日本政府がCOVID-19 mRNAワクチンは致命的であると発表した事実はありません。
【主張】
日本政府がCOVID-19 mRNAワクチンを 「人類史上最も致命的な薬物 」と公式に発表した。
最近の調査で、COVID-19 mRNAワクチンと世界で最も致命的な200以上の病気の著しい急増との間に驚くべき関係があることが明らかになった。
日本の主要な医療関係者は、ワクチンを 「毒 」とし、世界的なワクチン接種キャンペーンを 「現代の大虐殺 」と表現した。
【詳細評定】
事実無根:
日本政府はCOVID-19ワクチンが致命的であるとは宣言していません。
それどころか、2024年末現在、日本の厚生労働省はCOVID-19の定期接種を、リスクの高い人には年2回、それ以外の人には年1回推奨しています。
裏付け不十分:
現在までのところ、COVID-19ワクチンが何百もの致命的な病気の急増を引き起こしたという主張を裏付ける科学的証拠は存在しません。
それどころか、COVID-19ワクチンは数百万人の命を救ったと推定されています。
【キーポイント】
COVID-19ワクチンは、ウイルスによる重症化、入院、死亡を予防する上で安全かつ効果的です。
COVID-19ワクチンは臨床試験で厳格にテストされ、安全性については保健機関によって定期的に監視されています。
心筋炎(心臓の炎症)や血液凝固障害などの稀な副作用が報告されていますが、これらの事象は一般的ではありません。
COVID-19はワクチンよりも心臓の炎症や血液凝固のリスクを高める可能性が高いとされています。
ワクチン接種のメリットは潜在的なリスクを上回ります。
【レビュー】
2024年11月8日、X(旧ツイッター)への投稿は、日本の「第一線の医療従事者」がCOVID-19 mRNAワクチンは「人類史上最も致命的な薬物」であると宣言したと主張しました。この投稿は更に、COVID-19 mRNAワクチンと200以上の病気との関連性を主張したものの、どの病気かは特定されていませんでした。
この投稿を公開したのは、2019年に英国の国会議員(MP)候補としてブレグジット党と共闘して落選したJim Fergusonです。Fergusonは以前、2024年3月にXで日本とCOVID-19 mRNAワクチンに関連する虚偽の情報をシェアし、「突然死や予期せぬ死が急増する危機」のために日本がワクチンを禁止したと主張していました。
本稿執筆時点で、Fergusonの2024年11月のXの投稿は45万回近く閲覧され、Ferguson自身のフォロワーは24万5000人近くに達しています。この投稿はFacebookを含む他のSNSでもシェアされています。
この投稿でFergusonは、偽情報や陰謀論を掲載することで知られるウェブサイトThe People's Voiceの記事にリンクしています。その記事には「日本がCOVID-19 mRNAワクチンを『人類史上最も致命的な薬』と公式に発表」という見出しがついていますが、記事自体にはその見出しを裏付けるような日本政府の公式発表は一切引用されていません。その代わりに記事は、「緊急記者会見」で語ったとされる「第一線の医療従事者と国会議員」の発言を引用しているだけです。
COVID-19ワクチン接種は、心筋炎や血栓のような健康状態のリスクを僅かに増大させることは知られていますが、COVID-19ワクチンが致死的であるという証拠や 「世界で最も致死的な病気の200以上の重大な急増 」の原因であるという証拠はありません。詳しくは後述します。
日本の厚生労働省はCOVID-19ワクチンの使用を推奨しています。
USA Todayが2024年11月11日に発表したファクト・チェックによりますと、日本の厚生労働省がCOVID-19ワクチンの致死性について緊急記者会見を開いたという事実はなかったとのことです。同省のウェブサイトでの最新の発表は2024年11月7日付で、COVID-19やCOVID-19ワクチンとは何の関係もありませんでした。この記事を書いている時点で、COVID-19に関する最新の更新は2022年9月にまで遡ります。
同省はまた、COVID-19ワクチンの安全性と有効性に関する情報を、国内外からの報告データを含め、同省のウェブサイトに日本語で公表しています。COVID-19ワクチンに関する同省の現在の推奨事項も同様に、同省のウェブサイトに英語で掲載されています:
COVID-19ワクチンを接種した人の死亡率は、未接種の人に比べて高くはありません。
Fergusonは投稿の中で、COVID-19ワクチンは致死的であり、日本の「第一線の医療従事者」がこの危険性について「赤信号の警告」を発したと主張しました。彼はこの主張の裏付けとしてシステマティック・レビューを引用しましたが、そのレビューのタイトル、著者、掲載誌を示しませんでした。
代わりに、FergusonはThe People's Voiceが2024年11月7日に発表した記事にリンクしていました。この記事はBaxter Dmitryによって書かれ、特に「Pfizer社の実験的mRNAが1700万人の地球市民を殺した」と主張していました。
COVID-19 mRNAワクチンを含むワクチンについて誤った情報を流したという過去がDmitryにはあります。その中には、Pfizer社のCOVID-19 mRNAワクチンが約1,700万人の死亡を引き起こしたという主張が含まれていますが、これは、Science Feedbackが以前のクレームレビューで明らかにしたように、非常に欠陥のある分析に基づいていました。
Science Feedbackはまた、以前に実施されたクレームレビューにおいて、COVID-19ワクチンは死亡リスクを増加させ、実際に命を救うことはなかったという主張を含む、COVID-19ワクチンが最も「人類史上致命的な薬物」であるという様々な主張を取り上げました。これらのレビューで指摘されているように、COVID-19ワクチンを接種した人の死亡率はワクチン未接種の人よりも高くないという証拠が示されています[1,2]。
COVID-19ワクチン接種の効果に関する大規模な後向き研究でも、WHOの管轄するヨーロッパ地域において、2020年から2023年の間にワクチンによって推定160万人の命が救われたと報告されています[3]。
要するに、COVID-19ワクチンが「死に至る」という主張には根拠がないことがエビデンスによって示されているのです。
COVID-19ワクチンは原爆やサリドマイドより危険が多いというわけではありません。
