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ユージーン第6章:優雅なる策謀


導入

魔術師教会エニグマによるトリアの奪取を防ぐため、ユージーンは大胆な先手を打つことを提案する。相手が動く前に、自ら教会に乗り込むという作戦だ。

マキシマスと共にエニグマの大聖堂に現れたユージーンは、幹部魔術師たちとの交渉を開始する。彼の優雅な立ち振る舞いの裏には、計算し尽くされた戦略が隠されていた。

予期せぬ展開に、エニグマの大聖堂は緊張に包まれていく。

1. 先手必勝

 「皆さんに、聞いていただきたい話がある」

 チームTRANSCENDAの作戦会議が始まると、開口一番、マキシマスが話し始めた。

 「ここにいるトリアは、セレスティア・クララの生まれ変わりなのです。列車奇襲作戦時に彼女の力が皆を助けたことは、皆さん自身がよく知っていることでしょう」

 あの時、敵の反撃を受けてメンバーは負傷し、チームはほぼ壊滅状態に陥った。
 皆の傷を癒し、チームを蘇らせた不思議な力は、作戦に参加していた者全てが覚えていた。

 ハロルド、クインシー、ロイ、ニコラスの目が一斉にトリアに向けられる。
 特にハロルドは、顎がはずれるのではないかというくらいあんぐりと口を開けた。

 「そんな…トリア、なんで俺には教えてくれなかったんだよ…」

 トリアは戸惑いながらも、ハロルドに目を向けた。

 「ごめんなさい…隠すつもりはなかったの、ハロルド。私もあの時までは知らなかったのよ」

 「トリアの力は私たちが知らせないようにしていた。普通の少女としての人生を歩んでほしかったからだ。だが、エニグマはそれを許そうとしない」

 シルヴェスターがフォローしたが、ハロルドの表情には納得がいかない様子が見て取れた。

 マキシマスは議論を進めるべく、ディスプレイを操作した。
 そこに映し出されたのは、魔術師教会エニグマの大聖堂だった。

 「セレスティアの力ゆえに、トリアは魔術師教会エニグマに狙われています。そして、ついに奴らはトリアの居場所を突き止めました」

 その一言に、作戦室に緊張が走る。
 全員がディスプレイに表示された教会の詳細を見つめる中、ユージーンが鋭い声で口を開いた。

 「奴らに先手を取らせるわけにはいかない」

 彼はディスプレイを指し示しながら続けた。

 「こちらから動く。幹部が集まる大聖堂に直接乗り込む。突然現れることで相手を混乱させ、主導権を握る」

 ニコラスが疑念を込めた目でユージーンを見た。

 「そんな大胆な行動が、果たして成功するのか?」
 「成功させる。それが私たちの目的だ」

 ユージーンは冷静な表情を崩さずに答えた。

 「敵の中心で主導権を握るには、奴らの思惑を狂わせる必要がある」

 ロイが腕を組み、反論する。

 「だが、そんな行動をして逆に不利になることは考えないのか?」

 「むしろ、不利にはならない。敵の動揺を利用し、こちらの有利に運ぶのが狙いだ」

 ユージーンの自信に満ちた声が部屋に響く。
 クインシーが疑問を呈する。

 「でも、それだけじゃ奴らの動きを完全には止められないんじゃ?」

 ユージーンはクインシーに視線を向け、静かに頷いた。

 「その通り。しかしこちらが機先を制することで、少なくとも奴らの混乱を誘い、戦いの主導権を握ることはできる、これは大きなメリットだ」

 ハロルドが不安げな声を上げた。

 「トリアの身の安全はどうするんですか?」

 クインシーも無言のままハロルドに同意するように頷く。
 ユージーンはハロルドに向き直った。

 「トリアにはトリアの役割がある。ただし、まずは私とマキシマスが先行して動く」

 トリアが静かに立ち上がった。

 「心配してくれてありがとう、ハロルド、クインシー。だけど、私は私にしかできないことをするの。分かってくれると嬉しいわ」

