ワクチンに含まれるスクワレンが自己免疫疾患や湾岸戦争症候群を引き起こすという主張には根拠がありません。
【主張要旨】
ワクチン中のスクアレンが湾岸戦争症候群を引き起こした。;WHOは不妊症の原因となるワクチンで世界の人口減少を目指している。
【評定要旨】不正確
【評定詳細】
事実無根
WHOが「永久不妊を作り出すワクチン」を開発したという主張は、これらのワクチンが人口減少を目的としているという意味合いを含んでおり、WHOの家族計画法の開発への取り組みを誤って伝えています。家族計画法には、一時的な避妊方法と永久的な避妊方法があります。避妊ピルは家族計画の一例ですが、一時的に妊娠を防ぐもので、永久に防ぐものではありません。現在までのところ、不妊症の原因となるようなワクチンはありません。また、ワクチンは自己免疫疾患を引き起こすものではありません。
裏付け不足
スクアレンが湾岸戦争症候群を引き起こすことを示す証拠はありません。Laibowは「WHOが90%の人口が多すぎると判断した」という主張に対して何の根拠も示していません。
【要点】
スクアレンは、人体を含む動物や植物に存在する天然化合物です。スクアレンは私達の肝臓で生成され、体内でホルモン等を作るのに重要な役割を果たします。また、H5N1インフルエンザワクチンのような特定のワクチンの成分でもあり、アジュバントとして作用します。アジュバントは、ワクチンに対する身体の免疫反応を高め、ワクチンをより効果的にします。ワクチンに含まれるスクアレンが安全でないという証拠はありません。ワクチンは不妊症とは関係なく、推奨される家族計画法にも挙げられていません。
【全主張】
スクアレンは、「免疫系が体の他の全ての部分を攻撃し始める(中略)湾岸戦争症候群のようだ」、「WHOは、私達は90%の人口を持ちすぎていると判断している。WHOは1974年以来、永久不妊症を作り出すためのワクチンに取り組んできた。」
➡すっかり読む気を無くす # あたおか 発言ですよねwww。
【レビュー】
「代替的及び統合的健康サービス」を提供するFacebookページ《The Revolution Healer》が2022年4月末に投稿した動画で、「ワクチンにはスクワレンが含まれているから安全ではない」と主張しました。また、この動画は、WHOが人々を不妊化することを目的としていることを暗に示しています。
このビデオは、2009年12月30日に放映されたアメリカのテレビシリーズ”Conspiracy Theory with Jesse Ventura”のエピソードからの抜粋です。このエピソードのあらすじには次のように書かれています。:「彼らは世界のエリート集団と考えられており、年に一度、高級ホテルで会合を開き、世界をどのように動かしていくかを決めている。彼らは病気とワクチンによって人口を減少させる計画だと考えられている。Jesse Venturaはビルダーバーグ・グループに潜入する。」
このエピソードの中で、元レスラーで元ミネソタ州知事のJesse Venturaは、精神科医のRima Laibowにこのテーマについてインタビューした。ナチュラル・ソリューションズ財団」という会社を経営しているLaibowは、エボラ出血熱からCOVID-19に至る病気に対する証明されていない治療法(「ナノシルバー」)を販売したとして、FDAから警告書を出されました。
➡日本に喩えると、アントニオ猪木が香山リカに『元気ですかー』と言っている画しか浮かんでこないのですがwww。
以下に説明するように、彼女の主張は不正確なものです。
スクアレンは人間を含む生物に自然に存在するもので、有害であるという証拠はない。
ビデオの中でLaibowは、ある種のワクチンの成分であるスクアレンが、「あなたの免疫システムが体の他のすべての部分を攻撃し始める」-恐らく自己免疫疾患を指しているのだろう-と主張し、これは湾岸戦争症候群で起こることと類似している、と述べています。
しかし、Laibowは彼女の主張の根拠を示さず、これまでの科学的証拠も彼女の主張を支持しません。これまでの研究で、ワクチンは自己免疫疾患のリスク増加とは関係がないことが示されています。以前のHealth Feedbackのレビューでも、別の人物によってなされた同じ主張を扱っています。
スクアレンは、人間の体内にも、動物や植物にも自然に存在するものです。また、卵や植物油など、私たちが口にする食品にも含まれています。スクワレンは肝臓で作られ、体内でホルモンなどを作るのに重要な役割を果たします。また、H5N1型インフルエンザワクチンのように、アジュバントとして特定のワクチンに含まれる成分でもあります。アジュバントは、ワクチンに対する体の免疫反応を高め、ワクチンをより効果的にします。
Laibowの主張は、スクアレンが湾岸戦争症候群と呼ばれる病気の原因であるという初期の学説と重なります。米国退役軍人省は、この病気を「慢性多症候性疾患」と呼び、「疲労、頭痛、関節痛、消化不良、不眠、めまい、呼吸器障害、記憶障害など、医学的に説明のつかない慢性症状の集合体」であると説明しています。
湾岸戦争症候群の原因については、いくつかの仮説があります。化学兵器、その他の化学物質、心理的要因等です。
