《VAIDS》は実在する病状ではなく、ワクチン接種後症候群の原因については更なる研究が必要です。
【主張】
エール大学医学部の研究者が、mRNAワクチンの接種によってヒトの生物学的性質が変化し、長期的にスパイク・プロテインの産生が増加することを発見した。
研究者達は、COVID-19 mRNAワクチンはT細胞の免疫表現型を変化させ、VAIDSの引き金になると警告している。
エール大学の研究者達は、多くの人々がCOVID-19ワクチンのスパイク・プロテインによって引き起こされるワクチン接種後症候群(PVS)に苦しんでいる可能性があることを発見した。
【詳細評定】
情報源の記述内容を誤って伝えています:
COVID-19 mRNAワクチンがワクチン接種後症候群(PVS)を引き起こすという主張の裏付けとして参照された研究結果は、スパイク・プロテイン値の上昇との関連性を因果関係と混同して伝えています。
事実無根です:
SNS上でVAIDSと呼ばれているワクチン誘発性免疫不全症候群は、医学的に認められている症状ではありません。
更に、裏付けとして引用された研究は、この疑惑の症状について言及していません。
【キーポイント】
COVID-19ワクチンは、その安全性と有効性を保証するために、臨床試験で広範なテストを受けています。
これらのワクチンは、COVID-19による重症化、入院、死亡のリスクを減少させることが明らかになっています。
これらのワクチンが AIDS のような免疫不全を引き起こすというエビデンスはなく、それどころか、COVID-19 を撃退する能力を免疫系に与えてくれます。
過剰な疲労、不眠、めまいといった慢性的な症状を引き起こす稀な症状であるワクチン接種後症候群(PVS)の背後にある生物学的メカニズムは、現在まで十分に解明されておらず、更なる研究が必要となっています。
【レビュー】
2025年2月22日にシェアされたFacebook上のリールでは、COVID-19 mRNAワクチンが「ワクチン後天性免疫不全症候群」(VAIDS)を引き起こすと主張されていました。このリールはエール大学の研究者の研究を引用し、これらのワクチンが人間の生物学を変化させ、より具体的には「VAIDSの引き金となるT細胞の免疫表現型を変化させる」と主張しています。
このリールを投稿したのは政治評論家のLiz Wheelerで、彼女のアカウントには140万人以上のフォロワーが存在しています。公開時点で、このリールは63万回以上閲覧されています。Wheelerは、Science FeedbackやFactCheck.orgによる過去のレビューで示されているように、COVID-19やワクチンに関するデマ情報を拡散してきた過去があります。
Facebook, Instagram, TikTok上の他の投稿(例:、こちらと、こちらと、こちら)もエール大学の研究を引用していますが、その代わりに「ワクチン接種後症候群」(PVS)と呼ばれる別の症状を強調しています。これらの投稿は、研究者達がPVSはCOVID-19 mRNAワクチンに含まれるスパイク・プロテインによって引き起こされる可能性があることを発見したと主張するものでした。
これらのSNSへの投稿は、PVSやVAIDSを引き起こす犯人としてCOVID-19ワクチンを非難し、研究結果を誤って伝えています。実際には、この研究はPVSを引き起こす生物学的メカニズムをよりよく理解することを目的としていましたが、探索的なものに留まっており、COVID-19 mRNAワクチンとPVSの因果関係を証明する証拠を提供するものではありませんでした。更に、この研究はVAIDSを全く取り上げておらず、実際の医学的疾患とはなっていません。詳しくは後述します。
ワクチン接種後症候群は稀であり、その原因は未だ不明です。
「ワクチン接種後症候群」(PVS)とは、COVID-19ワクチンを接種した直後に、過度の疲労、脳内霧、不眠、めまいといった慢性的な症状を発症した人につけられる名称です。PVSの潜在的な原因に関する研究に貢献してきた心臓専門医のHarlan Krumholz氏は、2023年12月のFactCheck.orgのインタビューで、この症状がいかにして命名されたかを説明しています:
私達は、COVID-19ワクチン接種後すぐに始まる慢性的な症候群に罹患した人々の経験について述べています。原因が不明なので、ワクチン接種後症候群と名付けました。そのようなタイミングなので、そのように表現したのです。
