小さなカケラ vol.11 / うとうと春の朝寝坊 カヒミ カリィ_ミュージシャン、文筆家
皆さんお元気にしていらっしゃいますか?
長い冬もやっと一段落して少しずつ春の萌しを感じられるようになってきましたね! 肌寒い日はまだ続いているものの、このところ朝の日差しや鳥のさえずりが心地良いからか、グッスリと眠れて夜が明けてもついウトウトとしてしまいます。
今年は春の訪れが特別貴重に感じて、道端で小さな芽や蕾を見つける度に何だかホッとした気持ちになっています。
今冬、アメリカでは一世代に一度と言わるほどの大寒波が到来し、シカゴなどミッドウエストが一時期北極よりも寒くなったと聞いて驚いたのですが、かと思うとその直後に気温が急に上がって一部で洪水が起こるなど、温暖化の影響を感じるニュースが例年にも増して多かったように思います。
先日、娘は楽しみにしていた課外授業で森に行き、動植物観察とメ-プルシロップ作りの体験をしてきたのですが、「今年は動物達の冬眠期間や渡り鳥の移動時期も例年より1ヶ月も早かったり、メ-プルの樹液も寒暖差の影響で量が減ってしまったんだって」と、複雑な顔をして帰ってきました。我が家の庭の植物達も、種をつけるタイミングを失って枯れてしまったり、今まで冬越できたものも半分以上ダメになってしまったりしてとても残念だったので、今年の春の訪れが例年になく心配になっていたのです。
晩秋まで毎日のように庭に遊びに来ていた野良猫達やリス達も、寒くなってからほとんど姿を見せなかったので、無事に寒さを乗り越えられているかなと思ったり、空を飛ぶあの集団のカラス達も夜は寝ぐらで皆一緒に暖をとっているのかな、など、地面を見ても空を見上げても気になる事が多くて、何となくずっと落ち着かずにいました。
1960年代に環境問題を訴えた生物学者、レイチェル・カ-ソンの著書『沈黙の春』を娘と共に読み返してみたり、近くの林に出かけては植物や虫を観察しながら思いを巡らせてみたり。
そんな感じで何となくそわそわと冬を過ごしていましたが、先日とても久しぶりに野良猫達が可愛らしい姿を見せてくれました。
少し痩せていたものの元気そうで、前に会った時よりもひと回り大きくなったようで娘と大喜びです!昨年は小振りの成猫だと思っていたのですが、どうやら若者だったようです。
リスの姿はまだあまり見かけませんが、ヒヤシンスの芽の辺りに掘り起された小さな穴を何個も発見したので、どうやら健在な様子です。昨年地中に隠した木の実を、こそこそ探しに来たに違いありません。自分で埋めた場所を忘れてしまうなんて、リスは本当にウッカリ者です。
納屋の床下に巣を作って冬眠していたウッドチャックも、少し前に一度だけ顔を覗かせているのを見かけました。ウッドチャックは結構人懐っこくて、庭で目が合っても悪びれなく堂々と家庭菜園のニンジンをモグモグと食べ続けるのでつい笑ってしまいます。きっとこの夏も私達を楽しませてくれる事でしょう。
そしてほとんど枯れてしまって諦めていたフォックス・グローブの苗も、いくつか復活して可愛い黄緑色の葉っぱを覗かせ始めました。フォックス・グローブは種まきから2年目にしてやっと花を咲かせる二年草で、昨年の引越時に丁寧に掘り起こして移植までしたというのに、気温がガクンと下がった時に油断してカバーをしなかったせいで枯れてしまい、とてもガッカリしていたのです。
厳しい今冬を乗り越えた動植物達に、大きなハグとエ-ルを送りたいです!
日本はそろそろ桜の季節ですね。以前、仕事帰りに毎日のように歩いていた中目黒の川沿いや細い裏道、自動販売機の明かりなどをふと思い出しては、恋しくなっている今日この頃です。
皆さん、どうぞ素敵な春をお過ごし下さいね!
カヒミ カリィ
ミュージシャン、文筆家、フォトグラファー 。91年デビュー以降、国内外問わず数々の作品を発表。音楽活動の他、映画作品へのコメント執筆、字幕監修、翻訳など幅広く活躍。これまでカルチャー誌や文芸誌などで写真や執筆の連載多数。2012年よりアメリカ在住。
http://www.kahimi-karie.com
Instagram : @kahimikarie_official