映画とTシャツとわたし/高橋 龍
第1回 映画関連のTシャツがこんなにも多彩なワケ
皆さんはなぜ映画のロゴやキャラクターなどがプリントされたTシャツが存在するのかご存知ですか? 1つはきっとご想像の通り、パンフレットやキーホルダーのように、映画館でグッズとして販売するためです。映画関連のTシャツは、ハリウッド全盛期である1980~90年代のものが多いですね。当時は数多くの映画がつくられ、今とは比べものにならないほどの費用をかけて制作、宣伝されていました。『地獄の黙示録』(1980年・アメリカ)なんて、ロケ場所であるフィリピンで起こった内戦や台風の影響で何度も撮影がとん挫した上に、莫大な費用と期間をかけたシーンの一部が削除されてしまったとか! そんなふうに映画をつくれたのは、映画を映画館で見るのが当たり前の時代だったからであり、ヒットすればとんでもない額の興行収入があがっていたからに他なりません。映画のヴィンテージTシャツは、“映画が元気だった”証なのです。
もう1つ、映画関連のTシャツのつくられ方があります。それは「ブートレグ」です。ブートレグとは、映画ファンが勝手にデザインし、シルクスクリーンでプリントしてつくったTシャツ。著作権だなんだとうるさい現代では考えられない所業です。しかし、だからこそ面白くて自由な発想の映画Tシャツがたくさん生まれた、とうのもまた事実。1つの映画でさまざまなデザインのTシャツが存在するのは、ブートレグによるところが大きいでしょう。
意中の女の子と映画デート。可愛い顔してフレディ・クルーガーのTシャツなんて着てきたら、もう君になら引き裂かれたっていい!
さて、映画関連のTシャツを選ぶ方法ですが、僕は四の五の言わずにぱっと見てステキだなと思うものを手に取ればいいのではないかと思います。ただ、そこで終わらずにどんな映画なのか調べてみて、なんなら見てみてください。Tシャツは、コミュニケーションツールとしても優れていて、例えばある映画のTシャツを海外に着て行けば「この映画好きなの?」と現地の人に話しかけられたりします。逆に言えば、モチーフとなっている映画を全く知らないとせっかくの出会いも台無しです。もっと言うと、センセーショナルな映画のTシャツなら、着ていく場所には注意が必要。特に異なる言語で何か書いてある場合はどういう意味かきちんと調べておきましょう。映画のヴィンテージTシャツから広がる新しい世界。何だかロマンがあると思いませんか?古着屋さんにもたくさん置いてあると思うので、皆さんもぜひお気に入りの映画Tシャツを見つけて、映画と共に楽しんでみてください。それを着て映画館に行く、なんていうのも粋ですね!
[映画]Tシャツコレクション
Tシャツになった不朽の名作たち。ロゴが使われていたり、あるシーンや台詞が切り抜かれていたりとデザインいろいろ。
PULP FICTION(1994年・アメリカ)
クエンティン・タランティーノ監督の代表作。「パルプ・フィクション」とはくだらない話の意で、4つの話がオムニバス形式で展開される。バックには、アメリカでのキャッチコピーがプリント。ちなみに日本でのキャッチコピーは「時代にとどめをさす。」。
地獄の黙示録(1979年・アメリカ)
フランシス・フォード・コッポラ監督のベトナム戦争を舞台にした映画。Tシャツにプリントされた「CHARLIE DON’T SURF」はロバート・デュヴァル演じるビル・キルゴア中佐が発した有名な言葉。「CHARLIE」とは南ベトナムの武装共産ゲリラを指す。
エルム街の悪夢4(1988年・アメリカ)
夢に現れ、右手にはめられた鉄の鉤爪で相手を引き裂く殺人鬼・フレディ・クルーガーの恐怖を描いたホラー映画シリーズの第4弾。正面には赤く焼けただれたフレディの顔の質感が発砲プリントで表現されていて、とてもリアル(怖い!)。
ゴーストバスターズ(1984年・アメリカ)
4人の男が幽霊退治に奮闘するアイヴァン・ライトマン監督のSFコメディ映画。ノーゴストマークの周りにマシュマロマンやスライマーなどオールスターが出揃うこのTシャツは、各キャラがガタガタに配置されている点からおそらくブートレグだそう。
ヴィンテージTシャツの豆知識 vol.1
袖のステッチを見れば製造年代が大体わかる!
袖のステッチが1本(シングルステッチ)のTシャツは1990年代までにつくられたもの、2本(ダブルステッチ)のTシャツはそれ以降につくられたもの。より古いTシャツを探している人は、まずは袖をチェックしよう!
解説_高橋 龍
たかはし・りゅう/映画、音楽、アートのヴィンテージTと90sカルチャーを感じさせる古着を専門に扱う「anytee」のオーナー。
instagram : anyteeshop
イラスト_Mizmaru Kawahara