N-アセチルシステインがCOVID-19に有効でウイルスの複製を阻止するという主張には臨床的エビデンスが不足しています。

【主張】

  • NACは何に効くかって?ウイルスの複製を阻害し、炎症性サイトカインの嵐を抑える効果がある。非常にシンプルで、安価で、摂取しやすい。

  • NACは肺に良く、粘液を分解し、咳き込むのを助け、ウイルスの複製を阻止する。

  • FDAによれば、NACは医薬品として使用される以前は、栄養補助食品として広く使用されていなかった。NACはサプリメントである。アミノ酸だ。なぜ摂取させたくないのか?

【評定詳細】

エビデンスが不十分です:

  • NACがウイルスの複製を減少させることは、実験室で細胞を培養したいくつかの研究で示されているものの、NACサプリメントをCOVID-19に対する補助薬として宣伝するには十分なエビデンスとは言えません。

  • ある効果が実験室で観察されたからといって、同じ効果がヒトで起こるとは限りません。

以下については正しい記述です:

  • NACは粘液の過剰分泌を治療し、粘液を薄くするためにFDAによって承認されています。

【キーポイント】

  • N-アセチルシステインは、体内で自然に生成される抗酸化物質であるグルタチオンの前駆体であり、肝臓内の解毒に関与しています。

  • アセトアミノフェン(タイレノール)の過剰摂取や過剰な粘液分泌の治療薬として、米国FDAに認可されています。

  • NACは、様々な病状に対する潜在的な治療法を探求する研究者にとって、非常に興味深いものです。

  • 但し、NACが万能薬であるかのような主張は、臨床的根拠が限られていることから、懐疑的な目で見る必要があります。

【レビュー】

2023年9月2日に投稿されたFacebookのリールでは、アミノ酸サプリメントN-アセチルシステイン(NAC)の摂取の利点についていくつかの主張がなされていました。リールの中で、アスリートで健康サプリメントショップElite Nutrition OmahaのオーナーであるSteve Lucchinoは、NACは「ウイルスの複製を止める」、「粘液を分解する」、「肺に良い」と主張しています。映像の背景には、COVID-19に関する研究が映し出されていました。このリールは96,000回以上再生さ れました。

NACがCOVID-19の治療に有効であるという主張はTikTokにも登場し、数万回の再生回数を記録した動画いくつかありました。

以下で説明するように、このリールには正確な主張と文脈を欠いた主張が混在しており、誤解を招く可能性があります。

NACとは?

NACはグルタチオンの前駆体であり、体内で自然に生成される抗酸化物質で、肝臓内の解毒に関与しています。また、フリーラジカルの消去にも関与しており、フリーラジカルはDNAを含む細胞構成要素を損傷する可能性があります。NACはN-アセチル-L-システインとしても知られています。

アセトアミノフェン(タイレノール)の過剰摂取や過剰な粘液分泌の治療薬として処方される処方薬として、NACは米国FDAに承認されています

NACは栄養補助食品の形でも入手可能です。グルタチオンの経口摂取はNACほど体内に吸収されないため、栄養補助食品としてはグルタチオンよりもNACが適しているのです。

NACサプリメントを宣伝するTikTokの動画から判断するところでは、NACサプリメントは、老化関連の問題から注意欠陥多動性障害⇦現在コンテンツにアクセス出来なくなっています)に至るまで、多くの症状に対する万能薬として宣伝されてきました。しかしながら、こうした主張を立証する臨床的証拠はまだ限られています[1,2]。例えば、特定の症状に対する有効量の決定や、有効量が全ての症状で同じかどうかといった重要な疑問も、まだ解決されていません。

また、NACサプリメントを熱烈に支持するこれらの人々は、NACの潜在的な欠点に関する重要な情報を省略する傾向があります。例えば、NACを摂り過ぎると、下痢、嘔吐、鼓腸といった胃腸障害を引き起こす可能性があります。

