予備試験口述試験の対策

もし論文試験に合格していたら


 司法試験予備試験の論文式試験の合否発表が12月に予定されています。

 「絶対落ちたな」と思っている人が多いと思いますが、実はEやFが複数科目あっても、AやBが3、4科目あれば受かっていることが珍しくありません。また、予備試験の合格者数は少しずつ増えてきています。
 そのため、手応えと異なり論文試験に通っていた、という事態があります。
 この場合、約1ヶ月間で口述対策を仕上げる必要があります。

口述試験は簡単ではない

 口述試験で落ちる人は毎年数人です。しかし、何もしなくても受かる試験ではありません。
 民事系、刑事系それぞれ基準点が60点で、+−3点ずつの幅で採点されます。過去の結果を見ると、合格最低ラインは民事と刑事あわせて119点以上です。難しい問題は皆できないと考えておいても大丈夫なのですが、基本的な事項で失点すると不合格の危険が一気に高まります。受験者の平均レベルから取り残されないよう、それなりに時間をかけた対策が必須です。
 (私自身、論文の合格発表から口述本番までは、ほぼ毎日朝から晩まで口述対策に追われ、それでも要件事実の理解があやふやなままで、非常に焦りました。)
 民事は、要件事実、執行・保全、法曹倫理の問題が出題されます(なお、執行保全は出題されない年もありました)。刑事は、刑法と刑事訴訟法、法曹倫理の問題が出題されます。
 とくに民事は要件事実について、使えるレベルに達しているかを見られます。問題パターンごとに請求の趣旨や訴訟物、請求原因などを暗記する方法では太刀打ちできません。論文の実務基礎科目を大急ぎでこなした人は、特に基礎から学び直した方が良いでしょう。
 刑事に関しては公判前整理手続の流れなどを実務上の知識を抑える必要があるものの、短答と論文の知識でおおむね対応できるため、口述対策は民事を中心に時間を割くことになると思います。

定番教材

 受験生の間で口述対策の定番とされる教材を挙げておきます。試験対策上の重要度は、要件事実→ 刑事実務→ 法曹倫理→ 民事執行・保全の順です。

■民事実務(要件事実)
大島眞一『完全講義[第3版]民事裁判実務の基礎上巻』(民事法研究会)
 簡素すぎず、詳しすぎない、口述試験にちょうど良いレベルの解説書です。貸借型理論で書いているような節があるなど難点もいくつかありますが、要件事実の基本を身につけるのに適した本だと思います。

■刑事実務
山本悠揮『刑事実務基礎の定石』(弘文堂)
もしくは、
吉開多一、緑大輔、設楽あずさ、國井恒志『基本刑事訴訟法1 手続理解編』(日本評論社)

■法曹倫理
日本弁護士連合会弁護士倫理委員会編著『解説「弁護士職務基本規程」第3版』
 法曹倫理は近年、試験の最後に問われることが続いています。がっつり勉強するのは非効率ですが、職務基本規程と弁護士法の主要条文は、どのような場面で問題になるのか、条文の趣旨は何かを理解しておく必要があります。法科大学院で教えられている法曹倫理の講義をとれないような人は、こちらの解説書で条文と趣旨をおさえておくと理想的でしょう。
 
■民事執行・保全
 口述では最近、執行・保全からの質問がないことがよくあります。定番といわれる書籍も聞きませんが、いつ出題されるか分かりません。どういう手続きの種類があり、それぞれどういう目的の場合に使うかくらいは整理しておいた方が良いでしょう。
・和田吉弘『基礎からわかる民事執行法・民事保全法 <第3版>』(弘文堂)

 ちなみに、試験会場では、大島本、刑事実務基礎の定石、基本刑訴、六法を読んでいる人がほとんどでした。

過去問の重要性

 口述試験は過去問が公開されていません。しかし、最近の出題形式を見て慣れておくことは学習計画を立てる上でも、本番対策をする上でも、非常に重要です。
 各種の予備校が12月下旬から1月上旬にかけて模試を開催しており、そこで口述試験の形式を体験できるほか、予想問題がもらえるため、かならず参加しましょう。
 また、伊藤塾や辰巳など予備校の受講生だと、第1回試験から最新年度までの過去問集(実際の試験の再現問答集)がもらえることがあります。知り合いに口述受験経験者がいれば、こうした過去問集をもっていないか聞いてみるのが良いと思います。

早めの対策を

 論文の合格発表から口述試験までは約1ヶ月間です。しかし、この期間は仕事が立て込んだり、大学や大学院の試験と重なりあい、十分に口述対策ができないことがありえます。
 また、司法試験の論文問題では、民法や民事訴訟法は要件事実論の理解がなければ正確に整理できないような問題があります(たとえば令和6年司法試験民事訴訟法)し、刑法や刑事訴訟法でも刑事実務の理解が役にたつことがあります。何より、執行保全や法曹倫理を含めて実務に出たときに必ず使う分野になりますので、勉強しておいて損になることはありません。
 そのため、特に要件事実については予備試験論文式試験の合格発表をまたずに、学習を始めておくことを推奨します。
 



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