Bryan Ardisの主張に反して、レモンバームが鳥インフルエンザの治療薬であるというエビデンスはありません。

【主張】

  • レモンバームがH5N1を含む全ての鳥インフルエンザを中和・破壊することは既に証明されている。

【詳細評定】

裏付けが不十分です:

  • 発表された科学的研究を検討した結果、レモンバームがH5N1を含む鳥インフルエンザウイルスに効果があるという主張を裏付けるエビデンスは見つかりませんでした。

【キーポイント】

  • 鳥インフルエンザは、主に鳥に感染するインフルエンザウイルスによって引き起こされる病気です。

  • H5N1亜型のウイルスは、2021年以降、数億羽の鳥の死亡の原因となっています。

  • H5N1亜型は、稀ではあるが鳥からヒトへの感染によってヒトにも感染する可能性があります。

  • これまでのところ、ヒトからヒトへの感染は確認されていません。

  • しかしながら、ヒトへのH5N1感染は致命的であり、死亡率は最大50%であることが確認されています。

  • このため、H5N1感染者は公衆衛生機関によって注意深く監視されています。

【レビュー】

《The Dr. Ardis Show》の映像において、カイロプラクターのBryan Ardisが、レモンバームはH5N1型を含む 「全ての鳥インフルエンザを中和し、駆逐する」ことが証明されたレメディであると主張しました。動画の抜粋はFacebookTikTokでも公開され、20万回以上再生されました。

Science Feedbackが以前お伝えしましたように、Ardisは不正確で根拠のない健康に関する主張を喧伝してきた実績があります。今回も、入手可能な科学的結果は、レモンバームに関する彼の主張を支持しているものではありません。以下にその理由を説明します。

Ardisの主張は、鳥インフルエンザの亜型、特にH5N1亜型のパンデミックの可能性に対する懸念が高まる中でなされています。

鳥インフルエンザとは、一般的に鳥類にのみ感染するA型インフルエンザウイルス亜型によって引き起こされる病気を指しますが、これらのウイルス亜型の一部は時折、人間を含む哺乳類にも感染することがあります。鳥インフルエンザ・ウイルスの亜型の中には、鳥の間で重篤な症状を引き起こさないため低病原性と見なされるものもあれば、動物を短期間で死に至らしめる高病原性のものもあります。

A型インフルエンザウイルスは、ヘマグルチニン(H)とノイラミニダーゼ(N)という2つの重要な表面タンパク質に基づいて、亜型が分類されます。これらのタンパク質の組み合わせによって、現在ヒトの間で流行しているH1N1H3N2のような亜型が決定されます。

現在懸念されている鳥インフルエンザの亜型の内、代表的な物はH5N1です。H5N1は1996年に確認され、2021年以降世界中に広がり、2億羽以上の鳥が死亡しました。ヒトに感染することは滅多にありませんが、感染した場合の死亡率は50%を超えます。この数字に照らし合わせますと、メタ解析ではCOVID-19の死亡率は0.19~5%と推定されており[1]、2018/19インフルエンザシーズンのデータに基づく米国の季節性インフルエンザの死亡率は0.1~0.2%です

これまでの所、H5N1がヒトからヒトに感染するというエビデンスはないため、ヒトに対する当面の脅威は低くなっています。しかしながら、アメリカの酪農場において牛の間でH5N1の感染が最近発生したことから、ウイルスに新たな変異が生じ、ヒトを含む異なる宿主に感染しやすくなるのではないかという懸念が高まっています。このことは、このウイルスに感染したヒトの死亡率の高さと共に、この亜型が保健当局によって厳重な監視下に置かれている理由を説明しています。

Melissa officinalisとしても知られるレモンバームは、ミント科の植物です。マウントサイナイによりますと、レモンバームは何世紀にもわたって伝統医学で鎮静作用のあるハーブとして使われてきました。レモンバーム煎じ薬やレモンバーム抽出物がストレスを軽減し、睡眠を促進することを示す臨床研究も存在します。また、レモンバームクリームがヘルペス感染による唇のただれを軽減することを示唆する研究もあります。

Ardisは自身のウェブサイトで、レモンバームの抗インフルエンザ特性を裏付ける証拠として、ある科学的研究を引用しています。しかしながら、この研究は、レモンバームのエッセンシャルオイルが、ペトリ皿で培養した細胞においてH9N2ウイルスの複製を減少させたことを報告しているに過ぎません。H5N1やインフルエンザに対する人間の免疫に対するレモンバームの効果については調査していません。

更に、レモンバームが鳥インフルエンザに効くことを証明した科学的研究は他に見当たりません。米国NIHが主催する生物医学査読付き出版物のリポジトリであるPubmed&で検索したところ、レモンバームのインフルエンザウイルスに対する効果に関連する論文は2つしかヒットしませんでした。

最初のものは、Ardisの引用したものです。二つ目の研究では、H1N1に感染したマウスにレモンバームエキスを投与した結果、肺のウイルス量が減少し、肺炎が予防されたことが示されています。Ardisのウェブサイトで販売されているレモンバーム入りのサプリメントは、レモンバームがインフルエンザウイルスから守るという主張を裏付ける証拠として、最初の研究を引用しています。

これらの研究はいずれも、ヒトを対象とした臨床研究ではありません。試験管内実験や動物実験は研究に不可欠なものです。しかしながら、予防法や治療法の安全性と有効性を証明する唯一の方法であるヒト臨床試験に取って代わることは出来ません。

このようにデータがないことから、Ardisの主張には裏付けがないことが分かります。レモンバームが鳥インフルエンザを治癒したり予防したりすることは証明されていません。

注記:PubMedで使った検索クエリ―

& Pubmed query: (“lemon balm”[Title] OR “Melissa officinalis”[Title] OR M. officinalis[Title]) AND (“bird flu”[Title] OR “avian flu”[Title] OR H5N1[Title] OR influenza[Title])

引用文献:

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