HIP HOP/R&BとTシャツとわたし/高橋 龍
第8回 もはやヒップホップは、ストリートのものだけではなくなった
ジャズ、ロックと2回連続で音楽にまつわるTシャツのお話をしておりますが、今回取り上げる音楽ジャンルは、ヒップホップ/R&Bです。最近、僕の予想をはるかに超えて、ヒップホップやR&BのTシャツの人気が高まっています。以下で紹介している「2 PAC」のものは、探している人も多いのではないでしょうか?
今、LOUIS VUITTONのメンズウエアデザイナーを務めるヴァージル・アブローを始め、一部のハイブランドのデザイナーたちがヒップホップファッションを好んで身に付けているようです。「イケてる!」と思って自分自身のファッションに取り入れるくらいですから、彼らの服づくりにおいてもヒップホップの要素が組み込まれ、コレクションを通して「モード」として発信されているわけです。今注がれているヒップホップへの熱い視線は、純粋なヒップホップ好きだけではなく、ハイファッションへの関心が高い人たちのものでもあるのです。
もっとダイレクトに、“コラボレーション”というかたちでヒップホップを取り上げるのがSupremeです。2017年春夏には、左ページでも紹介しているバンド「Sade」のボーカル・Sade AduのフォトTシャツを制作し、注目を集めました。余談ですが、Supremeがコラボ相手としてセレクトしたものは人気が出ることが多いです。以前アニメTについてお話したときにも登場した『AKIRA』もSupremeのコラボ相手のひとつなのですが、今はSupremeのものでなくても『AKIRA』Tシャツは超人気のレアものです。なじみの古着屋オーナーいわく、Supremeのデザインチームは、ときどき日本の古着屋をまわってデザインソースを探しているとかいないとか。こうして1枚のなんてことない古いTシャツがお宝になったりするから、ヴィンテージTシャツコレクションはやめられません。
ヒップホップのTシャツは、ビッグシルエットのものが多いことに加えて、アートワークへのこだわりが強いのが特徴。アルバムジャケットなどをなぞるだけではない、そのアーティストの美意識が盛り込まれたオリジナルのプリントが魅力です。ただし、’90年代以降に製造されたダブルステッチのものが多いのがヴィンテージ好きとしては、少し残念だったりもします。とはいえ、日本でもダンス&ボーカルグループ・三代目 J SOUL BROTHERSの岩田剛典さんがヒップホップファッション好きということで、若者の間でもじわじわ火が付きそうな予感。しばらくはヒップホップTから目が離せそうにありません。
下心は、断じてない。R&Bがかかったクラブでは、彼女と体を寄せ合いながら踊るのが礼儀(=マイルール)だからである。君もそう思うでしょ?
[HIP HOP/R&B]Tシャツコレクション
今にわかに盛り上がりを見せているヒップホップ/R&B。ファッションだけでなく、音楽と、そこからにじみ出るアーティストの精神にも触れてみては?
2 PAC
アメリカのヒップホップMC。1991年にソロデビューを果たすと、ミリオンセラーを連発。数多くのゴシップがありながらも絶大な人気を確立。ヒップホップ界の西海岸vs東海岸抗争の矢面に立ち、25歳のときに銃撃され死亡。
MARY J BLIGE
アメリカのR&B歌手。ヒップホップのビートでR&Bを歌う「ヒップホップ・ソウル」と呼ばれるスタイルを最初に確立した。第49回グラミー賞(2007年開催)では、「最優秀R&Bアルバム賞」など3部門を獲得した。
JANET JACKSON
アメリカのシンガーソングライターで、兄はMichael Jackson。高い歌唱力とダンススキルでヒップホップ/R&Bをポップシーンに広めた。人種差別などの社会問題をテーマにしたメッセージ性の強い楽曲も積極的に発信している。
WU-TANG CLAN
アメリカのヒップホップグループ。10人のメンバー1人ひとりのキャラが立っていて、ソロ活動でもそれぞれ成功を収めている。名前の「WU-TANG」はカンフー映画『少林寺武者房』に由来し、楽曲にもカンフーの精神が盛り込まれている。
SADE
イギリスのバンドで、ナイジェリア出身のボーカリスト・Sade Aduのスモーキーなアルトの歌声が代名詞。制作する楽曲自体はヒップホップ/R&Bではないが、たびたびヒップホップアーティストたちにサンプリングされている。
ヴィンテージTシャツの豆知識 vol.8
黄ばみが気になるTシャツの対処方法
オシャレなヴィンテージTシャツでも、黄ばみがあったら台無し。そんなときは、液状ではなく粉末の色柄専用漂白剤を熱湯で溶かして20分前後つけ置きした後、洗濯すれば白さが復活! ただし、長時間のつけ置きは生地を傷めるためご注意を。
解説_高橋 龍
たかはし・りゅう/映画、音楽、アートのヴィンテージTと90sカルチャーを感じさせる古着を専門に扱う「anytee」のオーナー。
instagram : anyteeshop
イラスト_Mizmaru Kawahara
※本記事は、『ヘアモード』2019年10月号で掲載した記事を転載しました