しかし、2000年と2002年に発表された同じ研究グループによる2つの研究で、症状を呈している人の多くが血液中にスクアレンに対する抗体を持っていることが報告され[1,2]、これが炭疽菌ワクチン中のスクアレンによるものだという主張もあり、スクアレンにスポットが当たるようになったのです。炭疽菌ワクチンは定期接種ではありませんが、湾岸地域に派遣された一部の軍人が生物兵器攻撃の際の防御のために受けた予防接種の一つでした。実際、CDCによりますと、湾岸戦争で「初めて(炭疽菌)ワクチンが大規模に使用された」とのことです。
しかし、その後の分析で、炭疽病ワクチンから検出されたスクワレンは、我々の血液中に自然に存在するレベルよりはるかに低い微量なものであることが判明しています。2009年の研究では、スクアレン抗体の有無と湾岸戦争症候群との間に関連はないと報告されています[3]。現時点では、この病気の原因はまだ不明であるが、病気の解明に向けて研究は続けられています。
ワクチンへのスクアレンの使用は問題ですが、それは産業界への供給は絶滅の危機に瀕した種から採取されたサメの肝臓に大きく依存しているという全く別の理由からです。これは、自然保護と持続可能性の観点から望ましくありません。しかし、ワクチンに含まれるスクアレンが安全でないから問題であるとか、湾岸戦争症候群の原因であるという主張は、これまでのところ臨床的証拠に裏打ちされていません。また、自己免疫疾患のリスクとワクチンの関連性は高くないという研究結果も出ています。
ビデオは、「ワクチンは地球を過疎化させるために開発されている」という根拠のない陰謀論を暗に宣伝していました。
Laibowは、「WHOは、私たちは90%も人口が多すぎると判断した」と主張しましたが、その主張を裏付ける証拠は何も提供されませんでした。
彼女はまた、「WHOは1974年以来、永久不妊症を作り出すためのワクチンの開発に取り組んできた」とも主張しています。これは、特に発展途上国における家族計画法の改善に対するWHOの取り組みに対する重大な誤報です。WHOは1972年に「不妊治療のためのワクチン」に関するタスクフォースを設置し、「1974年に会議を開き、抗不妊反応を起こすことの出来る組織や分子の基準を選定した」のです。WHOは、「この10年の終わりまでに、全く新しい家族計画法が利用出来るようになるかもしれないという見通し」を探りたがっており、その中に「抗HCGワクチンのプロトタイプ」があったのです。
HCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)は胎盤で作られるホルモンで、妊婦では上昇するため、家庭や実験室での妊娠検査でよく用いられる標的分子です。HCGは、胚が着床するために必要なプロゲステロンの継続的な産生に関与しています。HCGに対する抗体をワクチンなどで誘導すれば、プロゲステロンの産生を阻害し、胚の着床と妊娠を防ぐことが出来るでしょう。
実際、インドで行われた抗HCGワクチン候補の小規模臨床試験では、そのワクチン候補が妊娠を防ぐことが出来たと報告されています。しかし、この効果は永久的なものではなく、可逆的なものであることに注意することが重要です[4]。これは、このようなワクチンが永久不妊症を引き起こすというLaibowの主張と矛盾しています。実際、家族計画法には、妊娠を防ぐための永久的な手段と一時的な手段の両方が含まれます。例えば、避妊ピルは家族計画法の一つですが、永久に子供を産めなくなるわけではありませんし、ピルの服用を止めてもまた妊娠することは可能です。今のところ、ワクチンはWHOが推奨する避妊具のリストには入っていません。
Laibowの主張は、パンデミックの間に何度も出てきた、人口減少のためのワクチンという広範な #陰謀論 と結びついています。家族計画に関するこのような研究が誤解されるのは、これが初めてではありません。ケニアのカトリック司教団は、破傷風ワクチンにHCGが混入しており、不妊症の原因になると主張して、女性に破傷風ワクチンの接種を勧めないようにしました。この疑惑は後に根拠がないことが判明しました。
《参考文献》
1 – Asa et al. (2000) Antibodies to Squalene in Gulf War Syndrome. Experimental and Molecular Pathology.
2 – Asa et al. (2002) Antibodies to Squalene in Recipients of Anthrax Vaccine. Experimental and Molecular Pathology.
3 – Phillips et al. (2009) Antibodies to squalene in US Navy Persian Gulf War veterans with chronic multisymptom illness. Vaccine.
4 – Talwar et al. (1994) A vaccine that prevents pregnancy in women. PNAS