イベント201は、当局がCOVID-19のパンデミックを知っていた、或いは計画したという証拠にはなりません。
【全主張】
コロナウイルスのパンデミックを模したイベント201は、COVID-19のパンデミックが既に起きていた、或いは始まろうとしていたことを当局が知っていた証拠となる。
【評定詳細】裏付けが不十分
2019年10月に開催されたイベント201では、コロナウイルスのパンデミックを模擬的に再現しました。
これは、コロナウイルスが既知のパンデミックリスクであったという事実によって説明出来ます。
同様のイベントは過去に既に開催されていました。
このイベントが実際にCOVID-19と関連していたことを示す根拠にはなりません。
➡『過去に発生した感染症のパンデミックを基にコロナウイルスのパンデミックモデルをシミュレートしてみたら、上手く状況を再現出来たが、これを偶々ではないと言い切れる証拠がありますか?』という話です。
【キーポイント】
パンデミックのリスクに対する認識は、COVID-19の出現以前から存在していました。
コロナウイルスのパンデミックの可能性は、少なくとも2003年のSARSの発生以来知られています。
それ故、このウイルス群は、イベント201のようなパンデミック対策イベントには論理的な選択肢となります。
従いまして、イベント201がCOVID-19の数カ月前に発生したという事実は、COVID-19がすでに知られていた、或いは計画されていたという証拠にはなりません。
➡COVID-19を #新型コロナウイルス と呼ぶことの妥当性が分かってきたのだから、SARSのような(旧型)コロナウイルスのパンデミック対策での知見を利用してシミュレーションするのは科学者として当たり前のアプローチです。
➡それを試してみようとしなかったら、ただの怠け者と言っていい位。
【レビュー】
Health Feedback及び他のメディアにおいて、COVID-19のパンデミックは計画されていた、或いは予想されていたという主張は何度も論破されています。それでも、COVID-19関連の誤報を広めたとしてInstagramから追放されたワクチン接種の著名な反対者であるRobert F. Kennedy Jr.が、2021年12月にコメディアンのTheo Vonが主催したインタビューの中でこの主張を繰り返すことを止めることは出来ませんでした。
インタビューの中でKennedyは、COVID-19の最初の登録患者が出る数カ月前である2019年10月18日にニューヨークで開催された「イベント201」というパンデミック・シミュレーション・イベントについて語りました。
イベント201は、ジョンズ・ホプキンス健康安全保障センター、ビルアンドメリンダゲイツ財団、世界経済フォーラムが共同で開催した実際のイベントです。イベント201の目的は、新たなパンデミックに直面した際の官民のリーダーの対応をシミュレーションし、「深刻なパンデミックへの対応において、大規模な経済的・社会的影響を軽減するために官民のパートナーシップが必要となる分野」を説明することでした。
イベント201のシミュレーションシナリオは、「コウモリから豚、そして人間に感染する新型の人獣共通感染症コロナウイルス」が、まずブラジルで蔓延し、その後世界中に広がっていくというものでした。このシミュレーションで使用されたウイルスは、「大部分がSARSをモデルにしているが、症状が軽い人々によって地域社会でより多く感染する」ものでした。
イベント201のシナリオでは、COVID-19のパンデミックを引き起こしたのと同じウイルス属の未知のコロナウイルスが登場しました。このイベントはCOVID-19の発生の数カ月前に発生したため、Kennedyらは、このイベントはCOVID-19のパンデミックが予期されていた、或いは画策されていた証拠である、或いは当局は2019年10月中旬に既に知っていたと主張しました。しかし、以下に示すように、入手可能な証拠はその主張を裏付けるものではありません。
イベント201を主催したジョンズ・ホプキンス健康安全保障センターは、このシナリオは純粋に架空のものであり、SARS-CoV-2の既存の知識とされるものに基づいていないことを明らかにしました:「我々の卓上演習には新型コロナウイルスの模擬が含まれていましたが、その架空のウイルスの潜在的影響のモデリングに用いた入力は[SARS-CoV-2]と同様ではありません。」
SARS-CoV-2やCOVID-19に関する予備知識がなくとも、シナリオにコロナウイルスを選んだことは理にかなっています。コロナウイルスは、ヒトに感染する呼吸器系ウイルスの一群として知られています。更に、コウモリ等の動物が、十分に説明されていない多くのコロナウイルスのキャリアであり、ヒトに感染する可能性のあるウイルスの生きた保存庫であることを、専門家は既に知っていました。
また、コロナウイルスがヒトに感染すると致命的な被害をもたらすことも、既に知られていました。2003年に発生したSARSは、774人の命を奪いましたが、その原因は、発生前には知られていなかったコロナウイルス、SARS-CoV-1でした。SARS-CoV-1は、イベント201の架空のシナリオと同様に、動物からヒトに感染しました。
従いまして、コロナウイルスのパンデミックは、パンデミック対策の訓練イベントとして合理的な選択でした。ボストン大学のグローバルヘルスと医学の教授であるDavid Hamer氏は、FactCheck.orgに対して、「コロナウイルス、SARS、MERSのような呼吸器ウイルスは、拡散する施設があるため、(イベント201)ような形式で使用するには良い例です」と述べました。
実際、パンデミックのシミュレーション演習は、緊急事態への備えの重要な部分として日常的に行なわれており、イベント201も例外ではありません。ジョンズ・ホプキンス健康安全保障センターは、過去にも同様のウイルス発生シミュレーションを開催し、コロナウイルス以外のウイルスを使った異なるシナリオを用意していました。2001年には、オルソポックスウイルス属に属する天然痘の発生をシミュレートしました。2018年には、パラミクソウイルス属に属するヒトパラインフルエンザウイルスと、ヘニパウイルス属に属するニパウイルスの両方の形質を持つウイルスのパンデミックをシミュレートしました。また、英国をはじめとする各国は、EU諸国における《Exercise Winter Willow》や口蹄疫演習のようなパンデミックシミュレーションやアウトブレイクシミュレーションを実施しています[1]。我々が持っている全ての証拠は、COVID-19パンデミックの数ヶ月前にイベント201が発生したのは偶然であり、意図的なものではないことを示唆しています。
全体として、これはイベント201が、いくつかの当局が既にSARS-CoV-2について知っていたという証拠を提供しないことを示しています。イベントの構成とシナリオの選択は、コロナウイルスがパンデミックに対する公衆衛生の対応に与える影響の重要性が確立されているため、正当化され、予想の範囲内でした。
引用文献
1 – Reddin et al. (2021) Evaluating simulations as preparation for health crises like CoVID-19: Insights on incorporating simulation exercises for effective response. International Journal of Disaster Risks Reduction.