Retsef Leviの主張に反して、COVID-19 mRNAワクチンは有効であり、その効果はリスクを上回るとの科学的な証拠が示されています。

【主張】

  • 特に若年層で、mRNAワクチンが死亡を含む深刻な害を引き起こすという議論の余地のない証拠が積み上がってきている。

  • 我々は即座にワクチン投与を中止しなければならない。

  • 何故なら、有効性に関して公表された約束事がどれ一つ果たされなかったからだ。

  • 更に重要なことは、若年層や 子供達の死を含む、前例のないレベルの害を引き起こすという、議論の余地のない証拠が積み重なっているため、中止すべきなのだ。

【評定】

《裏付け不十分》

  • Leviが共著した研究では、著者らは心臓病を発症した人々のワクチン接種の状況について情報を持っていませんでした。

  • そもそもワクチン接種の有無が不明である以上、これらの心臓疾患とワクチン接種を確実に関連づけることは不可能です。

《チェリー・ピッキングである》

  • Leviのツイートは、COVID-19ワクチン接種が死亡率の上昇、心臓発作、心拍異常と関連しないことを示す他の複数の発表された研究を無視する一方で、彼の主張を支持するように見える方法論上の問題を持つ研究を無批判に引用しています。

【キーポイント】

  • COVID-19ワクチンは心筋炎のリスクが高いのですが、このリスクはCOVID-19に感染した人の方がより高いのです。

  • COVID-19は多くの健康問題に関連しており、心臓の問題はその一つに過ぎません。

  • COVID-19ワクチンは、人々の感染や重症化のリスクを減らすことで、COVID関連心臓疾患の予防に留まらず、多くの効用を提供します。

  • ワクチンの効用はそのリスクを上回ります。

【レビュー】

2023年2月初旬、MIT教授で「(ど素人感覚では)最高の専門家」がCOVID-19 mRNAワクチンによる深刻な害の証拠を発見し、その使用を停止するよう求めたという主張がソーシャル・メディア上で広まりました。これらの主張は、MITスローン経営大学院のオペレーション・マネジメント・グループ教授であるRetsef Leviツイートが基になっているものです。

ツイートの中で彼は、「mRNAワクチンが、特に若者の間で、死亡を含む深刻な害を引き起こすという証拠が次々と出てきており、議論の余地はない」と主張しています。この主張を裏付けるために、彼はFraimanらによるもの、Schwabらによるもの、そしてLevi自身による共著を含む複数の研究を引用しています[1-3]。

Leviが言及しなかったのは、よく読めばこれらの研究が実は彼の主張の必要な証拠を提示していないことが分かるということです。FraimanらとSchwabらによる研究は、以前のHealth Feedbackのレビュー(こちらこちらを参照)で議論され、ワクチンの安全性について信頼性の高い結論を出すことを妨げる、研究方法における様々な限界を説明しています。しかしながら、Leviがこれらの研究を無批判に引用したことで、ユーザーは別の(=間違った)考えを持つことになってしました。

Health Feedbackは、Levi氏の主張についてMITにコメントを求めました。MITニュースオフィスは電子メールで、「Retsef Levi教授が表明した見解は彼個人による見解です」と述べ、教員は「自分にとって関心のあるテーマについて自由に意見を表明することが可能です」と付け加えました:

MITのシニアリーダー、MITスローンのリーダー、MITメディカルの公衆衛生専門家は一貫して、ワクチン接種及び推奨されるCOVID-19ワクチンの全てを最新状態にすることの利点を強調してきました。

https://healthfeedback.org/claimreview/scientific-evidence-shows-covid-19-mrna-vaccines-effective-benefits-outweigh-risks-retsef-levi/ 

Levi氏のツイートは4,600回以上リツイートされ、The Epoch Timesthe Western Journalといった複数のメディアも同氏の主張を喧伝しました。合計で3,500回以上シェアされたこれらの記事も、Leviが引用した研究の限界について触れていませんでした。

FraimanらとSchwabらの研究は、既に過去のレビューで詳しく取り上げられているので(上記参照)、このレビューでは、Leviが共著したSunらの研究の分析に焦点を当てます。