 その言葉に、ハロルドはさらに言い返そうとしたが、シルヴェスターに遮られる。

 「心配するなハロルド、私とキャシディがトリアを守る。万に一つも奴らにトリアを傷つけさせることはない」
 「そうよ、ハロルド。私たちを信じて」

 キャシディの優しい声に、ハロルドは口をつぐむしかなかった。
 ロイが確認するように尋ねる。

 「成功確率はどれくらいだ?」

 ユージーンは肩をすくめ、軽い調子で答えた。

 「95%といったところかな。相手の出方次第だけど」

 その余裕にロイは苦笑しながら頷く。

 「お前らしいな。分かった、この件はユージーンに一任する。必ずトリアを守れよ」
 「もちろん。トリアのことは任せてくれ」

 そしてユージーンはマキシマスに目配せした。
 マキシマスは小さく頷き、転移魔法の準備に入る。

 「では行こうか、ユージーン」

 マキシマスが転移魔法を唱えると、彼とユージーンの姿が淡い光に包まれ、そして姿を消した。
 部屋に残った者たちは、その光が消えるまで見守っていた。

2. 優雅なる策謀

 空間転移魔法の青い光が消え失せた時、マキシマスとユージーンの姿が大聖堂の中央祭壇前に浮かび上がった。

 巨大な柱が林立する中、高い天井には幾重もの美しいステンドグラスが嵌め込まれている。
 陽の光がその色とりどりのガラスを透過し、床一面に描かれた魔法陣の上に虹色の光を投げかけていた。

 重厚なパイプオルガンの銀色の配管が、その光を受けて淡く煌めく。
 数十の燭台の炎が静かに揺らめき、その柔らかな光が冷え切った大聖堂の空気をわずかに温めていた。

 聖歌隊席で会議をしていた幹部魔術師たちが、突然の来訪者に驚いて一斉に立ち上がる。
 黒い法衣をまとった十数名が、階段状の席から次々と姿を現した。
 全員の表情が、怒りと驚きで強張っている。

 「侵入者か!」
 「どうやって結界を突破した?」
 「警備を召集しろ!」

 最前列に座っていた幹部の一人が、特に激しい憤怒の表情でマキシマスを睨みつけた。

 「この裏切り者め!15年前、シルヴェスターと共謀してトリアを連れ去った男がよくも!」
 「教会の使命を裏切っておきながら、何の面目があって戻ってきた!」

 他の幹部も続く。
 殺気を帯びた魔力が大聖堂内に充満していく。

 幹部たちの指先に青白い光が宿り始める。
 結界を展開する魔法陣が、あちこちで形を成し始めた。

 その緊張が頂点に達しようとした時、ユージーンが一歩前に進み出る。
 彼は優雅な仕草で一礼すると、落ち着いた声で語り始めた。

 「幹部ともあろう方々が、全くお見苦しいことだ。我々は交渉に来たのです。まずは話し合いの席についていただけますよう」

 その態度には気品が漂い、声には芝居がかった面はあるものの、確かな説得力が宿っていた。
 幹部たちは一瞬、その落ち着きに圧倒され、魔法の構えを緩める。

 「交渉だと?」

 黒檀の杖を突きながら、長老がゆっくりと前に進み出てきた。

 法衣の襟元と袖には、最上級魔術師の証である金の刺繍が施されている。
 その目には長年の経験に裏打ちされた鋭さがあった。

 「セレスティアの力を私物化しておきながら、何を言うつもりだ」

 長老は冷たい目でユージーンを見据えた。

 「我々が管理すべき所有物を奪い去っておいて、よくもそのような態度を」

 側にいた別の幹部が声を上げる。

 「直ちにセレスティアを引き渡せ。さもなくば」

 さらに声が重なる。
 しかしユージーンは、その非難の嵐を静かに受け止めていた。
 彼の端正な表情は穏やかなままで、むしろ僅かな微笑みさえ浮かべている。

 そして、ゆっくりとマキシマスの方に目を向けた。

 「マキシマス、お願いします」

 マキシマスは頷き、静かに両腕を上げた。
 彼の指先から青白い光が放たれ、大聖堂の空中に巨大なホログラムが広がっていく。
 暗い青の光が織りなす映像の中に、衝撃的な文字が浮かび上がった。

