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ソフィーとの再会ーニューヨークからアムステルダムへー
2012年9月ニューヨークに語学留学したとき、レキシントン通り72丁目にある宿泊所「レジデンス」の隣の部屋を間違って開けようとしていたら、現れたのがソフィーだった。事情を説明すると、
"I am Sophie, Dutch. Nice to meet you."
"My name is Yoshiko. I am from Tokyo. Pleased to meet you."
と自己紹介し、友達になった。
翌日は勤労感謝の日だった。時差ぼけで朝早く目が覚めてしまい、どこかに出かけようと思っていたら、ソフィーがセントラル・パークに行くところだったので、そのプランに便乗することにした。
10分ほど西に向かって歩くと、公園の門が見えてくる。右手にメトロポリタン美術館がある。入るとすぐに湖があり、周辺で沢山の人がジョギングをしている。祝日のためか、風船がついたベビーカーを押したカップルも散歩を楽しんでいた。歩きながら、ソフィーは、家族のことや、大学で法律を学び、今は弁護士になるべく就活中だと話す。
不思議の国のアリス像の前を通るときに、ボーイフレンドが浮気したらしいので、別れようと思うと打ち明けた。私は英語が得意というわけではないが、なぜか彼女の言いたいことが良くわかる。親子ほどの年齢差を越えて、私達はあっという間に友達になった。
公園を出ると、有名な五番街だ。映画「ホームアローン」の舞台になったプラザホテルが見える。ぱちぱちと写真を撮りながら、高級ブランド店をひやかしていく。ふと見ると、しばしば同じ商品を見ている。この人とは何か縁があるのだろうと思った。
一緒にタイムズスクエアの中心にある語学学校に通い、授業の合間にニューヨーク近代美術館に出かけた。中でも印象深いのは、2001年9月11日にイスラム過激派のテロにあって倒壊した世界貿易センターの跡地を訪れたことだ。平日にもかかわらず沢山の人が列を作っている。列に並び、ゆっくりと進む。ビルがあった場所は犠牲者の名前が刻まれた四角いモニュメントで囲まれ、悲しい雰囲気が漂っていた。
2週間の留学期間を終えて9月15日帰国の日、ソフィーが見送ってくれると言う。あれこれ用事を済ませていると、廊下で、"I thought you had already gone."と彼女が泣きべそをかいていた。"I won’t leave you without saying goodbye."と慰めると、こちらを興味深げに見ていた二人のメイドがあらら、と笑った。
タクシーが来たので、私は、"Next time let’s meet in Amsterdam."と言ってタクシーに乗り込んだが、その時は再会する日が本当に来るとは夢にも思っていなかった。
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だが、翌年どうしてもオランダに行ってみたくなった。アムステルダムは何度か経由したことはあるが、行ったことはない。思い切って、8月末に飛行機のチケットを予約した。
ソフィーにメールすると、9月1日、シンゲル運河沿いにある「花市場」前にあるスターバックスを待ち合わせ場所に指定してきた。19世紀半ばに始まったこの花市場は、当初は船上から花を売っていたそうだ。今も運河の上に浮かぶボートの上にある。
早く着いたので、色とりどりの花や球根を眺めていると、オランダ人女性特有のひっつめ髪にお団子ヘアのソフィーが姿を現し、一年前と同じようににこにこしながら、
"Hello. How have you been?"
と声をかけてきた。私も、
"Good. You look fine, too."と答えて、ハグをして再会の喜びを分かちあった。
オランダは物価が高いので、駐車料金を節約するために、皆自転車を使う。彼女も自転車でやってきた。慣れないと石畳の道を歩くのも大変なのに、オランダ人は運河にかかる橋も自転車で猛スピードで走る。
彼女はその日はニューヨークで初めて会った日からちょうど一年目だと教えてくれた。旅行をその日に合わせたわけではなかったので、偶然のいたずらに感激した。そして、"So, let’s celebrate!"とコーヒーで乾杯した。ソフィーは、"I wore this blouse in New York. Do you remember?"と、胸にドレープが数本入った白いブラウスを指さす。それはニューヨークで語学学校の修了式の後入ったスターバックスで着ていたものだ。
彼女はニューヨークにいたときには弁護士になるべく就活中だったが、その後インターンを経て、めでたくアムステルダムで弁護士事務所に就職した。初仕事の離婚訴訟ではDV被害を訴える妻を弁護し勝訴したという。またボーイフレンドもできて、結婚を考えているとも打ち明けた。若い友人が成長する姿を見るのは嬉しい。
しばらくなつかしくおしゃべりした後、アムステルダムの中心、ダム広場に繰り出した。広場を囲んで、王宮、新教会、マダムタッソー蝋人形館、アムステルダム歴史博物館の他に、市内で最も歴史あるデパート、「デ・バイエンコルフ(De Bijenkorf)」がある。立ち並ぶカフェのテラスでは、人々が陽射しを浴びて気持ちよさそうにコーヒーを飲んでいる。
デ・バイエンコルフは古めかしい外観で日本のデパートほど規模は大きくないが、最上階はフードコートになっていて、中は現代的な作りだ。人が少ないので、上からゆっくり各階を見て降りる。途中の家電売り場で、自分たちがテレビに映る仕掛けがあり、しばらくそこで遊ぶ。紳士服売り場も婦人服売り場もおしゃれな製品ばかりだ。
最後に、日本の1階にあたるフロアに来ると、バッグ売り場で黒いロンシャンの手提げバッグから目が離せなくなった。しばらくこの前を行ったりきたりしていると、ソフィーが、"It’s new model. I still haven’t seen this."というのが購入の決め手になった。これは今もお気に入りである。
外に出ると、気持ちのよい陽射しが注いでいた。私達は広場の中央にある白い戦没者記念塔の前で記念撮影した。"Next time we shall meet in Tokyo."と約束して、ソフィーは来た時のように自転車で帰っていった。
その後彼女は結婚し、ヘルダーランド州の州都、アーネムArnhemに移り住んだ。今では8歳の女の子と4歳の男の子がいる。去年はオンラインで久しぶりに彼女の顔を見て話し、家族を紹介してもらった。近い将来是非この庭園都市に行ってみたいと思っている。