《本研究は集団レベルのデータを使用したため、心臓疾患を発症した(個別の)患者のワクチン接種状況についての情報はありませんでした》

2022年4月に学術誌「Scientific Reports」に掲載された本研究は、2019年1月から2021年6月までのイスラエル国立救急医療サービスへの通報のデータセットを使用しました[1]。著者らは、この期間に16歳から39歳までの人々の心停止(CA)と急性冠症候群(ACS)の通報数の関連性を検討しました。この特定の期間は、パンデミック前の期間、パンデミック中のワクチン接種前の期間、パンデミック中のワクチン接種後の期間の通話を比較するために選択されました。

著者らは、CAおよびACSのコール数とワクチン投与数との間に相関が見られたが、COVID-19症例との相関は見られなかったと報告しています。この観察結果に基づいて、著者らはCOVID-19ワクチン接種がこれらの心臓疾患を引き起こしたことを示唆し、イスラエルや他の国々に対して、「若年成人におけるCOVID-19ワクチン投与と有害な心臓血管疾患との明らかな関連性について徹底的に調査する」よう呼びかけました。

何人か科学者は、この結論の問題点を指摘しました。最も顕著なものの1つは、著者らが心臓病を発症した人々のワクチン接種状況について情報を持っていなかったことです。COVID-19ワクチン接種と心臓疾患との因果関係を評価するための第一歩として、まず、ワクチン未接種者には見られない心臓疾患の増加がワクチン接種者に特異的に見られることが必要です。これらの患者のワクチン接種の状況がわからなければ、これは不可能です。

集団レベルのデータを使って個人(この場合はワクチン接種状況の異なる集団)の結論を導き出すことは生態学的誤謬として知られており、単純化した集団レベルの相関に基づくCOVID-19ワクチンの誤報の特徴となっています。Health Feedbackでは、いくつかの例をこちらこちらに掲載しています。

著者らはこの限界を認識しており、次のように書いています:「この研究の主な限界に注意することが重要です。それは、病院での転帰、基礎疾患、ワクチン接種とCOVID-19陽性状況等、罹患患者に関する特定の情報を含まない集計データに依存している点です。このような関連データは、若年層で観察されるCAやACSの増加の正確な性質や、根本的な原因因子を明らかにするために不可欠です」と述べています。

医師兼研究者のKyle Sheldrick氏は以下のように総括しています:「Sun及びこの研究の他の著者は、不適切なデザインを提示し、COVID-19ワクチンが若者の心停止の大幅な増加を引き起こしたという誤った結論を読者に暗黙のうちに誘導しています(実際には、影響を受けた人々がワクチンを接種したかどうかに関する情報を収集していないにも関わらずです)」

しかしながら、Levi氏のツイートでは、この研究の重要な問題点には全く触れられていません。また、2022年5月5日に研究に付された「本論文の結論は、編集部によって検討されている批判の対象であることを読者に警告する」という編集注にも触れていません。全ての関係者が完全に回答する機会が与えられれば、更なる編集上の回答が続くだろう」と記されています。

Health Feedbackは、それ以降に編集上の決定がなされたかどうかを確認するために、Scientific Reportsに連絡を取りました。同誌のRafal Marszalek編集長は電子メールで、「この論文はまだ調査中であり、COPEガイドラインとSpringer Natureの方針に沿って全ての情報と対応を慎重に検討している」と述べ、現時点では詳細をお伝え出来ないとしました。

この研究が、COVID-19ワクチンの安全性に関する誤った情報を広めるために利用されたのは、今回が初めてではありません。実際、そうした誤報は2022年5月までさかのぼり、「相関関係は因果関係を証明するものではない」とLevi自身もロイターに対して述べています

疫学者のGideon Meyerowitz-Katz氏も2022年5月に投稿されたTwitterのスレッドでこの研究について議論し、提示されたグラフなど、分析におけるいくつかの矛盾を強調しました。彼は、グラフの1つでCAコールのY軸(縦軸)を0ではなく4にしていたため、CAコールとの相関が実際よりも強く見えると指摘し(図1参照)、このやり方は誤解を招くとしています。

図1. Sunらによる研究のオリジナルのグラフ(上)と、
同じデータを示しながら左のY軸を4ではなく0に設定したグラフ(下)の比較。
Sunらによる図1とGideon Meyerowitz-Katzによる
このグラフを基に修正。

相関関係の信頼性に関するもう一つの問題は、調査対象の年齢層(16歳から39歳)におけるワクチン投与量とCOVID-19患者のデータを視覚化することによっても推測することが可能で、この二つが強く相関していることが分かる、とMeyerowitz-Katz氏は述べています(図2を参照のこと)。

図2. 同時期におけるワクチンの初回接種とCOVID-19の患者数の相関図。
出典
Gideon Meyerowitz-Katz.