The People's Voiceの記事は、COVID-19ワクチンは第二次世界大戦中に日本に投下された原爆よりも大きな被害をもたらし、癌治療薬のサリドマイドよりも危険だと主張しています。
COVID-19ワクチンに関するこのような誇張表現は新しいものではありません。例えば、ホロコーストの歪曲という概念は、COVID-19ワクチン接種を、ホロコースト中にナチスの標的となったユダヤ人やその他の人々が受けた迫害と比較するために使われてきました。この比較は通常、ワクチンを「医学的実験」と称しています。science Feedbackは、この現象について、こちらとこちらにあるクレームレビューで論じています。
The People's Voiceの記事は、同様の原理を応用して、COVID-19ワクチンの危険性について主張しており、この場合は原爆やサリドマイドと比較しています。しかしながら、これらの主張には根拠がありません。
第一に、COVID-19ワクチンが原爆よりも致命的であるという考えは誤りです。ロイター通信は2007年、1945年8月に広島に投下された核爆弾によって数万人が即死したと報じています。また、1945年末までに広島の人口の40%が放射線中毒の合併症で死亡したと推定されています。同様の死亡率は、広島の原爆投下の3日後に2発目の原爆が投下された長崎でも発生しました。
前節で説明された通り、COVID-19ワクチンを接種した人の死亡率がワクチン未接種の人より高いという証拠はありません。COVID-19ワクチンは原爆よりも致命的であるという主張は、単純に事実ではないの です。
サリドマイドは現在癌治療に使われている薬です。1950年代と1960年代には、妊娠初期のつわり緩和に使用されていましたが、この薬を使用した母親から生まれた乳児に重篤な先天性欠損症を引き起こすことが科学者によって発見されました[4]。
当時製造された医薬品は、今日のような厳格な安全性試験の対象にはされていませんでした。サリドマイドの危険性が発見されたことで、米国では医薬品メーカーに対し、市場投入前に製品の安全性を証明することを義務付ける新たな法律が制定されました。COVID-19ワクチンの製造業者も、同じ安全性プロトコールに従っています。
要するに、The People's Voiceの記事は、COVID-19ワクチンとは無関係の歴史的・医学的出来事をこじつけ、その安全性に疑念を投げかけているのです。この記事は、COVID-19ワクチンが致命的であるという主張を裏付ける科学的な証拠を何一つ紹介していないのです。
COVID-19ワクチンには稀な健康リスクがありますが、ワクチン接種のメリットはこれらのリスクを上回ります。
米国CDCや欧州医薬品庁(EMA)を含む保健機関は、COVID-19ワクチンが重篤な病気や死亡のリスクを低減する上で安全かつ有効であることを共通して認めています。これらの機関は日常的にワクチンの安全性と有効性を監視・評価しています。
心筋炎や血栓を含む特定の症状のリスクが、特定のCOVID-19ワクチンと関連していることに注意することが重要です。しかしながら、これらの症状は稀であり、特定の基礎的危険因子を有する人に起こりやすいことが研究で示されています[5,6]。
以前の クレームレビューでScience Feedbackがお伝えしましたように、COVID-19自体が、ワクチン接種に関連するリスクと比較して、心筋炎、血栓、その他の深刻な健康問題の大きなリスクに繋がることは注目に値します。総合的に考えて、COVID-19ワクチンのメリットはそのリスクを上回ります。
結論
COVID-19 mRNAワクチンの致死性についての主張は、信憑性のある科学的証拠によっては立証されていません。
科学的研究、並びに日本の厚生労働省を含む保健当局からの報告書や勧告は、これらのワクチンの安全性と有効性を支持しています。
引用文献
1 – Xu et al. (2021) COVID-19 Vaccination and Non–COVID-19 Mortality Risk — Seven Integrated Health Care Organizations, United States, December 14, 2020–July 31, 2021. Morbidity and Mortality Weekly Report.
2 – Bilinski et al. (2022) COVID-19 and Excess All-Cause Mortality in the US and 20 Comparison Countries, June 2021-March 2022. JAMA.
3 – Meslé et al. (2024) Estimated number of lives directly saved by COVID-19 vaccination programmes in the WHO European Region from December, 2020, to March, 2023: a retrospective surveillance study. The Lancet Respiratory Medicine.
4 – Kim and Scialli. (2011) Thalidomide: The Tragedy of Birth Defects and the Effective Treatment of Disease. Toxicological Sciences.
5 – Li et al. (2022) Comparative risk of thrombosis with thrombocytopenia syndrome or thromboembolic events associated with different covid-19 vaccines: international network cohort study from five European countries and the US. BMJ.
6 – Katoto et al. (2023) Systematic review and meta-analysis of myocarditis and pericarditis in adolescents following COVID-19 BNT162b2 vaccination. npj Vaccines.