見出し画像

OTHER SIDE

終電時間近くの深夜の駅前のコンビニ。
トラックから卸され検品が済まされたばかりのコンテナから、売れ残った菓子パンで閑散とした棚を再度敷き詰めるように小袋で補充していく。

この時間にもなると電車が出入りに伴うヒトの流れもパターン化していき、その電車の入りの間隔も次第に広がる。
駅前に連なるタクシーから顔馴染みのドライバーが缶コーヒーと週刊誌の会計を済ませてはそそくさと去って行く。
金曜日だからか、他の平日の深夜と比較すると飲み帰りらしきスーツ姿の見慣れないサラリーマンが時折り紛れてはいるものの、特に代わり映えのしない平日の深夜の顔ぶれがそれに続く。

深夜のシフトに入ると必要最低限の体制が敷かれることもあり、商品の陳列棚とレジを行ったり来たりしがちになる。
その度手元の作業を中断せざるを得ないのだが、時間帯に依ってはめっきり客足も途絶えるのでマイペースな私にしてみれば特にストレスに感じることも無かった。

そろそろ最終の電車が駅を出て行った頃だろうか、出入りするヒトの顔ぶれから時間帯も何となく読めるようにもなっていた。
左手首の腕時計に目をやると、やはりそのような時間を時計の針が指し示していた。
意図した通りだと思い直して間も無く、上下ストライプグレーのスーツに身を包んだサラリーマンが店内に入ってくるのを認識した。手に下げた肉厚なレザーのバッグが少し膨れている。
目元に疲れを滲ませながら、店内を悠々と特に買うつもりも無いらしい雑誌や総菜までの一通りを一瞥し、アルコールコーナーの前で立ち止まった。
片手には飲みかけのレモン酎ハイが収まっており、同じ銘柄を新たに手に取ってレジへ向かって歩みを進める。

後を追うようにそのサラリーマンを追い越してレジに入ると、積み重ねられた小銭が将棋の駒を指すようにこちらに差し出されていた。
タッチパネルの年齢確認の表示をポンと指で突き、レモン酎ハイを手に踵を返す後ろ姿を眺めていた。目の前に金額ピッタリの152円と私の手元にはレシートが残る。
何処か抜け感のあるフワフワとした雰囲気が漂い年齢は読めないがきっと30代も半ばであろう、身に付けている持ち物から何となくそう窺える。
何処かで飲んだ帰りに飲み足りずといったところか、ここから家路へ着くまでの道中を1人で仕切り直すのだろう。何とも凄く分かりやすい光景ではないか。
就職した後に待ち構えるサラリーマン像を思い浮かべてみたはもの、「違う…。きっとあんなのではない」と浮かんだ像を掻き消すように、意識を取り戻すように我に帰る。

空になった菓子パンのコンテナをバックへと片し、気を取り直して再びレジの中へと戻る。
ヒトの出入りが落ち着いている間に揚げ場を綺麗にしておこうとフライヤーへ手を掛けて程なくしたところ、先程のストライプグレーのスーツ姿のサラリーマンが別の誰かを連ねて再び店内へ足を踏み入れようとしていた。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?