アルツハイマー症の予防と、クルクミン、緑茶、 lion’s maneのようなサプリメントとの関連を検証するには、更なる証拠が必要です。

【主張】

  • 3つのサプリメント(クルクミン、緑茶、lion’s mane)により、アルツハイマー症が始まる前に食い止めることが出来る。

【詳細評定】

裏付け不十分:

  • クルクミン、緑茶、lion’s maneといったサプリメントがアルツハイマー症の予防や進行に及ぼす影響については、現在の所、実際にはまだ科学的に不確かな部分が残っています。

  • これらの関連性が因果関係であるかどうかを証明するためには、ヒトを対象とした臨床試験による更なるエビデンスが必要です。

【キーポイント】

  • アルツハイマー症とは、記憶、思考、行動に影響を及ぼす進行性の神経変性疾患です。

  • 治療法や予防法は確立されていませんが、いくつかの研究では、バランスのとれた食事、定期的な運動、喫煙を避けるといった健康的な生活習慣を維持することがアルツハイマー症のリスク軽減に関連すると示唆されています。

  • 特定のサプリメントがアルツハイマー症のリスク軽減に関連する可能性があることは、動物実験やヒトを対象とした小規模な臨床試験から得られた限られたエビデンスによって示されているものの、この関連性を確証するには更なるエビデンスが必要です。

【レビュー】

2024年11月下旬、Facebook上でシェアされたリールでは、クルクミン、緑茶、lion’s maneの3つのサプリメントが「アルツハイマー症を発症前に食い止める」ことが可能だと主張されていました。この記事を書いている時点で、63,000以上のインタラクションがありました。このリールは2023年12月にTikTok上で既にシェアされ、何千ものインタラクションを獲得しました。

このリールのスピーカーであるRobert W. B. Loveは、自らを「アルツハイマー症を科学で予防することを専門とする神経科学者」と説明しています。以前のクレームレビューで、Science FeedbackはLoveが神経科学ではなく、認知心理学の学位を持っていることを明らかにしています。

注目すべき点は、これらの分野が異なることです。認知心理学は人間の行動に焦点を当て、知覚、記憶、意思決定といった精神的プロセスを理解するのに対し、神経科学は脳の解剖学や 機能といった、これらのプロセスの根底にある生物学的メカニズムを研究するものです。心理学者はアルツハイマー症に伴う気分や行動の変化を研究することはあっても、神経科学者とは異なり、病気の原因やメカニズムを研究したり、治療法を開発したりすることはありません。

また、米国FDAは、栄養サプリメントについて、処方薬ほど厳しく規制していないため、市販前の承認や安全性・有効性に関する厳格なテストが実施されていない点にも注意が必要です。

以下に説明するように、現在アルツハイマー性痴呆症に対する治療法はありません。また、クルクミン、緑茶、lion’s maneがアルツハイマー症の発症を予防することが出来るというヒトでの研究からのエビデンスもありません。

アルツハイマー症の予防は可能でしょうか?

アルツハイマー症は、主に記憶、思考、行動に影響を及ぼす進行性の神経変性疾患です。軽度の記憶障害や混乱から始まることが多いですが、進行すると認知機能が著しく低下し、日常生活に支障をきたしたり、性格が変化したりします。認知症の最も一般的な原因であり、現在のところ治療法は確立されておりません。

同様に、アルツハイマー症を予防する確証ある方法もありません。アルツハイマー症のリスクは、遺伝的、環境的、生活習慣的な要因の組み合わせによって左右され、特定の戦略がアルツハイマー症のリスクを軽減する上でどのような役割を果たすかを理解するための研究が進行中です。

いくつかの研究では、健康的な食生活の維持、定期的な身体活動への参加、喫煙の回避、精神的・社会的に活動的であることといった健康的なライフスタイルの選択がアルツハイマー症のリスクを低下させる可能性があることが示唆されています[1]。健康的な血圧と血糖値を維持することは、アルツハイマー症の危険因子でもある高血圧と糖尿病の発症を予防するのに役立ちます[2]。

緑茶

緑茶は、カメリアシネンシスという植物の葉から作られるお茶の一種なのです。緑茶にはエピガロカテキンガレート(ECGC)[3]という化合物が含まれており、試験管や実験室の細胞内でTauタンパク質の凝集を防ぐことが出来ます[4,5]。このタンパク質はアルツハイマー症の特徴の一つであり、アルツハイマー症の発症に関与していると考えられています。米国国立老化研究所(NIA)によりますと:

神経原線維のもつれは、Tauと呼ばれるタンパク質が神経細胞内に異常蓄積したものです。健康な神経細胞では、通常Tauは微小管に結合して安定化します。しかしながら、アルツハイマー症を発症した場合、異常な化学変化によってTauが微小管から切り離され、他のTau分子とくっつき、神経細胞内で最終的に結合してもつれを形成する糸を形成するようになります。これらのもつれは神経細胞の輸送システムをブロックし、神経細胞間のシナプス伝達を阻害します。

https://www.nia.nih.gov/health/alzheimers-causes-and-risk-factors/what-happens-brain-alzheimers-disease

そのため、ECGCがもつれたTauを分解する能力があるかどうかを評価した研究もなされています。この効果によって、アルツハイマー症の進行が抑えられるのではないかと期待されていたわけです。しかしながら、「EGCGは脳内に容易に浸透することが出来ず、加えてTau以外の多くのタンパク質と結合し、その効果を弱めるため、EGCG単独では有効なアルツハイマー症治療薬とはなりません」、とNIAは指摘しています