SNSの投稿で引用されているPVSに関する「エール大学の研究」とは、PVSを引き起こす潜在的な生物学的メカニズムを探求したBhattacharjee氏らが2025年2月に発表したプレプリントを指している可能性が高いとのことです。このプレプリントでは、PVSを発症した人と発症していない人の免疫プロファイルの違いを調べた64人の小規模研究から得られた知見が紹介されています。その中で、PVS患者は「健康な対照群と比較して、より高レベルのスパイク・プロテインを体内に分泌している」という結果が報告され、一部のSNSユーザーは、PVSがCOVID-19 mRNAワクチン由来のスパイク・プロテインによって引き起こされることを意味すると解釈しています。
しかしながら、いくつかの理由から、この研究からこの結論を導き出すことはまだ出来ていません。
第一に、この研究はまだプレプリントであり、その研究結果はまだ査読を受けていないことを意味します。そのため、誤りや偏見、或いは専門家による厳密な審査を受けていない裏付けのない主張が含まれている可能性があります。2025年2月19日に発表されたニューヨーク・タイムズのインタビューで、免疫学者でプレプリントの共著者である岩崎明子氏は、著者らの研究結果は「何が人々を病気にしているのかを特定するものではありませんが、(PVS患者の)体内で何が起こっているのかを垣間見るための最初の一歩です」と語っています。
第二に、この研究のデザインには限界がありました。参加者の自己報告データに依存しており、過去の出来事を正確に思い出すことが困難であったり、意図せずに健康情報を過小報告したり誇張したりする可能性があるため、バイアスが生じやすくなっているからです。また、サンプル数が少ないため、PVSとスパイク・プロテイン値の上昇との間に因果関係があることを証明するのは困難なことです。
要するに、このプレプリントはPVSの生物学的背景の可能性を探る予備的なものであるということです。PVSの原因をよりよく理解するためには、更なる研究が必要です。
ワクチン誘発性AIDS(VAIDS)は実在の病気ではありません。
VAIDS(ワクチン誘発性AIDS)は医学的に認められている病気ではありません。これはCOVID-19ワクチンに関する間違った情報を拡散するために用いられてきた用語であり、主にヒト免疫不全ウイルス(HIV)によって引き起こされる病気である後天性免疫不全症候群(AIDS)と同様の免疫系障害を引き起こすことを示唆しています。
しかしながら、COVID-19 mRNAワクチンとVAIDSの関連性を示す証拠として引用されたプレプリントには、このいわゆる病状についての言及は一切ありませんでした。PVSの病理生物学的特徴を厳密に分析し、「この病態をよりよく理解し、診断および治療アプローチに関する今後の研究に役立てる」ことを目的としているからです。
しかも、COVID-19 mRNAワクチンは、HIVのように免疫系を変化させたり傷つけたりすることはありません。HIVやAIDSは、主要な免疫細胞を標的にすることで免疫系を攻撃し弱め、身体を感染症や病気に対して脆弱な状態にします。対照的に、COVID-19ワクチンは、免疫系全体の機能を変化させたり傷つけたりすることなく、免疫系を刺激してウイルスを認識させ、ウイルスと闘わせるように設計されています。これらのワクチンは、免疫の健康を損なうことなくCOVID-19から身体を守るのに効果的です。
最後に、もしCOVID-19ワクチンがAIDSのような免疫不全ウイルスを引き起こすとしたら、ワクチン接種を受けた人はウイルス、細菌、真菌、寄生虫によって引き起こされる日和見感染症(OIs)に罹り易くなるということは注目に値します。免疫力が低下している人は、体内で感染症を撃退するのが難しくなるため、起炎菌に感染し易くなり、これらの感染症は死を含む深刻な結果を招く可能性があるからです。要するに、もしワクチンが本当に免疫不全ウイルスを引き起こすのであれば、現時点では、ワクチン接種を受けた人々の間で遥かに多くの死亡例が観察されているはずなのです。
結論
COVID-19 mRNAワクチンを「ワクチン後天性免疫不全症候群」(VAIDS)や「ワクチン接種後症候群」(PVS)と関連付けるSNS上の主張は、エール大学の研究者が最近発表したプレプリントの結果を誤って伝えています。
問題の研究は、VAIDSという実在しない病態を扱ったものではなく、スパイク・プロテインがPVSを引き起こすことを明確に立証したものでもありません。
この研究は、少ないサンプル数と自己申告に基づく予備的なものであり、その結論はまだ査読を受けていません。
そのため、PVSを理解するためにはより厳密な研究が必要であり、ワクチンと免疫系障害を結びつける主張は根拠がなく、誤解を招くものです。