【親の気持ちを考えろ!】専門家によりますと、この研究は自閉症が「元に戻る」可能性を示すものではないとのことです。

SNS上でシェアされている誤解を招くような見出しや「奇跡」と呼ばれる結果に反して、米国での研究では重度の自閉症が「元に戻る」可能性は示されていません。

たった2人の少女の症例報告は、「疑わしい」方法に基づいた逸話的なものであり、彼女達が新しい行動を教えられたことで、いくつかの症状が覆い隠されたり、軽減されたりしたことを示すだけかもしれません、と専門家もこの研究のメディア報道を批判しています。

この研究についての新聞の見出しをシェアしたFacebookの投稿には次のように書かれていました:「自閉症は回復する可能性があると、科学者が発見」、「『奇跡的な』の研究により、重度の自閉症は回復する可能性がある」Xのある投稿は28,000ビューを超えました。

専門家によりますと、自閉症が「回復」することを示す研究ではないとのことです。

この研究は、Journal of Personalized Medicine(JPM)誌の自閉症の環境的要因の可能性の治療に関する特集号の一部として発表されたもので、生後20カ月頃に重度の自閉症と診断された一卵性双生児の女児の発達を追跡したものです。これは症例研究であり、臨床研究ではありません。

研究著者らは、臨床医と女児の両親による介入(食事療法、言語療法、応用行動分析等)の長いリストを説明し、自閉症治療の有効性を評価することを目的とした質問票である自閉症治療評価チェックリスト(ATEC)のいくつかの行動カテゴリーで女児のスコアが改善したことを報告しました。

しかしながら、専門家によりますと、この研究によって自閉症が回復する可能性があると主張するのは間違っているとのことです。何故なら、1つの症状のカテゴリーが減少しただけでは、症状や自閉症の診断が「回復」したとは言えませんし、2人というのは、結論を出すにはサンプルが少なすぎるからです。発表された研究も次のように認めています:「この報告は3人未満であるため、一般化可能な知識に貢献することを目的とした系統的な調査とは言えません。

専門家は、研究の実施方法にも矛盾があり、結論にも疑問符がつくと付け加えています。

研究の限界

この研究は、栄養や環境といった要因が自閉症に与える影響を調べる生物医学的アプローチをとっています、とマンチェスター大学の児童青年精神医学教授Jonathan Green氏は電話インタビューで語っています。

「この研究の序文には、自閉症がどの程度環境によるもので、どの程度遺伝性のものなのかについて、疑わしい点がいくつかあります」、「議論はありますが、自閉症は遺伝性が高いというのが科学的なコンセンサスです。複雑な遺伝性ですが、全体的に見れば、自閉症は遺伝性が高いのです」、とGreen教授は述べています。

報告書によりますと、少女達は自閉症スペクトラム障害の標準テストである自閉症診断観察スケジュール(ADOS)を使って評価されましたが、そのスコアは公表されませんでした。

あるテストはCOVID-19の大流行中に実施され、信憑性に欠ける結果が出た可能性があるかもしれません、とGreen氏は述べています。

「ADOSを上手く採点することが出来ないということです」、「それに、基本的にマスクをしている人を見ているわけですから、通常とは違う影響を受けることもあります。ちょっと変わった反応をすることもあるでしょう」
、と彼は付け加えています。

この研究によりますと、彼女達の回復は、「自閉症治療評価チェックリスト(ATEC)のスコアが、双子の片方では76点から32点へ、もう片方では43点から4点へと減少したことによって明らかになりました」

しかしながら、シェフィールド・ハラム大学で自閉症の上級講師を務めるLuke Beardon氏は、このチェックリストは主観的なものであり、自閉症ではなく、その人の行動が変わったかどうかを測定するものであると述べています。

「もしも行動レベルで、あなたが『よし分かった、(このおもちゃの製造元が)意図した方法ではないけど、この子はこのおもちゃで遊んでいる。このおもちゃの遊び方を行動的に教えよう、』と言った場合、その子は行動を変えますが、それは自閉症でなくなるわけではありません。あなたは彼らに対して異なった行動を教えただけなのです」

批判される研究

Daily Telegraph紙のために起草された手紙の中で、何人かの専門家は、幼少期における広範な介入は、子供の行動テストや診断テストでの得点に影響を与える変化をもたらす可能性があると述べています。

「しかしながら、この逸話的な事例研究は、『自閉症は回復可能かどうか』について何も語ることが出来ません」と、Rosa Hoekstra氏、Cathy Manning氏、David Menassa氏、Catherine Fava氏、Rachel Moseley氏が共同署名した書簡で述べています。

「これは方法論的に弱く、2人の子供だけを選択的に記述しており、十分に厳密なデータ収集と子供達の十分なフォローアップを欠いている」と書簡は続け、「2人の子供の変化に気付いた両親の逸話は、科学的な証拠とはなりません」と付け加えています。

これまでの研究で、自閉症の現れ方は時間と共に変化し、年齢と共に症状が軽くなる可能性があることが示されています。例えば、2020年に行われた研究では、3歳と6歳の子どもの自閉症症状の重症度を調べたところ、125人の参加者のうち30%近くが症状が軽減していることが判明しました

しかしながら、自閉症が消えて自閉症でなくなるという考えは、我々が自閉症について知っていることと矛盾しています、とボーンマス大学の心理学主任研究者であるMoseley氏はロイター通信に電子メールで語っています。

周囲環境の影響

症例研究の共著者であるメリーランド大学医学部のChristopher D'Adamo助教授は、他の研究でも特定の介入によって自閉症症状が改善することが分かっており、彼のチームの論文は症例報告の報告ガイドラインに従っていると述べています。

D'Adamo氏は電子メールで、自閉症は遺伝的なものなのか、環境による影響は少ないのか、という議論について次のように述べています:「我々は論文の中で、自閉症には遺伝的要因と環境的要因の両方がある可能性が高いことを示したいくつかの研究を引用しました。どちらに起因するのかは不明であり、かなり差があると考えられます」

「はっきりしているのは、自閉症は異質な診断であり、集団全体に一般化出来ることは極めて少ないということです。科学者達は、自閉症と診断された人々の病因と発達の軌跡の両方を理解するために、自閉症のサブタイプをよりよく定義し続ける一方で、(私達や上記のような)詳細な症例報告は、自閉的な人々の代表的でない集団の経験を捉えるための貴重な研究ツールなのです」

D'Adamo氏は、批評家が指摘したADOSの未採点はCOVID-19の流行によるものだと付け加えています。

「無責任な」報道

「我々は、何故このような記事が英国の新聞に掲載されたのか、全く困惑しています」と、全米自閉症協会の政策・研究・戦略担当アシスタントディレクター、Tim Nicholls氏は述べています。

「これは、双子一組のケーススタディであり、介入方法自体に疑問があります。ここから導き出される結論は何もなく、そうでないと示唆するのは無責任なジャーナリズムに過ぎません」

「私達は、粗悪な研究を読み解き、誤った情報が公表されるのを避ける手助けをすることが出来ると、繰り返し報道機関に伝えてきました」

専門家がこの研究を批判する記事を掲載したDail Mail紙はコメントを控えています。

The Daily Telegraph紙とJPMはコメントの要請に応えていません。

【評定:誤解を招きます】

  • 重度の自閉症と診断された2人の幼児における行動改善の可能性を説明した事例研究では、あるカテゴリーの症状の軽減が見られたものの、自閉症が「回復」することを示すものではありません。


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