アルツハイマー症患者の死後脳組織を対象としたある予備研究では、EGCG単体では限界があることから、ECGCを複製した分子がもつれたTau線維をほどくことが可能かどうかを、コンピューターシミュレーションを用いて検討する研究が実施されています[6]。研究者らは、試験した分子のいくつかは確かにTau線維の絡まりをほぐしていることを発見したものの、因果関係を確認するためには更なる研究が必要であると指摘しました。

また、緑茶の茶葉は加工が最小限に抑えられており、紅茶の茶葉よりも酸化が少ないため、天然の緑色とポリフェノールの一種である、カテキン等の有益な化合物の多くを保つことが可能になっています。ポリフェノールは植物性食品に含まれる化合物で、細胞を酸化ダメージから守る働きがあります。

いくつかの研究では、カテキンのようなポリフェノールは、アルツハイマー症に関連する2つの要因である酸化ストレスや炎症から脳を保護するのに役立つ可能性が示唆されています。

例えば、認知機能障害を有する12人の高齢者を対象としたある小規模研究では、緑茶粉末を3ヶ月間摂取した参加者は認知機能の改善を示しました[7]。この研究はアルツハイマー症に特化したものではありませんでしたが、緑茶エキスの定期的な摂取が認知機能に保護的な効果をもたらす可能性が示唆されました。しかしながら、この研究の重要な限界は、サンプルサイズが小さいことであり、より広い集団に対する知見の一般化可能性が低くなっています。

またLoveは、「1000人の日本人が1日2杯の緑茶を飲むと、認知症の症状が43%減少した」という観察研究にも言及しています。これは、The American Journal of Clinical Nutritionに掲載された2006年の研究を指していると思われますが、確かに緑茶を1日2杯以上飲むと、認知障害の有病率が低くなることが分かりました[8]。

しかしながら、この研究の限界の一つは、緑茶の摂取と認知障害の減少との間に因果関係ではなく関連性を見出したということです。これは、観察研究の典型的なものであり、変数間の関連を検証するためには、通常、無作為化臨床試験を必要とします[9]。

lion’s mane

lion’s mane(Hericium erinaceus)は食用キノコで、歴史的に伝統的な漢方薬として用いられてきました。ヘリセノンやエリナシンのような生理活性化合物を含み、神経成長因子の産生をサポートする可能があります。

Science Feedbackが以前のレビューで明らかにしたように、いくつかの研究は、lion’s maneがニューロンの成長と結合を促進する化合物を含むことを確かに示しました。しかしながら、これらの研究は動物で実施されたものであり[10,11]、その結果はヒトには当てはまらない可能性があることを意味します。

ヒトを対象とした2つの小規模な臨床試験では、lion’s maneの摂取が認知機能の改善と関連しているというわずかなエビデンスが見つかっています[12,13]。これらの結果は有望かもしれませんが、両方の研究で評価された参加者は50人未満でした。

前述しましたように、大規模臨床試験からはより強力な結論を導き出すことが可能で、関連性が因果関係なのか単なる偶然なのかをより容易に立証することが出来ます。大規模ランダム化比較試験は、参加者を無作為に異なるグループに割り当てるため、バイアスや交絡変数を最小限に抑えることが出来、その結果、因果関係についてより信頼性の高い結論が得られるからです。

また、Science Feedbackが以前、Loveがオンラインで、lion’s maneのサプリメントを販売しているのを発見し、「脳機能の改善に役立つ」と主張していることも注目に値します。健康の専門家を名乗りながらサプリメントをオンラインで販売している人物には、利益相反の可能性があるため注意が必要です。

今回の例では、上記のように、lion’s maneの効能とされる主張には、ヒト試験による確固とした臨床的証拠が欠けています。lion’s maneがアルツハイマー症に特化した効果的な治療法であるかどうかを判断するには、より多くのエビデンスが必要です。

クルクミン

ウコンに含まれる活性化合物であるクルクミンは、抗炎症作用と抗酸化作用を示します。クルクミンは、実験室で培養された細胞におけるβアミロイドタンパク質の塊の蓄積を防ぐ可能性を実際に示しています[14]。NIAによりと、これらのタンパク質の塊は「細胞機能を破壊するプラークを形成」し、アルツハイマー症の特徴となっています。

しかしながら、ヒトにおけるクルクミンの有効性は、生物学的利用能としても知られるクルクミンの体内吸収率によって制限されています[15]。緑茶やライオンのたてがみと同様に、クルクミンがアルツハイマー症の予防や進行に効果的な治療法となり得るかどうかを特定するためには、更なる研究が必要です。

結論

  • 前臨床研究では、アルツハイマー症の予防と進行におけるクルクミン、緑茶、lion's maneの潜在的な効果について、いくつかの有望な結果が示されているものの、ヒト臨床試験から得られた利用可能なエビデンスは、認知症の予防や治療にこれらのサプリメントを使用することを支持するには不十分なままです。

  • 現在までに実施された数少ないヒトでの研究は、概してサンプル数が少なく、認知機能の改善においてわずかな効果しか示していません。

  • 要するに、認知症の治療または予防における緑茶、lion's mane、クルクミンの有効性について推奨する前に、より確実で大規模な臨床試験が必要です。

引用文献

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