Russell Brandの動画に反して、COVID-19ワクチンは心臓発作のリスクを増加させないという科学的根拠が示されています。
【主張】
COVID-19ワクチンは、若者の心臓発作の増加の原因である。
報告書全体を通して、ロックダウンやワクチンに触れずに、心臓病の30%増加の原因について、妥当な議論と調査を進めるべきだと思う。
【評定】
誤解を招く:
動画で引用した研究結果によりますと、心臓発作の増加はパンデミックの初期、具体的には2020年4月までに発生しており、COVID-19ワクチンよりも数ヶ月前に発生しています。
そのため、COVID-19ワクチンがこの増加の理由にはなり得ません。
裏付けなし:
COVID-19ワクチン接種が心臓発作のリスク上昇に関連するという暗黙の主張には、証拠が示されていません。
更に、このテーマに関するこれまでの研究では、ワクチン接種者が心臓発作を起こしやすいということは判明しておりません。
【キーポイント】
複数の科学的研究により、SARS-CoV-2感染による心臓への悪影響が報告されており、パンデミック時の若年層の心臓発作の増加には、COVID-19が大きく寄与していることが示唆されていますが、ロックダウンや医療崩壊による治療の遅れなど、他の要因も寄与している可能性もあると考えられます。
研究によりますと、COVID-19ワクチンの利点はそのリスクを上回り、ワクチン接種者がワクチン未接種者と比べて心臓発作のリスクが高くなることはないそうです。
【レビュー】
2023年2月27日、コメディアンのRussell Brandが、若者の心臓発作が増加しているという新研究についてのYouTube動画を公開しました。 この動画で Brand は、この研究について議論している CBS ニュースのインタビューに狙いを定めています。彼は「ただ質問する」というスタイルで、ワクチンやロックダウンといった要因が見過ごされているのに、何故COVID-19が心臓発作の増加の説明として考えられるのかと問いかけ、真実が隠されていることを示唆しました。この動画は、現在までに100万回以上の再生回数を記録しています。
Brandは、COVID-19ワクチンが心臓発作の増加の原因であると明確に主張することは避け、表向きはCOVID-19ワクチンの誤報に対するYouTubeのポリシーに基づき、動画中に何度も言及しましたが、ワクチン懐疑論者としての彼の立場はよく知られていることです。また、Rumbleの同じ動画には「シー... ワクチンについて言及しないで」というタイトルが付けられており、YouTubeの動画のより曖昧なタイトル("IT'S STARTING TO COME OUT")とは対照的に、この動画が心臓発作がCOVID-19ワクチン接種によるものと暗示していることが確認されました。
YouTubeの動画をFacebookで共有しようとすると、Rumbleの動画と同じタイトルが表示さ れます(以下のスクリーンショットを参照)。
しかしながら、COVID-19ワクチンが心臓発作の増加を引き起こしているという彼の主張は、以下に示すように、科学的証拠に裏付けられておらず、引用された研究で報告されているデータと矛盾しています。
《研究では、COVID-19ワクチンよりも前に心臓発作による死亡が増加していることが示されています》
Cedars-Sinai 病院の研究者によって行なわれたYeoらの研究は、パンデミック中に様々な年齢の人々の心臓発作による死亡がどのように変化したか、またその変化の潜在的原因を調べることを目的としたものです[1]。 彼らは、死亡証明書の情報を使って心臓発作死を特定し、それによって、COVID-19が死因として記載されている、COVID-19と直接関連するケースも特定することが可能になりました。
著者らは、パンデミック前の期間とパンデミックの4つの異なるフェーズを比較しました:
2020年4月~2020年9月:初回のCOVID-19
2020年10月~2021年3月:二回目の急増期
2021年4月~2021年9月:三回目の急増期
2021年10月~2022年3月:オミクロン急増期
以下のCOVID-19の週間症例のグラフは、この各波を表しています(図1)。
彼らの最も注目すべき発見は、若年成人(25歳から44歳までと定義)において、男女ともに心臓発作による過剰死亡が増加していることでした(図2)。この年齢層の人々は、そもそも心臓発作を起こさないと考えられているので、これは珍しいことだと、この研究の上級著者の一人であるSusan Cheng氏は述べています。
しかしながら、この増加とCOVID-19ワクチンとの関連付けは誤りです。研究から明らかなように、全ての年齢層における心臓発作の増加は、2020年4月から9月の間に既に発生しており、2020年10月から2021年3月までの期間にも持続していました(図2)。このため、この増加はCOVID-19ワクチンが存在する数ヶ月前に発生しており、故にCOVID-19ワクチン接種がこの増加の理由にはなり得ません。
更に、本研究で定義したパンデミックの第2段階(2020年10月から2021年3月)においても、25歳から44歳の人口の大半がワクチン未接種であり、高齢者と脆弱なグループのみが最初にワクチンを接種していました。これは、主張と矛盾するもう一つの観察結果です。
Brand はまた、心臓発作の増加の原因として、COVID-19 ワクチン接種後の心筋炎のリスク上昇に言及しました。COVID-19 mRNAワクチンが心筋炎のリスクを僅かに増加させることは事実ですが、このリスクは全ての人口統計学的な層で均等ではありません。それどころか、若い男性で最も顕著であるのに対し、この研究では、心筋梗塞による死亡率の超過は全ての年齢層と性別で発生していることが示されています。その結果、心臓発作による死亡のパターンは、ワクチン後の心筋炎のパターンと矛盾しているのです。
要約しますと、 Brandが参照した研究は、COVID-19ワクチンが心臓発作のリスクを増加させるという主張に反する複数の証拠を提示しています。
Health Feedbackでは、本研究の著者らにコメントを求め、新たな情報が得られた場合には、このレビューを更新する予定です。
《ロックダウンと医療の混乱が心臓発作による死亡に寄与した可能性;COVID-19はCOVID-19ワクチンよりも心臓の問題を引き起こしやすい》
