも安全です。2021年9月に公表されたCDCの研究では、COVID-19感染と心筋炎の関係を調べたところ、COVID-19患者はCOVID-19に感染していない患者に比べて心筋炎のリスクが16倍であり、リスクの程度は性別や年齢によって異なることが判明しました。

電子メールでの回答の結論として、Lawler氏はこの研究データは「安心させてくれるものであり、心配するものではありません」と述べました:

重篤なCOVID-19の予防に有効であることが判明しているmRNA COVID-19ワクチン(そして、他のワクチンと比較的同程度の割合で心筋炎と明らかな関連があることが既に判明している)は、調査された集団において心筋傷害に関する広範な徴候を示しませんでした。

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心筋炎に関連する他のワクチンの一つは天然痘ワクチンです。Schaffner氏は、予防接種にはそれ相応の効果があると述べました:

今から20〜25年前に天然痘ワクチンに関する先行研究があり、そこでも心筋炎と関連していました。勿論、そのワクチンは天然痘を世界から根絶するのに十分なものでした。ですから、心筋炎を起こすことがあったとはいえ、私達はそのワクチンでかなり良い結果を得たのです。

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結局のところ、スイスの研究の結論は「大げさ」だったとde Lemos氏は述べました:

ワクチン接種後の軽微な傷害をよく探せば見つかるという原則的結論は、多分真実だろうと思います。

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John Campbellについて

John Campbellは、280万人以上のチャンネル登録者を持つYouTubeの人気司会者です。Campbell は医師ではなく、救急部を退職した看護師です。彼のYouTubeチャンネルの「概要」ページによりますと、彼の博士号は「国内外の看護師のためのオープン・ラーニング・リソースの開発に焦点を当てた」ものです。2007年にチャンネルを開設して以来、彼は様々な医療トピックについて何千本もの動画を投稿してきましたが、パンデミックが始まって以来、主にCOVID-19に焦点を当て、イベルメクチンのような根拠のない 治療法喧伝し、犠牲者の数を最小限に抑えた誤解を招く死亡統計を広めワクチンの安全性に関するデータを誤って解釈しています。

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