ヒトメタニューモウイルス(hMPV)は何十年も前から流行しており、Pfizer-BioNTech社のCOVID-19ワクチンの副作用ではありません。
【主張】
報告書の中で、Pfizer社はヒトメタニューモウイルスがmRNAワクチンの潜在的副作用の一つであることを明らかにした。
【詳細評定】
誤解を招く表現です:
ヒトメタニューモウイルス(hMPV)感染は、確実な副作用としてではなく、ワクチン接種後の有害事象としてPfizer社の文書に記載されています。
有害事象とは、ワクチン接種後に起こる現象ですが、ワクチンとの因果関係を示すエビデンスはありません。
これらの用語を混同することで、この主張は読者を誤解させ、因果関係が立証されていないにも関わらず、因果関係があると思い込ませています。
裏付け不十分:
北半球では、2024年と2025年の冬季にhMPVの症例が増加していますが、これはこの時期の多くの呼吸器系ウイルスに共通することです。
しかしながら、症例数はこの時期に予想される数よりも多くなく、米国でCOVID-19ワクチンが普及する前の症例数よりも少なくなっており、ワクチンが原因でhMPV感染が急増したという主張を裏付けるデータは存在しません。
【キーポイント】
ヒトメタニューモウイルス(hMPV)は上気道に感染し、一般的な風邪の原因となるウイルスです。
幼小児、高齢者、免疫抑制者といった脆弱な集団では、時に肺炎などの合併症を引き起こすことがあります。
hMPVは数十年前から流行しており、hMPV感染とCOVID-19ワクチンとの因果関係を証明するデータはありません。
【レビュー】
2025年1月、Pfizer社がPfizer-BioNTech社製COVID-19ワクチンの副作用としてヒトメタニューモウイルス(hMPV)感染を 「公表 」したとの主張がネット上に出回り始めました。ヒトメタニューモウイルスは、風邪に似た症状を引き起こす呼吸器ウイルスです。しかしながら、幼児や高齢者、免疫抑制患者といった弱い立場の人々には、肺炎のようなより重篤な疾患を引き起こす可能性があります。
2025年初頭、いくつかの国で感染者が増加したと報告され、注目を集めました。この流行はデマ情報の対象となり、ウイルスは新種であり、中国が非常事態宣言を出したという根拠のない主張もありました。
しかしながら、この主張は事実無根なものです。以下でその理由を説明します。
この主張は、2021年にPfizer社が米国FDAに提出した報告書の誤解に端を発しています。
この文書には、COVID-19ワクチン展開後の最初の3カ月間に報告された有害事象のリストが含まれていました。しかしながら、有害事象は副作用と同義ではないことに注意することが重要です。副作用はワクチンとの因果関係が証明されていることを意味しますが、有害事象はそうではありません。
実際、欧州医薬品庁(EMA)は有害事象を次のように定義しています:
前回のレビューで説明しましたように、有害事象とはワクチン接種者の間で観察される医学的状態であり、ワクチンによって引き起こされる場合もあれば、そうでない場合もあります。そのため、Pfizer社がCOVID-19ワクチンの副作用としてhMPVを表示したと主張するのは不正確です。
更に、COVID-19ワクチンとhMPVを結びつける妥当なメカニズムは存在しません。
hMPVは新しいウイルスではなく、2001年に初めて同定され、遺伝子解析によってその存在は1950年代まで遡ることが可能です[1]。インフルエンザ等の他の呼吸器系ウイルスと同様に、hMPVの感染者は一般的に冬季に急増し、その大部分は呼吸器飛沫や汚染された表面に触れることで感染します。
もしhMPVがCOVID-19ワクチンの副作用であるならば、COVID-19に対するワクチン接種が世界的に広範に行なわれていることから、hMPV症例の前例のない漸増が予想されるはずです。しかしながら、入手可能なデータはそうではないことを示唆しています。
イースト・アングリア大学医学部教授のPaul Hunter氏は、イギリスと中国におけるhMPVの有病率は冬の予想範囲内であると指摘しています。
同様に、米国CDCのデータによりますと、COVID-19ワクチン展開後の数年間におけるhMPV検査サンプルの陽性率は、COVID-19パンデミックとワクチン展開前の2019-2020年冬と同程度でした。陽性率のピークは2019-2020年の7.09%で、2021年から2024年までは7.77%から10.99%の範囲で推移していました。陽性率が最も低くなるのは2024年から2025年で、約2%となっています。このことから、疫学的観察結果は、COVID-19ワクチンがhMPV感染を引き起こすという主張を支持するものではありません。
引用文献
1 – van den Hoogen et al. (2001) A newly discovered human pneumovirus isolated from young children with respiratory tract disease. Nature medicine.