ワクチンの害を隠すために、ワクチンや ロックダウンのような他の変数が心臓発作のリスクをどのように変化させたかを、誰も調べようとしない、という Brand の示唆はどうでしょうか。これもまた、以下に示すように、誤りです。
この研究でYeo氏らは、COVID-19がこの上昇の最も可能性の高い要因であると結論づけたが、ロックダウンや医療崩壊による診療の遅れ等、他の問題も上昇に寄与した可能性があると仮定し[2-3]、次のように述べています: 「既往症や新たに発症した心血管疾患を持つ患者が、特にCOVID-19の急増期に、ケアへのアクセスにギャップや遅れを経験したことを示す豊富なエビデンスが現在存在します」
そして、COVID-19ワクチン接種が具体的に心臓発作と関連するかどうかを検討した研究もあります。COVID-19のmRNAワクチンを接種した620万人を対象とした米国でのこの研究では、ワクチン接種と心臓発作の間に関連はないことが分かりました[4]。他の研究では、ワクチン接種者はワクチン未接種者と比べて心臓発作のリスクが低いことが報告されています[5-6]。
特定のCOVID-19ワクチンには心臓炎症のリスク増加が伴いますが、このリスクはCOVID-19自体に関連する心筋炎やその他の心臓疾患のリスクよりもまだ小さいとされています[7]。更に、米国の退役軍人を対象とした研究では、心血管リスクの上昇は、初感染後少なくとも1年間は持続することが示唆されています[8]。
米国心臓協会は、COVID-19ワクチンの利点はそのリスクを上回ると考えています。米国心臓病学会による専門家のコンセンサスでも、「これまでに評価された全ての年齢と性別のグループにおいて、COVID-19ワクチンには非常に良好な利益対リスク比が存在する」とされています[9]。
《まとめ》
複数の科学的研究により、SARS-CoV-2感染による心臓への悪影響が報告されており、COVID-19は心臓発作による死亡者増加の重要かつ最もらしい原因であると考えられています。しかしながら、科学者らは、ロックダウンや医療崩壊による診療の遅れといった他の要因も、この増加に寄与している可能性があると考察しています。
しかしながら、COVID-19ワクチンがこの心臓発作の増加の原因であるというBrandの暗黙の主張は、それを裏付ける科学的根拠を欠いています。研究によりますと、COVID-19ワクチンの効果はそのリスクを上回っており、ワクチン接種者がワクチン未接種の人と比べて心臓発作を起こす可能性が高いということはありません。
この動画は、COVID-19ワクチンの安全性やパンデミックが医療結果にどのような影響を与えたかに関する科学的研究の蓄積を無視し、陰謀論的な物語に利用するために選別された情報を提示しています。
《参考文献》
1 – Yeo et al. (2023) Excess risk for acute myocardial infarction mortality during the COVID-19 pandemic. Journal of Medical Virology.
2 – Solomon et al. (2020) The Covid-19 Pandemic and the Incidence of Acute Myocardial Infarction. New England Journal of Medicine.
3 – Arora et al. (2021) Effect of government-issued state of emergency and reopening orders on cardiovascular hospitalizations during the COVID-19 pandemic. American Journal of Preventive Cardiology.
4 – Klein et al. (2021) Surveillance for Adverse Events After COVID-19 mRNA Vaccination. JAMA Network.
5 – Whiteley et al. (2022) Association of COVID-19 vaccines ChAdOx1 and BNT162b2 with major venous, arterial, or thrombocytopenic events: A population-based cohort study of 46 million adults in England. PLoS Medicine.
6 – Kim et al. (2022) Association Between Vaccination and Acute Myocardial Infarction and Ischemic Stroke After COVID-19 Infection. JAMA Network.
7 – Barda et al. (2021) Safety of the BNT162b2 mRNA Covid-19 Vaccine in a Nationwide Setting. New England Journal of Medicine.
8 – Xie et al. (2022) Long-term cardiovascular outcomes of COVID-19. Nature Medicine.
9 – Writing Committee. (2022) 2022 ACC Expert Consensus Decision Pathway on Cardiovascular Sequelae of COVID-19 in Adults: Myocarditis and Other Myocardial Involvement, Post-Acute Sequelae of SARS-CoV-2 Infection, and Return to Play: A Report of the American College of Cardiology Solution Set Oversight Committee. Journal of the American College of Cardiology.
10 – Bozkurt et al. (2021) Myocarditis With COVID-19 mRNA Vaccines. Circulation.
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