2019年のScience誌の記事で、化学者のDerek Lowe氏は、NACのような抗酸化物質が必ずしも身体に有益な効果だけをもたらすとは限らないという事実を強調しました。彼は2014年に発表された研究で、NACを含む抗酸化物質がマウスの肺癌の進行を早めたことを指摘しています[3]。2019年に発表された別の研究では、NACの慢性投与が老化マウスの肺癌を促進することが示されました[4]。全体として、これらの知見は、NACサプリメントの摂取にはある程度の注意が必要であることを示唆しています。

内科専門医で助教授のRobert Ashley氏は、UCLA Healthの記事の中で、特定の病状のある人にグルタチオンの補給が有益であるというエビデンスはあるものの、健康な人がグルタチオンを欠乏させることは考えにくく、「健康な人にグルタチオンを使用することに関する優れた研究は存在しません」と説明しています。

ウイルス複製に対するNACの効果を示す証拠は、ヒトではなく試験管内研究によるものであった

NACがウイルスの複製を止め、COVID-19に有効であるという彼の主張を裏付けるために、Lucchinoは《N-Acetylcysteine to Combat COVID-19:エビデンスレビュー》と題された2020年に発表された研究を引用しました。しかしながら、リールに示された研究の一部を見ますと、ウイルスの複製に関するデータは、ヒトではなく、細胞培養物(実験室の皿の中で増殖している細胞)で得られたものであることが分かります。

更に研究者達は、SARS-CoV-2の複製を阻害するNACの能力は理論的なものであり、まだ実証されていないと考えています:

加えて、NACは、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)や呼吸器合胞体ウイルス(RSV)といった他のウイルスの複製を阻害することも示されています。このことは、理論的には、NACにはNF-κBを負に制御する能力があるため、SARS-Cov-2も阻害する可能性があることを意味します[文字強調は弊社によるものです]。

N-Acetylcysteine to Combat COVID-19: An Evidence Review | TCRM (dovepress.com)

NACがCOVID-19を効果的に治療するかどうかについては、相反する結果が得られている。

NACが粘液を薄める効果があることから、粘液産生に関連するCOVID-19の症状を緩和するのに有用であることは確かです。

しかしながら、NACが粘液溶解作用とは別にCOVID-19に対して有用かどうかは不明です。患者におけるCOVID-19治療としてのNACの有効性を検討した研究はいくつかあります。しかしながら、これらでは相反する結果が得られています。

スペインで重症のCOVID-19患者を対象に行なわれたランダム化比較臨床試験では、酸素摂取量の改善と炎症に関連するバイオマーカーのレベル低下が報告されています。しかしながら、これらは最終的には生存率の改善には結びついていませんでした[5]。

中等度または重度のCOVID-19肺炎の入院患者を対象としたギリシャ後向き研究では、NACを投与しなかった患者と比較して、NACを投与した患者は機械的人工呼吸を必要とする可能性が低く、入院から28日後の死亡率が低かったことが報告されています[6]。興味深いことに、NAC投与群には対照群よりも重症の患者が多く含まれていました。しかしながら著者らは、これらの所見を確認するためには「適切にデザインされた前向き臨床試験」が必要であると述べています。

一方、ブラジルで行なわれた 二重盲検無作為化プラセボ対照試験では、重症のCOVID-19患者を対象としていたものの、高用量のNACが人工呼吸の必要性を減少させるという結果には至っておりません[7]。また、集中治療室での入院期間や死亡率も減少させるものではありませんでした。

イタリアで実施されたある後ろ向き研究では、NACを投与された生存患者は、投与されなかった患者と比較して入院期間が短いことが判明しました[8]。しかしながら、研究者らは2群間で院内死亡率やICU入室への影響を認めておりません。

従いまして、COVID-19に対するNACの有効性について確かな結論を出すには、より多くの研究-望ましくはランダム化比較臨床試験-が必要です。論文発表の時点で、ClinicalTrials.govで検索すると、3件の有効な臨床試験が示されています

また、上記で引用した研究は、重症のCOVID-19入院患者のみを対象としていることを考慮することも重要です。NACは軽症の患者には異なる結果をもたらすかもしれません。米国のCambridge Health Allianceが実施した臨床試験が、この疑問に対する答えになるかもしれません。この臨床試験は、軽症のCOVID-19が重症に進行する可能性をNACが減少させることができるかどうかを調べたものである。この試験は現在、ClinicalTrials.govで "Completed "と表示されていますが、結果はまだ公表されていません。

