日光江戸村
もう江戸村とは言わないらしい。
江戸ワンダーランド。
もう外国人観光客向けに舵をきっているようだ。
正直舐めていたが、控えめに言ってめちゃくちゃ良かった。
2024年夏。
免許を持っていない家族なので、特急列車から蒸気機関車に乗り換えて最寄り駅まで行き、バスで田舎道を走る。
この特急から蒸気機関車に乗り換えて江戸、というアプローチも、次第にタイムスリップしていくような気分を演出。
入口の大きな木製の門を通ると、しばらく林の中を歩いてようやく建物が出てくる。
旅の途中に関所を通ってたどり着いた宿場町になっているようだ。
実際よく考えられている。
町はもう江戸時代。
江戸村で働いている人全てがカツラと着物着用。みんな勤務開始のどれくらい前に出社しているのか。
ひとりひとりの意識が高く、ディズニーランドのキャストより世界観を演出している。
時間になると町をお神輿が通る。
ここのお神輿は、厄祓いでオーディエンスがお神輿に水をかけるという。
お神輿の時間が近づくと、お神輿のルート沿いに水の入った大きな桶と大量の茶碗が用意される。
子どもたちは活き活きと、両手に水をすくった茶碗を持ってお神輿を待つ。
今となっては、お神輿がどんな形で、どんな装飾がされていたかなんて覚えていない。
ただただ子どもたちと、茶碗を持ってお神輿を追いかけた。
どんな豪華なお神輿を見るより記憶に残る。
見せるより、多くの人が参加できる形。
装飾などの費用もかからない、チープだけどこの上ない形。
こんなアイデアが江戸村には溢れていた。
子どものリクエストで、忍者のアトラクションに参加した。
要はスタンプラリーで、全てのスタンプを集めると忍者として認められて、認定証がもらえる。
スタンプ探しの途中で、順調に進んでいるかと忍者が声をかけてくれた。
僕はちょっとふざけようと思って、子供に
「ちょっと待って。スタンプ集めなくても、今この忍者のおじさんを倒したら認定証貰えるんじゃない?」
と言った。
それを聞いた忍者は
「なるほど。それは、、、あるぞ。」
と、僕に鋭い視線を向けて、腰の刀に手をかけた。
このアドリブ、対応力。
一瞬本気とも取れる演技力。
なんだか、普段は江戸村のキャストをしているけど、有事には国からの要請で忍びとして任務をこなしているかのような、万城目学の小説のような、江戸村に深みを持たせる対応だったと、思いもよらず感動してしまった。
すぐに笑顔に戻った忍者は、
「じゃ、私の角に触ることが出来たら認定証をやろうかのっ」
と言いながら去っていった。
え、ラムちゃん?
うる星やつら1話目?
それどれくらいの人に通じるボケなの?
閉園が近づくと、町の人は「忙しい忙しい。また来てくださいねぇ」と言いながら掃除と片付けを始める。
これもみんなが役に入っているからできることで、普通のテーマパークやお店ではなかなか印象が良くない行為。
ゲストに速やかに退場を促し、残業も抑制。
ここまで計算されているのか、買いかぶり過ぎか。
お土産屋の屋根に般若のお面をかぶった忍者が立ち、帰っていくゲストに手を振る。
般若のお面を怖がる子どもに、
「あの怖い忍者、みんなが掃除してるのに手伝わないね。」
というと、
「掃除など、せん!
さらばじゃ」
と手を振る。
こうやって積極的にゲストに接触、江戸村の住人のように接してくれる。
人を感動させられるのは人だと、改めて感じた体験だった。