キャシディ外伝第2章:新たな生き方
導入
魔術師教会エニグマの暗殺者であるはずのキャシディは、標的だったマキシマスと共に逃亡していた。
なぜ任務を放棄し、敵と共に逃げているのか。幼い頃からたたき込まれた使命感と、マキシマスへの不思議な信頼が、彼女の中で激しく衝突する。
そこへ現れた魔術師シルヴェスターは、混乱するキャシディに「自分で道を選ぶ」という新たな可能性を示す。
生まれて初めて「選択」という言葉の意味を知った少女の、新たな一歩が始まろうとしていた。
1.キャシディの混乱
マキシマスと共に逃げ出したキャシディは、自分の行動に対する疑問と混乱で心がいっぱいだった。
これまで一度も任務を放棄したことがなかった彼女の暗殺者としてのプライドと、幼い頃から植え付けられた使命感が、彼女の行動を強く責めていた。
キャシディはなぜ自分が敵であるはずのマキシマスの手を取って逃げたのか、自分でも全く理解ができない。
彼の優しい言葉や眼差しに引き寄せられる一方で、その正体が分からずに強い警戒心を抱いている。
この男を信用すべきなのか、それとも今すぐ排除すべきなのか、答えを出せない。
真夜中の暗闇、視界がほとんどきかない森の中を、キャシディとマキシマスは息を切らせながら走り続けていた。
木々の間を縫うように進む二人の姿が、月明かりにほのかに照らされている。
突然、キャシディは足を止めた。
彼女の肩は激しく上下し、呼吸は乱れていた。
しかし、それは単なる疲労からではなかった。
「なぜ私は、あなたと逃げているの?」
キャシディは混乱した様子でマキシマスを見つめた。
彼女の目には、これまで見せたことのない感情の揺らぎが浮かんでいた。
マキシマスは優しく微笑んだ。
「これは君自身が選んだ道だよ、キャシディ」
「選んだ?私が?」
キャシディは首を振った。
「そんなはずない。私が逃げることはない。私は暗殺者、任務放棄が許されるわけがない」
マキシマスは静かに彼女に近づき、その肩に手を置いた。
「君はエニグマの道具じゃない、一人の人間だ。感情と、考える力とを持った、人間だ」
キャシディはマキシマスの手を振り払おうとした。
「私に感情なんて…」
「ある」
マキシマスは断言した。
「君が今感じている混乱も、不安も、全ては君の感情だ」
キャシディは言葉を失った。
マキシマスの言葉を否定したかったが、全く異なる行動を取っている、矛盾した自分の姿がそこにはあった。
2.シルヴェスター登場
その時、木々の間から一つの影が現れた。
キャシディは即座に身構え、ナイフを構えた。
「落ち着け」
現れたのはシルヴェスターだった。
その姿に、マキシマスは安堵の表情を浮かべた。
「シルヴェスター師匠…」
マキシマスはシルヴェスターに向かって頭を下げた。
シルヴェスターはゆっくりと二人に近づいてきた。
その瞳は鋭く威厳に満ちていた。
「マキシマス、この娘を連れて逃げるつもりか?」
マキシマスは真剣な表情で答えた。
「はい。キャシディには自由に生きる権利があります」
3.新たな生き方
シルヴェスターは静かにキャシディを見つめた。
「しかし、この娘にはまだその準備ができていないようだ」
そして
「この娘をエニグマから解放したいのなら、まずこの子が自分で運命を選ばなければならない」
と諭す。
キャシディは混乱したまま、シルヴェスターとマキシマスを交互に見つめていた。
シルヴェスターはキャシディに視線を投げた。
「君の道を決めるのは君自身だ。キャシディ、君には選択する権利がある。エニグマに戻るか、それとも私たちと共に新しい道を歩むか。それは君次第だ」
キャシディは驚愕の表情を浮かべた。
「選択?私に、そんな権利が?」
マキシマスは静かにキャシディの手を取った。
「君には選ぶ権利がある。そして、どちらを選んでも、僕は君を支える」
キャシディはマキシマスの温かさに戸惑いながらも、少しずつ心を開き始めた。
彼女の中で、新たな感情が芽生えようとしていた。
「私は…私は…」
キャシディは言葉を探していた。
そして、ようやく決意を固めたように顔を上げた。
「私は、新しい道を…選びたい」
シルヴェスターは満足げに頷いた。
「その選択が、君の新たな人生の始まりだ」