 『Destrion計画』

 大聖堂内の空気が凍りついた。
 幹部たちの表情が一様に強張る。
 その場の全員の目が、映像に釘付けになった。

 ホログラムの青い光が大聖堂内を満たし、そこに次々とデータが展開されていく。
 人工的にABYSSを再現するための複雑な理論式、必要な魔力量の膨大な計算式、そして成功確率の予測グラフ。
 画面の隅には、シャドウベインの印が刻まれている。

 マキシマスが指を動かすと、新たなデータが次々と展開される。
 各地の山岳地帯や廃坑に建設された地下研究施設の詳細な設計図。
 先端魔導機器の配置図。
 大量の実験データ。

 「これらの施設は、全土に点在している」

 マキシマスが静かに説明を加える。

 「その多くは地下深くに建設され、極秘裏に守られている」

 ホログラムは各施設の位置を示す地図に切り替わる。
 赤い点が、予想以上に多く地図上に散りばめられていた。

 やがて、幹部たちの間に動揺とざわめきが広がる。

 「なんてことだ…」
 「こんなことが…本当に…」

 「…この情報は確かなのか?」

 長老が尋ねる。
 その声には、明らかな懸念が含まれていた。

 「表の情報と裏社会のネットワークを合わせて確認した情報です。確度は保証済みです」

 ユージーンが答える。

 「そしてこれは、最も重要な証拠」

 ホログラムが最後のデータを映し出す。
 黒くおぞましい何かが蠢いている映像は、実験が最終段階まで進んでいることを示す確たる証拠だった。

 「シャドウベインは既に行動を開始しています」

 ユージーンは続ける。

 「彼らの野望が成就すれば、この世界は再び破滅の淵に立つことになる。あなた方とて無事では済まないでしょう」

 「…して、そなたらは我らに何を求める?」

 長老が問う。

 「我々と手を組んで頂きたい」

 ユージーンははっきりと答えた。

 「教会の持つ知識と、我々の持つ情報。そしてセレスティアの力。全てを結集しなければ、シャドウベインの野望を止めることはできない」

 幹部たちが騒ぎ出す。

 「セレスティアの力だと?」
 「彼女は対ABYSSの兵器だ。我々の管理下で活用されるべき…」

 「違います」

 反論したのはマキシマスだった。
 彼は静かに、しかし力強く言った。

 「トリアはあなた方の兵器ではない。人間なのです」

 「関係ない!」
 「セレスティアを引き渡せ!」
 「お前たちから殺しても良いのだぞ!」

 ユージーンは心底呆れ果てたようにため息をついた。

 「…全く、皆さんは見下げ果てた性根をお持ちのようだ。ですがあなた方の意見がどうであろうと、時間がないという点には変わりありません」

 大聖堂に重い沈黙が落ちる。
 ユージーンが静かに告げる。

 「シャドウベインは着々と計画を進めている。あなた方は今、選択を迫られていることをお忘れなきよう」

3. 君を信じて

 長老は薄暗い聖歌隊席から一歩前に出ると、いきり立つ幹部たちを杖で抑えた。
 黒檀の杖の先端に施された金の装飾が煌めく。
 幹部たちは、その仕草に従うように静かに口を閉ざした。