この2つの線が互いに強く類似していることを考慮した場合、著者らは、ワクチン量とCOVID-19症例の両方が同じモデルの一部であるにも関わらず、ワクチン量についてのみ相関を検出し、COVID-19症例については検出しなかったという事実により、検出した相関が十分に意味を持つかについて疑問が生じてきます。

《心臓疾患とCOVID-19ワクチン接種の関連性については、より質の高い研究が存在します》

信憑性のあるワクチン情報を提供する団体Voices for VaccinesによるこのTwitterスレッドでは、Sunらによる研究は、実は数ヶ月前に、緊急医療通報とは対照的に医療記録を用いてCOVID-19ワクチンの安全性を検証したイスラエルのこの研究が先行していると指摘されています[4]。著者らは、Pfizer-BioNTech社のCOVID-19ワクチンを接種した人に心筋炎の高いリスク(10万人あたり1〜5件)を検出したが、COVID-19を接種した人においても大幅に高いリスクを発見しました(図3を参照のこと)。

図3. ワクチン接種後或いはSARS-CoV-2感染後の様々な有害事象の絶対過剰リスク[4]。
ワクチン接種とSARS-CoV-2感染の効果は、ワクチン接種者と非接種者、SARS-CoV-2陽性者と非感染者という異なるコホートで推定されていることに注意。
そのため,ワクチン接種のリスクと感染のリスクを直接比較することは不可能です。

また、COVID-19 mRNAワクチンを接種した620万人を対象とした米国での研究でも、ワクチン接種と心臓発作や不整脈(心拍数の異常)との間に関連はないことが明らかになりました[5]。

また、これらの研究では、人の状態を診断する上でより信頼性の高い緊急医療通報とは対照的に、医療記録を用いていることも指摘されています

また、米国の退役軍人1,000万人以上の医療記録を分析した別の研究では、COVID-19に感染した人は心血管障害を発症しやすく、そのリスクは感染後12ヶ月経過しても残っていると報告されています[6]。

図4. SARS-CoV-2感染の証拠がない人と比較した、急性期
後のCOVID-19による心血管系転帰の発生リスクと12か月間の負担[6]。
転帰は、COVID-19陽性検査の30日後からその後の経過観察終了まで確認されました。
ハザード比は左側に表示されています。
右側の棒グラフの長さは、12ヶ月後の1,000人あたりの超過負担を示しています。
  • 更に、これまでの研究では、ワクチン接種者がワクチン未接種者に比べて死亡しやすいという結果は得られていません[7-9]。

  • Sunらの研究と異なり、これらの研究ではワクチン接種の有無に関する情報があるため、より確実にワクチン接種との関連を導き出すことが出来ます。

  • しかしながら、Leviのツイートには、これらの研究についての言及はありませんでした。

  • Health FeedbackはMITにコメントを求め、新たな情報が得られたらこのレビューを更新する予定です。

《結論》

要するに、COVID-19ワクチンが若者の死亡の原因になっているというLeviの主張には根拠がないのです。彼は証拠としていくつかの研究を引用していますが、それらの研究を詳細に読むと、彼の主張に対して実際に信憑性のある証拠を提供しているものはないことが分かります。彼の主張は、COVID-19ワクチン接種が死亡や心臓発作のリスクを増加させないことを示す、より質の高い他の研究を無視したものなのです。

COVID-19ワクチンは心筋炎の高いリスクと関連していますが、このリスクはCOVID-19に感染した人の方が高いのです。更に、COVID-19は多くの健康問題に関連していますが、心臓の問題はその一つに過ぎません。COVID-19ワクチンは、人々の感染や重症化のリスクを減らすことで、COVID関連心臓疾患の予防に留まらず、多くの恩恵を与えてくれます。このように、ワクチンの効用はそのリスクを上回ります。

《UPDATE(2023年2月13日)》

本書は、MIT News Officeによるコメントを含むように更新され、第4段落に掲載されています。

《UPDATE (2023年2月10日)》

本書は、Scientific Reports誌の13段落目に掲載された、Sunらによる研究の継続的な編集レビューに関するコメントを含んで更新されました。

《参考文献》

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