ヒドロキシクロロキンやイベルメクチンが癌を治すという証拠はありません;癌や多発性硬化症は、整形外科医の主張に反して、寄生虫だけが原因ではありません。

【主張】

  • 癌が寄生虫だったらどうする?

  • 癌は寄生虫である。

  • マクドナルド博士が多発性硬化症患者の一連の解剖を行なったところ、100%の患者の脳と脊髄に寄生虫がいた。

  • 抗寄生虫薬を飲めば、COVID-19ワクチンに含まれる「ナノ合成寄生虫」を駆除でき、COVID-19ワクチンによる癌等の病害を防ぐことが出来る。

【評定】

《不正確》

  • ある種の癌は、特定の寄生虫による慢性感染と関連していますが、癌の危険因子は様々なものがあります。

  • 癌は寄生虫だけが原因ではありません。

  • 多発性硬化症の正確な原因は不明です。

  • リスク要因としては、遺伝的素因や Epstein-Barr ウイルスへの感染が挙げられますが、寄生虫との因果関係は確立しておりません。

《裏付けがない》

  • ヒドロキシクロロキンまたはイベルメクチンの癌細胞への影響については、細胞培養や動物を用いた前臨床試験がいくつかあります

  • しかしながら、どちらもヒトの癌を効果的に治療することを臨床試験で示したものではありません。

【キーポイント】

  • 特定のウイルスや寄生虫を含む様々な感染因子は、特定の癌を発症するリスクを高める可能性があります。

  • 感染性物質が直接DNAを損傷して突然変異を引き起こしたり、間接的に慢性炎症を引き起こしたりといった様々な形で、細胞が癌化する可能性はあります。

  • 多発性硬化症(MS)は、自己免疫疾患であると考えられている神経疾患です。

  • 現在までに、MSの危険因子として確立されているのは、遺伝子と感染症です。

  • しかしながら、寄生虫はこれらの危険因子の中には含まれておりません。

【レビュー】

2023年5月5日に投稿されたFacebookの動画は、寄生虫が癌や多発性硬化症を引き起こすと主張し、13万回以上再生されました。この動画は、ポッドキャスト《After Hours with Dr. Sigoloff》の2022年12月5日のエピソードからの抜粋で、その中で整形外科医のLee Merrittがこの主張をしています。このポッドキャストは、米陸軍の医師で、国防医療疫学データベースがCOVID-19ワクチン接種による陸軍兵士の健康問題の大規模な 増加を示したとのデマ主張をした3人の医師のうちの1人、Samuel Sigoloffが司会を務めています。

➡僕のnoteを以前から読んで頂いている方はLee Merrittと見た瞬間に「はいはい。またデマ吐きおばちゃんの見る価値の無い戯言ね」と思われるでしょうから、以下翻訳しませんでもいいんですけどねwww。

Merrittは、反主流派(=あたおかw)医療団体 America's Frontline Doctors のメンバーです。彼女はCOVID-19とCOVID-19ワクチンについて、以前にも虚偽の主張をしたことがあります;Health Feedbackは、以前のレビューでこれらの主張が不正確である理由を説明しています。

MerrittはSigoloffのポッドキャストで、COVID-19パンデミックに関する広範な議論の中で主張しましたが、これは単に虚偽の主張の長いリストの中の1つです。Merrittは、いくつかの事柄の中で、次のように主張しました、

本レビューでは、癌と多発性硬化症は寄生虫によって引き起こされ、COVID-19ワクチンには寄生虫が含まれており、ヒドロキシクロロキンとイベルメクチンはワクチン中の「ナノ合成寄生虫」を除去して癌を予防することが出来るという、 Merrittの主張に焦点を当てます。

《癌は感染症など様々な要因で発生する可能性があり、全ての癌が寄生虫によるものではありません》

は、制御不能な成長と増殖をもたらす細胞の突然変異によって発生します。特定の病原体に感染すると、様々な形で癌のリスクが高まります。よく知られている例としては、ヒトパピローマウイルス(HPV)があり、DNAを直接傷つけて突然変異を起こします。HPVは子宮頸癌、口腔咽頭癌、肛門癌の原因となる可能性があります。