 長老は大聖堂の冷たい空気の中で、しばらくの間沈黙を保った。
 その苦悩に満ちた表情には、幾星霜もの経験と重責が刻まれている。

 「15年前、我々の管理下からセレスティアを奪い去った時から」

 長老は重い声で語り始めた。

 「この日が来ることは、予期していたのだろうな」

 長老はその場の空気を見定めていく。

 「マキシマス」

 長老は静かに問いかけた。

 「お前は本当に、我々の理想を裏切ったのか?」

 マキシマスは真っ直ぐに長老を見つめ返す。

 「私が守りたかったのは、教会の理想そのものです。人を兵器として扱うことは、決して正しい道ではありません」

 その言葉に、何人かの幹部が激しく反応した。

 「黙れ!」
 「傲慢な!」
 「裏切り者に教会の大義を語る資格などない!」

 炎のような怒りが、彼らの目に宿っている。
 長老が杖をかざして幹部たちを黙らせ、再び語る。

 「世界の存亡がかかっているというのに、個人の感情で判断するとは愚かな」

 彼の声は年老いてはいたが、言葉ははっきりとしていた。

 「我々には責務があるのだ。人類を救うという、重大な責務がな」

 「救いとは、誰かの犠牲の上に成り立つものなのでしょうか?」

 マキシマスが一歩前に進み出る。

 「かつて教会が非人道的な管理の元にどれほど多くの『兵器』を生み出してきたか、そして彼らをどのように用いてきたか、その真実は明らかです」

 マキシマスは声にほんのわずかな憤りをにじませて、続けた。

 「私の妻キャシディも、あなた方の被害者の一人だ」

 長老は深いため息をつき、目を閉じた。
 大聖堂に重い沈黙が満ちる。
 やがて彼は、ゆっくりと目を開き、重々しい声で告げた。

 「…分かった。お前たちと手を組もう」

 その決断に、幹部たちの間から小さなざわめきが起こる。
 しかし、反論できる者はいなかった。

 長老は続ける。

 「だが条件がある。儀式を完遂するためには、この場にセレスティアを連れてきてもらわなければならない。彼女の真の力の解放は、この大聖堂でしかなし得ないのだ」

 長老の眼がわずかに光った。
 ユージーンはこともなげに了承した。

 「いいでしょう。マキシマス、お願いします」

 マキシマスが転移魔法を詠唱する。
 大聖堂の空気が震え、青い光の渦が巻き起こった。

 光の中から、トリア、シルヴェスター、キャシディの姿が浮かび上がる。
 シルヴェスターは眼帯の下から鋭い視線を放ち、キャシディは戦闘装束でナイフを構え、周囲を警戒している。
 幹部たちはその場に現れた少女を、まるで失われた秘宝のか何かのように凝視していた。

 「儀式の準備を」

 長老の命に応じ、幹部たちが動き出す。
 床には幾重もの同心円が描かれ、その上に複雑な魔法陣が浮かび上がっていく。
 各円の交点には、古代からの秘術を示す文字が次々と刻まれていった。

