WHOのデータベースで見つかった多発性硬化症やCOVID-19ワクチンに関する研究を誤認させる投稿がありました。
【主張】
WHOは、COVID-19ワクチンが多発性硬化症につながる可能性があることを認めました。
【AP通信の評定: 誤り】
WHOのウェブサイトのデータベースには、最近のMSの2つの症例を調べた研究についての会議発表の抄録が含まれています。
この研究では、COVID-19ワクチンとの潜在的な関連性があることが判明しましたが、世界保健機関と多発性硬化症の専門家によりますと、ワクチン接種が神経疾患を誘発すると断定的に結論付けるものではありませんでした。
また、研究著者の1人は、COVID-19ワクチンよりもCOVID-19感染の方がMSを誘発するリスクが高いことを強調しています。
【事実関係のレビュー】
ソーシャルメディアユーザーが、WHOがCOVID-19ワクチンが多発性硬化症に繋がる可能性があることを発見したとする投稿を共有しています。
多くの人が、「COVID-19ワクチン接種は、SARS-CoV-2スパイク・プロテインとミエリン・ペプチドを認識する交差反応性CD4+T細胞を介して多発性硬化症を誘発する可能性がある」というタイトルの最近の研究内容のスクリーンショットを共有しています。
「WHOが何を認めているのか見てみましょう」、と スクリーンショットを共有したツイッターのあるユーザーは書きました。
「神聖なる女神様、WHOのサイト御自らから」(“HOLY. MOTHER. OF. GOD. From the WHO site itself,”)と、スクリーンショットを共有した別のTwitterユーザーは書き、この投稿は金曜日の時点で11,000回以上リツイートされました。同様の投稿は、Instagramでも共有されています。
MSは、神経線維の保護膜を免疫系細胞が誤って攻撃し、神経線維を徐々に侵食することで発症する疾患で、障害をもたらす可能性はありますが、死亡することは殆どありません。
全米多発性硬化症協会によりますと、この慢性疾患の正確な原因は不明ですが、100万人以上のアメリカ人を苦しめており、痺れと疼きから気分の変化、記憶障害、痛み、疲労、失明、そして麻痺に至るまで、幅広い症状を引き起こすとのことです。
ソーシャルメディアに流れたスクリーンショットは、同社の《Global COVID-19 Research Database》で検索可能な研究結果の抄録を示したものです。しかし、それは、WHOが作成した論文でも、公式に承認したものでもありません。
スイスのチューリッヒ大学病院の研究者によるこの抄録は、《Multiple Sclerosis Journal》に2022年に掲載されたもので、多発性硬化症の2症例を調査したものです。 mRNAを用いたワクチン接種を受けた患者のすぐ近くで発症した多発性硬化症の2例を調べ、COVID-19の接種によって誘発された可能性があると結論付けたと、専門家はAP通信に語っています。
また、ジュネーブにある公衆衛生機関は、今回の研究は限定的であり、この結果を確認するためには追加の研究が必要であると注意を促しています。
「症例対照研究は、一般的に後ろ向きな研究であるため、曝露と結果の相関関係を立証するために用いることは可能ですが、因果関係を立証することは不可能です」と、同機関は書いています。
この研究の著者の一人であるチューリッヒ大学の神経学教授、Roland Martin氏は、この研究が、少なくとも研究対象となった2人の患者において、ワクチンがMSの発症に関連していたことを示していると述べています。
しかし同氏は、MSには遺伝的素因や環境要因等、他にも多くの原因が考えられるため、要旨の表現が「恐らく強すぎる」ことを認めています。
「因果関係を証明するには、異なるタイプの研究(実験)を、非常に多くの人を対象に、複数の場所で実施する必要があります」、「症例報告では、原因と結果を判断することは出来ません」と、彼女は電子メールに書いています。
Fiol氏はまた、抄録の序文で、MSによって引き起こされるタイプの神経系障害が、COVID-19ワクチン接種後よりもCOVID-19感染後に多く発生することが他の研究によって明らかにされていると指摘しました。
また、Journal of Neuroimmunology誌に昨年掲載された研究も同様に、COVID-19の接種後に発症した少数のMSの症例について調べていることを指摘しました。
しかしながら、オハイオ州にあるクリーブランド・クリニックの神経学研究所の研究者は、調査した5症例から「ワクチン接種とMS発症の因果関係は断定出来ない」と判断し、更なる研究を勧めています。
多発性硬化症ジャーナルの出版社であるSage社(カリフォルニア州)の広報担当者であるCamille Gamboa氏は、この研究が公開された研究ではなく、昨年の多発性硬化症の治療と研究のための欧州委員会の会議で発表された他の全てのものと共に公開された抄録であることを強調しました。
「抄録は多くの場合、不完全な研究を表すものであり、フィードバックを得たり、共同研究者を見つけたりするために使用されます。それらはいかなる方法でも査読されておらず、アブストラクトの出版は、会議セッションで発表された論文やポスターの出版と同じではありません」
カリフォルニア大学サンフランシスコ校の神経科教授であるStephen Hauser氏は、関与している研究者は、世界のMS研究のリーダーとして認められていると述べています。
しかし、限られた研究に基づいて結論を出すことは「かなり危険」であると述べています。
「彼らは、様々なウイルスや細菌への暴露が、脳組織に対する誤った免疫反応につながる可能性を理解する上で世界をリードしてきました」、と Hauser 氏は、研究者を参照して電子メールで書いています。「この極めて予備的な報告は、そのような一連の研究に加え、SARS-CoV2由来のタンパク質が、自己免疫を誘発または増幅させる可能性のある一般的な病原体の増加するリストのもう1つであることを示唆しています」
この記事は、この研究の著者の一人からのコメントを含むために更新されました。