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言葉の力
義経軍歌に、「大将は人に言葉をよくかけよ。」とあり。組被官にても自然の時は申すに及ばず、平生にも、「さてもよく仕たり、爰を一つ働き候へ、曲者かな。」と申し候時、身命を惜まぬものなり。兎角一言が大事のものなり。
目上の人から親しく言葉をかけてもらうということは本当に嬉しいものである。それが労いの言葉であったり励ましの言葉であったりする場合はなおさらである。そして、敬愛の念は一気に加速し、この人のためには何はさておき役に立ちたいという思いが全身に広がり、「身命を惜まぬものなり。」といった献身的な行動をも厭わないことになっていく。
「大将は人に言葉をよくかけよ。」と言っているように、リーダーたる者、グループの構成員一人一人に日頃から心を配り、きっかけを見つけてはこまめに言葉をかけることを心懸けるべきである。それもありきたりの機嫌取りであっては相手の心を感動で包むことはできない。「自然の時」つまり、万一の事態が発生したような場合の適切な対応を称賛督励することは勿論であるが、常日頃からのさりげない一言一言の積み重ねが磐石な人間関係を築いていく上では不可欠なのである。そういった一人一人との人間関係が、ひいては他を圧倒する集団の強力な力を生み出していく源ともなっていくのである。
人間は誰しも程度の差こそあれ、自己顕示欲を持っているものである。したがって、自己の存在を認められたいという思いは実に自然な願望であるだけに、リーダーはこのことをしっかりと肝に銘じ、メンバー一人一人の長所の発見に努力する必要がある。そして、それぞれの能力に応じた働きに対して、心からの労いと、さらなる働きを期待する励ましの言葉を怠ってはならないのである。
「組被官」つまり家に仕えている者といったごく身近な親しい者に対しては、つい暖かい言葉かけを怠りがちであるが、例外があっては絶対にいけないのである。
リーダーはまた、場に応じ、相手に応じて適切な言葉で個々のやる気を引き出し、自信を植えつけていく必要があるだけに、日頃から言葉を豊富にしておくことも大切なことである。「曲者」という言葉には、可能性を秘めた人物として今後が大いに期待されるという称賛の気持ちが籠っている。それだけに「曲者かな」と言われることは無上の喜びなのである。
言葉かけの工夫も、リーダーとしての大切な仕事なのである。