 「結界を」

 冷たい青い光が立ち上り、大聖堂の空間を包み込んでいく。
 結界の層が幾重にも重なり、外部からの魔力の干渉を完全に遮断していく。

 パイプオルガンの銀色の配管が、魔力の流れに呼応するように微かに震えていた。
 燭台の炎が静かに揺らめき、その柔らかな光が儀式の場を優しく照らしている。

 「セレスティアの力を解放する準備が整った。トリアよ、魔法陣の中に進むがよい」

 長老が声をかける。
 その声には、厳かな使命感が込められていた。

 シルヴェスターは周囲を威圧し、警戒し続ける。
 キャシディがトリアに不安げな顔を向けた。

 「トリアちゃん、油断しちゃだめよ」

 「キャシディさん、ありがとうございます。でも大丈夫です」

 トリアはキャシディに向かって頷き、一歩前に出た。

 「トリア」

 ユージーンの声が、キャシディに届いた。
 かつてない真摯さを帯びたその声に、トリアは立ち止まる。

 「私は、君を信じている」

 トリアが振り返ると、そこにはいつもの余裕に満ちた貴公子の姿はなかった。
 ユージーンはゆっくりと歩み寄り、真剣な眼差しでまっすぐにトリアを見つめる。

 「だが、それでも言わせてほしい。必ず、戻ってきてくれ」

 その言葉には、これまで誰にも見せたことのない切実さが込められていた。
 ユージーンは片手を差し出した。

 「約束してくれ。必ず、私の元に帰ってくると」

 トリアは静かに微笑み、その手に自分の手を重ね、そして強く握った。

 「はい。お約束します」

 彼女の瞳には迷いのかけらもない。
 ユージーンはその手を強く握り、そして静かに放した。

 「行ってきます」

 トリアの凜とした声に、ユージーンは黙って頷いた。
 その横顔には、深い祈りの色が浮かんでいた。

 古の予言が語る奇跡が、今まさに現実となろうとしていた。

4. 魂の絆

 幹部たちの声が大聖堂に響き渡っていた。
 古の言葉は、まるで生きているかのように空気を震わせる。

 「永遠の光よ、我らが祈りを聞き給え…」
 「神聖なる力よ、この器に宿り給え…」

 床に描かれた魔法陣が次第に輝きを増していく。
 複雑に絡み合う同心円の上で、古代文字が淡く光を放っている。

 「準備は整った」
 長老の声が厳かに響く。

 「セレスティアの力を完全なる覚醒へと導く時が来た」

 ユージーンは拳を強く握りしめ、固い表情でトリアを見つめている。
 いま二人の魂の絆は、かつてないほどに強く響いていた。

 幹部たちの詠唱が一斉に高まった。
 魔法陣の光が強さを増し、白い光の渦がトリアの周りで巻き始める。

 その光は次第に強さを増し、大きな渦を描きながら彼女の体を包み込んでいく。
 トリアの長い髪が宙に舞い上がり、その瞳が神々しい光で満たされていった。

 パイプオルガンの銀色の配管が大きく震え、ステンドグラスが七色の光を放つ。
 魔力の奔流が大聖堂を揺るがし、光は眩いばかりの輝きとなった。

 幹部たちの詠唱が最高潮に達する。
 魔法陣の模様が次々と変化し、古の言葉が光となって空中に舞い上がる。

 トリアの体から放たれる光が、まるで翼のように広がっていく。
 その姿は、かつてのセレスティア・クララの面影そのものだった。

 大聖堂全体が真白な光に包まれ、セレスティア、聖女の力が完全に目覚める瞬間が訪れた。
 その光の中で、トリアの心はユージーンとの絆を強く感じていた。

 「これこそが、セレスティアの真の力…!」

 その時、長老の表情が一変した。
 静寂を引き裂くような高笑いが、大聖堂に響き渡る。

 「ハーッハッハッハ!愚か者どもめ!これでセレスティアは完全に我らのものとなった!もうお前たちに用はないわ!」

 幹部たちが一斉に魔法の構えを取る。
 青白い魔力が彼らの指先で踊り、殺意に満ちた光が放たれようとしていた。

 「来たか…!」

 シルヴェスターの表情が険しくなる。
 キャシディは瞬時に戦闘態勢を取り、ナイフを構えた。
 マキシマスの周りにも、淡い魔力のオーラが立ち上る。

 だが…

 「果たしてそうかな?」

 ユージーンは静かに微笑んだ。
