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テニミュと向き合うとき

ミュージカル『テニスの王子様』 20周年おめでとうございます。

私が初めてテニミュを認知したのは1stシーズンのDVDのCMだったように思う。
青学レギュラー陣が歌う「負けるもんか、負けるもんか」のフレーズと、漫画のミュージカル化という物珍しさが印象に残っていた。

あれからおよそ20年が経った2023年の過日。
テニミュ20周年企画として、過去の公演映像の配信展開が告知された。

テニプリにハマって1年半。
そろそろメディアミックスは一通り浚っただろうという時期において、未だに手をつけていないものがただひとつ、残っている。

「テニミュ」である。

こいつの履修は最後の最後になるだろうという予感は沼に落ちた直後からあった。
テニミュといえば2.5次元ミュージカルの金字塔。漫画の舞台化という枠を超え、「テニミュ」という1つのジャンルとして伝統と人気を確立しているほどのビッグコンテンツだ。

にも関らず今の今まで触れずにいた理由は至極単純。
私は【2.5次元舞台】があまり得意ではないから。これに尽きる。

元々舞台演劇というものに苦手意識があるうえ、そこに2.5次元という要素が加わることで、
「これまで愛でていた虚構(2次元)のキャラが生身の人間(3次元)にすり替わって目の前に現れる違和感」を覚えてしまうタチらしいのだ、どうやら。

とはいえ漫画原作の実写化とかは普通に観れるので、やはり演劇というメディアに馴染めていないだけなのだと思う。

ちょうどはてな匿名ダイアリーで演劇の投稿がバズっていたが、演劇に興味ない派の反応に首肯する部分が非常に多かった。
元増田の言うところの「舞台の上の全てが嘘っぱちの作り物であることを認識した上でその世界に没入する」という楽しみ方ができる素養が私には身についていないのだろう。



私にはかつてドハマリしていたとある作品があった。
その作品も2.5次元に力を入れていて、物は試しにと舞台の配信を観たことがあるのだが、
それがどうにも口に合わず、結果的にジャンルそのものから離れるきっかけのひとつとなってしまった、そんな過去がある。

テニプリのミュージカルも、正直このジャンルにいる上で避けては通れないとは理解しつつも、また火傷をしてしまうのは嫌だという思いで履修にはかなり慎重になっていた。

そんな心境の中での今回の朗報である。
円盤購入やアーカイブ配信と比べてもかなりハードルが低いサブスク配信もラインナップされている。
過去に失敗を経験している身としては、やっぱ無理!となってブラウザを閉じても後悔が起きない位でチャレンジできるのはとてもめちゃくちゃありがたい。

テニスのオタクとなった矜持として、さすがにいつまでもテニミュといえば空耳なのは如何なものかという気持ちもあるので…。
正規手段で視聴できる機会を増やしてくださり本当に感謝の念に絶えない。ありがとうございます。
(ここまで語っておいて何だが、ニコ動全盛期で青春を過ごした世代なので所謂「空耳ミュージカル」はずっと好きである。
ネタとして楽しんではいるが、空耳アワーに対して真面目な原曲があるように、似て非なるものとして扱っていきたいなあ…と自戒しながら未だにスラングを使いまくってしまう。オタクの魂百まで)



『テニスの王子様』は寡黙な漫画である。

「クールな情熱がコートの上に迸る」、こんなキャッチフレーズがアニメの放映当初に使われていたのを覚えている。
テニプリは心理描写が少ない漫画だ。主人公のリョーマを筆頭に、キャラクター達はクールな態度の下に滾る情熱を秘めている。胸の内は台詞やモノローグで語られるより、打ち込む打球や身体の動き、一瞬の表情で表現される。そしてそれゆえに、ここぞという場面で放たれる一言が読者の心に深く残る。
(そのあと作者によってセルフオマージュギャグにされるまでがセット)

一方でミュージカルというのは、キャラクターの心情を歌やダンスに乗せることで綴られるもの。
原作において言語化されなかったリョーマ達の思いが高らかに歌い上げられることで、クールだった彼らは途端に饒舌になる。

テニプリの原作を読んだ後、ニコ動の空耳ミュージカルを視に行くと、
「確かにこの試合中彼はこんなことを思っていたに違いない」とか、「漫画ではあっさり描写だった場面をこうやって盛り上げるのか」とか、そんな風に感心しながら見入っている自分がいることに気がついた。
舞台上で行われているのは単なる漫画の再現ではなく、コマとコマの隙間を埋め、吹き出しの外の些細な感情を掬い取り、テニプリの世界観をより立体的に捉えたものであった。

寡黙な原作と饒舌なミュージカル。
テニスの王子様にとってミュージカルとは、原作を補完する手段としてこの上ない媒体ではないか。
この相性の良さこそが、20年の長きに渡りテニミュが愛されてきた理由だと私は考えている。

確かに2.5次元は苦手である。しかし『テニスの王子様』という物語が好きだからこそ、ミュージカルにおける解釈・キャラクターの描かれ方への強い興味が苦手に勝り、克服してみたいという気持ちにまで高まった。

5月20日。私がテニミュと向き合うまであと一週間。
またひとつ「テニプリっていいな」が増えるだろうその日を、指折り数えて楽しみに待っている。