また、B型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスもその一つです。これらのウイルスに慢性的に感染していると、肝臓癌を発症する可能性が非常に高くなりますが、これは、両ウイルスが、例えば、突然変異を起こしやすくしたり、細胞の増殖を制御する細胞周期を阻害することによって、直接的または間接的に癌化を起こしやすくするためです[1、2]。

また、これらのプロセスの一部は、一握りの寄生虫に感染した際にも発生します。WHOに属する国際がん研究機関(IARC)は、Schistosoma haematobium、Opistorchus viverriniClonorchis sinensisの3つの寄生虫のいずれかに慢性感染している場合、癌を引き起こす(グループ1発癌物質)と認定しています。S. haematobiumは膀胱癌[3]に、O. viverriniとC. sinensisは胆管癌(胆管の癌)に関連しています。

2012年に発表されたIARCの研究報告書によりますと、これまでのところ、慢性的な炎症が細胞の癌化の原動力であるとする科学的根拠が示されています。例えば、腫瘍の成長と生存を促進する化学的シグナルの分泌や、DNAを損傷するフリーラジカルの生成など、様々な形で発生します。

つまり、特定の寄生虫に慢性的に感染していると癌になる可能性がありますが、「癌は寄生虫」というMerrittの主張は的外れなのです。喫煙、肥満、アルコールといった様々な危険因子が、癌を発症する可能性を高めています。Merrittの主張がそう思わせてしまうのかもしれませんが、癌は寄生虫だけが原因でもありませんし、寄生虫で構成されているわけでもありません。

《COVID-19ワクチンに寄生虫は含まれていませんし、ヒドロキシクロロキンもイベルメクチンも、癌治療薬としては実績がありません》

Merritt はまた、ヒドロキシクロロキンや イベルメクチンといった抗寄生虫薬を使えば、COVID-19ワクチンに含まれる「ナノ合成寄生虫」を駆除することが可能で、癌を治療することも可能だと主張しています。

COVID-19ワクチンの内容に関する誤った情報は、パンデミックの間中、人々の恐怖や嫌悪といった感情的な反応を引き出し、一部の人々の「ピュアな体」でありたいという願望に乗じて流布されてきました。その結果、人々のワクチン接種を躊躇させることになりました。

➡日本語訳が上手くないかもしれません。ニュアンスとして喩えると、旧車を(現代に即した改良版の部品を使うこと無く)オリジナルに忠実にレストアするマニアと同じような感覚です。

これらの主張には証拠がないにも関わらず、ワクチンの内容物とされるものは、酸化グラフェン、マイクロチップ、寄生虫といった多岐にわたっています。COVID-19ワクチンに含まれる寄生虫を示すとされる画像は、出所不明画質が悪く既知の寄生虫と識別不可能、或いは単に古い映像で全く異なる生物更には非生物の映像を誤って伝えているものでした。

フランスの薬物政策透明性観測所(l'Observatoire de la transparence dans les politiques du médicament)の共同設立者であるJérôme Martin氏は、France 24 Observersに対し、COVID-19ワクチンの中に寄生虫やその他の生物が存在することは不可能です、と語っています。「ワクチン内の水やその他の液体は、厳しい条件下で精製されており、ワクチン内に寄生虫やその他の生物が存在することはあり得ません」と述べています。

ヒドロキシクロロキンや イベルメクチンといった抗寄生虫薬は、証拠がない にも関わらず、COVID-19の治療薬としても喧伝されていますが、人の癌治療に有効であるという主張には、十分な証拠がないのです。

ヒドロキシクロロキンやイベルメクチンは、いくつかの前臨床試験でがん細胞に対する効果を検証していますが、現時点では、これらの研究は、どちらの薬も人の癌を効果的に治療すると結論づけるのに必要な証拠を示していません。

また、これらの研究結果も賛否両論です。ヒドロキシクロロキンと類似性の高い薬剤であるクロロキンが、マウスの腫瘍の成長を遅らせる可能性があるという報告もありますが[4,5]、逆に腫瘍の成長を加速させたという報告もあります[6,7]。

同様に、これまでのイベルメクチンの癌に対する効果に関する研究は、細胞培養(実験室で皿の中で増殖する細胞)を用いた前臨床試験に限られています。ケンタッキー州のマーキー癌センターの臨床移行担当副所長であるSusanne Arnold氏は、こうした研究は、この薬が人の癌に効くことを証明するには不十分であるとし、「人の癌で成功した結果を得た臨床試験の報告を私は知りません」とAP通信に対して述べています