 彼とトリアの魂の絆が、今や誰にも破れないほどに強く結ばれていることを、確かに彼は感じていた。

 「トリア」
 彼は優雅に手を差し伸べる。

 「僕のもとにおいで」

 「はい、ユージーン」
 魔法陣の中からトリアの声が響く。

 「何だと!?」
 長老の声が驚愕に震える。

 トリアは、まるで光の中を歩むように魔法陣を出た。
 彼女を包む白い光は、一層強く輝きを増していく。

 「こ、これは…!」
 長老が目をむいて叫ぶ。

 「儀式の束縛が効かないだと?」

 トリアは静かに微笑んだ。
 「エニグマの儀式では、私を縛ることはできません」

 「なぜだ…!」

 「それは」
 ユージーンの声が静かに響く。

 「トリアと僕の魂が、既に固く結ばれているからだ」

 トリアの体から放たれる光が、ユージーンの周りを優しく包み込む。
 二人の間に流れる魂の絆が、まるで目に見えるかのように輝いていた。

 「魂の…絆?」
 長老の声が震える。

 「まさか、そんなもので…」

 「貴様ら、騙したな!?」
 他の幹部が叫ぶ。

 「我らの神聖な儀式をただ利用しただけか!」

 「それは違います」
 マキシマスが静かに告げる。

 「儀式は、確かにトリアの力を完全に目覚めさせました。ただし…」

 「その力を縛ることは、誰にもできない、ということだ」
 シルヴェスターが続ける。

 「なぜならトリアの心は既に、確かな絆によって守られているからだ。それに騙したというなら、それはお互い様だろう」

 「黙れ!」

 長老が怒りに打ち震え、その杖を大きく振り上げる。

 「奴らを全員殺せ!」

 幹部たちの魔法攻撃が一斉に放たれた。
 青い光の矢が空気を切り裂き、轟音が大聖堂を揺るがす。

 トリアとユージーンの手が重なった瞬間、特殊能力「MAGICALマジカル」が発動した。
 ユージーンの瞳が緑色の光を発し、二人の魂の絆に触発された魔力は最高潮に達する。

 「これは…!」

 長老の声が震えた。

 青い光の紋章が、幹部たちの周囲に次々と展開される。
 複雑な魔法陣が彼らの足元を取り囲み、全ての動きを封じていく。

 「動けん…!」
 「この術は一体…!?」

 動きを封じられた敵を前に、マキシマスが両手を高く掲げる。

 「永遠の業火よ、焼き尽くせ!」

 青白い炎が大聖堂を埋め尽くし、幹部たちを防御結界ごと焼き尽くしていく。
 シルヴェスターが白い残像を残して突進。
 魔力を纏った拳が、鋼の如き障壁を幹部魔術師もろとも打ち砕いていく。

 「まだ終わらん!」

 長老が杖を振りかざす。
 その時、影のように忍び寄ったキャシディのナイフが、長老の動きを封じた。

 「これで終わりよ」

 キャシディの冷たい声と共に、ナイフが迷いなく長老の心臓を貫いた。
 幹部たちはすでに全員が倒され、静寂が大聖堂に戻った。

 戦いは、わずか数分で幕を閉じた。
 大聖堂に再び静寂が戻る。
 床に描かれた魔法陣の輝きは消え、ステンドグラスを通る外の光だけが空間を照らしていた。

 トリアとユージーンは、静かに見つめ合う。

 「私の願いを叶えてくれてありがとう、ユージーン」

 トリアが優しく微笑んだ。
 「あなたがいてくれたから、私は自分の力に目覚めることができたの」

 「君の願いを叶えるのはいつだって僕の役目だからね、トリア」
 ユージーンは彼女の手を優しく握る。

 「転移魔法の準備が整ったよ」
 マキシマスが告げる。

 「エニグマの幹部たちは、もう動けないだろう」
 シルヴェスターが満足げに頷く。

 「後はマキシマスに協力してくれている若い魔術師たちが、うまくやってくれる手筈になっている」

 「これで魔術師教会エニグマも本来の姿を取り戻すでしょう、私の弟子たちはみな優秀ですからね」

 マキシマスが笑った。

 「じゃあ、帰りましょう」
 キャシディの声が優しく響く。

 「チームのみんなが待ってるわ」

 一行は次なるシャドウベインとの戦いに向け、新たな一歩を踏み出した。


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