小さなカケラ vol.17 / 蛍が飛ぶ初夏の夜に カヒミ カリィ_ミュージシャン、文筆家
2024.7.15
もうすぐ梅雨も明け、いよいよ夏本番ですね!皆さん、お元気にしていらっしゃいますか?
気持ちよく晴れ渡った青空に、照りつけるような陽射し。ここペンシルベニア州ランカスターは日本よりもひと足早く、本格的な夏が始まりました。
我が家の庭は今年もトマトやきゅうりが可愛い実をつけ出しました。今年もかなりの猛暑になりそうです。夏は一日最低2回は水を与えないと元気がなくなってしまうので、毎朝気温がグッと上がる前に早起きをして麦わら帽子をかぶり、植物達に水をたっぷりとあげるのが日課なのですが、長いホ-スを片手に冷たい水しぶきに手をかざすと何とも心地良く、段々と目が覚めてお腹も空いてきます。
寝室の窓にもついでにジャ-っと水をかけると、夏休み中で朝寝坊な、髪がボサボサの娘が窓から顔を出して笑います。熟した実やエゴマの葉っぱなどを摘んでキッチンに戻り、朝ごはんを作る夏の朝は何とも平和で良いなぁと思う今日この頃です。
実はこの初春からしばらくの間、珍しく体調を崩していました。
気になって病院に通っていたのですが、アメリカは日本と違って診察や検査の予約をしても数ヶ月先ということも珍しくないので時間がかかり、なかなか原因がハッキリしません。モヤモヤとした気分を抱えながら違う科の診察や検査を何度か受けていたのですが、その結果、どうやら長年様子見をしてきた子宮筋腫の影響ではないかと言うことでした。
痛む箇所が違っていたので意外でしたが、もう一度精密検査を受けたところ、ドクターから連絡があり、明日また病院に来れないかとの事。どうも筋腫の顔つきが良くないらしく、来週ひとつオペの空きが出来たのですぐに手術を受けないかと言われたのです。普段、なかなか予約が取れないというのに急にドクターの対応が変わったのを見て、これはどうやら呑気にしている場合ではないぞと動揺しました。さすがに翌週は急で予定が立てられなかったのですが、急いで諸々の事情を片付けて手術を受けることにしました。
同じ手術の場合、日本では10日ほどの入院が多いようですが、アメリカだとなんと2~3泊で退院だと知り、私は絶対無理そうなので最低もう1泊はお願いしようと心に決めていたのですが、意外にも順調に回復し、2泊3日で退院出来たのは自分でも驚きました。入院中、英語でのやり取りも自信がありませんでしたが、この数ヶ月、病院に通っていた時にバタバタと暗記した単語でどうにか切り抜け、ドクターやナ-スのアメリカらしい大らかな優しさに何度も癒され、たくさんのハグとお礼をして自宅に戻りました。
お腹を抑えながらヨタヨタと車を降りると、出迎えに出てくれた娘が一回り成長したように感じます。そして娘の後を追いかけるようにして、大好きな野良猫のペロが庭からヒョコヒョコと現れて一緒に迎えてくれたのも嬉しかった!数週間後に出た病理検査の結果も良性でホッと一安心しました。
正直、この数ヶ月は気が滅入ることも沢山ありましたが、振り返ってみると、それ以上に今までにはない学びが多く、また改めて日々の小さな出来事がどれだけ貴重で幸せなことかを実感する事ができて、とても貴重な時間になりました。昨年は自分にとって大切な方が続けて亡くなったことで寂しい気持ちになったり死生観についてなどグルグルと考えることが多かったように思うのですが、その経験も今回、私を助けてくれたかもしれません。思春期の頃に憂鬱だった私を支えてくれた音楽も、また私を別の素晴らしい世界へ連れていってくれました。そして何より家族や友人達に感謝の気持ちで一杯です。
今夏も夕方になると、薄いピンク色の空にたくさんの蛍がふわふわと飛んでいます。涼しくなった庭に出て、植物達にもう一度水をあげるといつのまにか辺りは薄暗く、空を見上げると黄色い月が眩しく光っています。この夏は少しずつ身体を動かして体力を付け、また元気一杯で毎日を過ごしたいと思っています。
カヒミ カリィ
ミュージシャン、文筆家、フォトグラファー 。91年デビュー以降、国内外問わず数々の作品を発表。音楽活動の他、映画作品へのコメント執筆、字幕監修、翻訳など幅広く活躍。これまでカルチャー誌や文芸誌などで写真や執筆の連載多数。2012年よりアメリカ在住。
http://www.kahimi-karie.com