イベルメクチンが乳癌に及ぼす効果を他の薬と組み合わせて研究しているシティ・オブ・ホープの免疫生物学部長Peter Lee氏は、「イベルメクチンが癌細胞を殺せるというのは確かに真実だ」としながら、これには「免疫活性化」を組み合わせる必要があり、「今は本当にそれを解明している最中です」とAFPに対して述べています

また、薬剤の組み合わせは、特定の時期に特定の量を服用することでしか機能しないことも強調しました: 「単に動物病院でもらったイベルメクチンを飲めばいいというのは、全く通用しません」

NCIは、イベルメクチンは臨床試験の結果に基づいて、特定の寄生虫感染症の治療薬として米国食品医薬品局から承認されていると述べました。一方、イベルメクチンがあらゆる癌に有効であることを証明する類似した臨床試験については、「承知していない」と述べています。具体的には:

  • 米国国立医学図書館(NLM)のウェブサイトClinicalTrials.govには、イベルメクチンに関する214件の試験(進行中、未登録、完了、終了)が掲載されています。

  • このうち、他の薬剤との併用で癌に対する効果を研究しているのは4件のみです。

  • また、転移性トリプルネガティブ乳癌を対象にイベルメクチンとペムブロリズマブの併用療法を研究している新研究が1件あり、まだ被験者募集はしておりません。

《多発性硬化症が寄生虫によって引き起こされるという信憑性のある証拠はありません》

多発性硬化症(MS)が寄生虫によって引き起こされるという主張を裏付けるために、Merittは、MS患者の組織の検査に基づくとされる、「多発性硬化症は寄生虫症である」と主張したフロリダ州の病理学者Alan Macdonaldの仕事を引用しました。

しかしながら、この研究が査読を受け、科学雑誌に掲載された形跡はなく、また多発性硬化症が寄生虫感染によるものであることを示す信憑性のある証拠も他にはありません。Macdonald はまた、慢性ライム病という概念も提唱しており、ライム病の原因物質であるBorrelia burgdorferiという細菌に持続的に感染することが、医学的に説明のつかない様々な症状の原因であると主張しています。

しかしながら、その根拠は不十分です米国感染症学会は、慢性ライムという言葉は「ライム病の客観的特徴を欠く、長引く原因不明の症状を持つ患者を含む、極めて異質な患者集団に適用されており、その多くは代替医療診断を受けていることが証明されています」と述べています。

多発性硬化症は、身体の免疫系がミエリンを誤って攻撃することが原因と考えられている慢性神経疾患です。ミエリンは、ニューロン(神経細胞)を被覆し絶縁する脂肪物質で、電気信号が脳との間を行き来するのを可能にするものです。MSでは、ミエリンが免疫システムによって破壊され、電気信号の伝達が阻害されます。

MSの正確な原因は未だ解明されていませんが、遺伝的素因や感染症等、MSのリスクが高くなる要因がいくつかあります。MSと最も強く関連している感染因子の1つは、伝染性単核球症(「mono」とも呼ばれる)の原因でもあるEpstein-Barrウイルスです。

興味深いことに、MerrittとMacdonaldの主張とは逆に、ある種の寄生虫に感染すると、MSを発症する可能性が低くなったり、再発が少なくなるという研究結果もあります。米国多発性硬化症協会(MSAA)は、「寄生虫はMSの発症におけるリスク低減要因の可能性がある」と表明しています

「この例の寄生虫は『蠕虫(ぜんちゅう)』と呼ばれるものであり、多種多様な虫を指しています。中には無害と思われるものもあり、子供の頃に蟯虫を持っていた人も少なくありません。研究により、寄生虫は免疫系を変調させ、その反応を鈍らせることが分かっています。寄生虫を持っている人は、MSと診断される可能性が低くなります」

しかしながら、MSAAは、特定の寄生虫がMSを悪化させる可能性もあると注意を促しています。英国の非営利団体Multiple Sclerosis Trustによりますと、寄生虫がMSに与える影響に関する研究は小規模で、様々な結果が出ているとのことです。このため、MSのリスクと寄生虫感染の関係をよりよく理解するために、この分野ではまだ多くの研究が必要です。

更新(2023年5月15日):

第9段と第20段に米国国立がん研究所からの記述を追加しました。

《参考文献》

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