Health Feedbackでは、Elite Nutrition OmahaのウェブサイトのContactページを通じてLucchinoに連絡を取っていますが、掲載までに回答は得られていません。

米国FDAはNACを栄養補助食品として禁止していない;   NACサプリメントガイダンスは法的拘束力を持たない

FDAがサプリメントとして NACを禁止しているという主張は、NACを摂取する人々を "彼ら "は望んでいないと主張したLucchinoによって暗示されたものでもありますが、NACを栄養補助食品の定義から除外しないよう求める市民請願者に対する米国FDAの回答に端を発しています。

連邦食品・医薬品・化粧品法では、新薬として承認された製品は、承認前にその製品が栄養補助食品や食品として販売されていたか、米国FDAがその製品が連邦食品・医薬品・化粧品法の下で合法であると認める規則を発行しない限り、栄養補助食品とは見なされません。

NACは販売開始前に医薬品として承認されていたため、同法はNACを栄養補助食品と見なすことを認めていません。

米国FDAは2022年、NAC含有製品に関する最終ガイダンスを発表しました。このガイダンスでは、米国FDAの「栄養補助食品と表示された特定のNAC含有製品の販売と流通に関して、執行裁量を行使する意図」が示されています:

この施行裁量方針は、NACが「栄養補助食品」の定義から除外されていなければ合法的に販売される栄養補助食品であり、連邦食品医薬品化粧品法(FD&C法)に違反していない製品に適用さ れます。

download (fda.gov)

この施行裁量方針は、NACが栄養補助食品の定義から除外されていても、その製品が連邦食品医薬品化粧品法に違反しない限り、米国FDAはNAC含有栄養補助食品に施行しないということを意味します。

加えて、米国FDAの最終ガイダンスには法的拘束力はありません。米国FDAのウェブサイトには次のように記載されています

この文書の内容は、特に契約に組み込まれない限り、法的効力を持たず、いかなる形でも一般大衆を拘束するものではありません。この文書は、法律上の既存の要求事項に関して、一般大衆に明確性を提供することのみを目的としています。このガイダンスを含むFDAガイダンス文書は、特定の規制または法的要件が引用されていない限り、推奨事項としてのみ見なされるべきものです。FDAガイダンスにおけるshouldの使用は、何かが提案または推奨されているが、必須ではないことを意味します。[文字強調追加は弊社によります]

Guidance for Industry: Policy Regarding N-acetyl-L-cysteine | FDA

更に、米国FDAのガイダンスは、「FDAによるNACの完全な安全性レビューは現在も進行中」であるものの、「最初のレビューでは、この成分の栄養補助食品への使用または栄養補助食品としての使用に関する安全性の懸念は明らかにされていない」と付け加えています。そのため、米国FDAは「栄養補助食品として、或いは栄養補助食品にNACを使用することを許可するために、FD&C法201条(ff)(3)(B)に基づくルール作りを開始することを検討しています」としています。

Health Feedbackは米国FDAにコメントを求め、新たな情報が得られればこのレビューを更新する予定です。

全体として、米国FDAが栄養補助食品としてのNACの禁止を望んでいるという主張は、米国FDAの姿勢を正しく反映しているとは言えません。

結論

要約すると、NACが粘液産生に対して有効であることは正しく、粘液に関連したCOVID-19の症状に取り組むためにNACを使用することは確かに有用です。しかしながら、NACがCOVID-19患者にとって、NACの粘液溶解作用以外の効果があるかどうかは不明です。NACはウイルスの複製を減少させることが示されているものの、これはin vitro研究と他のウイルスで観察されたもので、ヒトやSARS-CoV-2では観察されていません。これらのin vitroでの結果がヒトで再現可能かどうかはまだ不明です。

更に、試験管内で有望な結果が得られてから、その薬剤が臨床的に有意な改善をもたらすまでには隔たりがあります。NACの服用がCOVID-19に有効かどうか、また有効な場合、疾患の重症度がNACの有効性に影響するかどうかは、まだ不明なままです。COVID-19に対するNACの有用性を確実に結論づけるには、追加の研究が必要です。

引用文献

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