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小さなカケラ vol.12 / 春に三日の晴れ間なし カヒミ カリィ_ミュージシャン、文筆家

先日、朝からポカポカと春らしい穏やかなお天気だったので、少し先延ばしにしていた庭の手入れをする事にしました。雑草を取って土を耕したり、冬から小屋で育てていた苗達を外に出したり、植木鉢の整理をしたりなどしていたらあっという間に時間が経ち、気付けばもう娘を迎えに行く時間です。
午後になって気温はまた上がり、早足で歩いているとうっすら汗をかくほどに。今年初めての麦わら帽子をかぶり、タンポポでいっぱいの帰り道をふたりでのんびり歩いていると、突然の風に私の帽子が飛ばされて、ユラユラと揺れていたタンポポの綿毛達は一気に舞い上がり、白い雪のようにふわりと漂ったかと思うと、あっという間に宙に消えていきました。春の天気は本当に気まぐれです。まるで風にからかわれているようだなぁと思いながら家路をたどりました。

家に到着してしばらくすると、外から急にザワザワとした音が聞こえてきました。何だろう?と窓を覗くと、ついさっきまで爽やかだった空があっという間に鼠色の雲に覆われ、まるで台風がやって来たかのような強風があちこちの樹々を揺らしています。そのうち大雨が窓を打ち始め、ゴロゴロとカミナリまで鳴り出しました。
「風の音って何だかワクワクするなぁ」と娘は呑気に外の景色を眺めています。急いで寝室の窓を閉めに行くと「あ、小屋のドアが壊れた!勝手に開いて飛んでいったよ!」と娘の声。まさかと思いきや窓から首を出して庭を覗くと、飛ばされ落ちたドアと隣家の庭側にバタンと倒れた古い木製のフェンスが目に入り驚きました。
真夏のような嵐も30分程もすると嘘だったかのようにピタリと鎮まり、鳥の鳴き声と一緒に再び穏やかな春空が戻ってきました。

恐る恐る外に出てみると、辺り一面びっしょりに濡れた庭のあちこちにシャベルやジョウロ、今朝小屋から出したばかりの苗のトレ-も全て飛ばされて、庭の端のようにまで散らばり落ちているではありませんか。地面に投げ出された小さな苗を集めながらしばらく庭に佇んで唖然をしていましたが、まぁだいじょうぶと、割とすぐに諦められたのは自分でも不思議に思うほどでした。雨上がり独特の何とも言えない草の香りと、夕焼けの優しい光がとても心地良かったからかも知れません。
春に三日の晴れ無し。一瞬の嵐は見事なほどに庭の綿毛も全て吹き飛ばし、ヒョロヒョロとした間抜けな風貌の茎だけがノンキにゆらゆらと揺れていました。

カヒミ カリィ
ミュージシャン、文筆家、フォトグラファー 。91年デビュー以降、国内外問わず数々の作品を発表。音楽活動の他、映画作品へのコメント執筆、字幕監修、翻訳など幅広く活躍。これまでカルチャー誌や文芸誌などで写真や執筆の連載多数。2012年よりアメリカ在住。
http://www.kahimi-karie.com
Instagram : @kahimikarie_official

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