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シルヴェスター第7章:ノクテリア・エレナ
導入
世界の均衡を守るセレスティアとノクテリア。
クララとエレナは、再び使命を果たすために災厄が襲う王国へと降り立つ。
しかしABYSSとの戦いの中で、クララは信じがたい事実に直面する。
彼女の前に立ちはだかる絶望の化身に秘められた真実とは。
一方、30年の時を経てエレナは世界に新たな脅威が忍び寄っていることを察知する。
世界の命運を賭けた戦いの幕が、静かに上がり始める。
1.ABYSS封印
聖女と魔女が再び使命を帯びて別世界に降臨する時が来た。
エレナとクララはとある王国にノクテリアとセレスティアとして現れる。
王国は災厄に襲われて滅びる運命にあり、その災厄を退けて世界の調和と安定を保つのが今回の使命だった。
不気味な暗雲が空を覆い、世界は崩壊の瀬戸際に立っていた。
「行くぞクララ。災厄はそこにいる」
エレナが冷静に指示を下す。
前方には、恐るべき巨大な怪物「ABYSS」が立ちはだかっていた。
しかし、ABYSSを目にしたクララは息を呑んだ。
絶望の災厄に囚われているのは、かつて彼女に仕え、献身的に尽くしてくれた側仕えのアレフだった。
「まさか、そんな…」
クララは言葉を失い、その場に立ち尽くした。
エレナは何も気づかず、冷静にABYSSに向けて手をかざした。
「さっさと片をつける」
「待って!」
クララはエレナの攻撃を止めようと、咄嗟に彼女の前に立ちはだかった。
「何をする?」
エレナの声は冷たい。
「お願い、まだ手を出さないで。少しだけ時間をちょうだい?」
クララは必死に動揺を抑え、冷静を装って言った。
「時間?何のために? 」
エレナは訝しんだ。
「こいつは世界を滅ぼす災厄だ。放っておくわけにはいかない」
クララは心の中で葛藤していた。
アレフを救いたい、だがエレナにはそれを言えなかった。
それを知ったところで、エレナは迷わずアレフを討つだろう。
彼女にアレフを殺させてはならない。
「少しでいいの、少しだけ…」
クララは必死になって、エレナの視線を見据えて言った。
エレナは僅かに眉をひそめたが、攻撃の手を止めた。
「いいだろう。だが猶予はない。すぐに終わらせろ」
クララはその言葉に小さく頷き、震える手を組んで目を閉じた。
アレフの魂を何とかして救い出さなければならない。
だが彼にかけられた絶望の呪いはあまりに強力で、ABYSSもろとも殺さずにはアレフを解放することができない。
「どうすれば…」
クララは必死に考えを巡らせた。
その瞬間、ABYSSが突然動き、巨大な闇の一撃を放った。
まるで世界そのものを貫くような奔流が王都を直撃し、瞬く間に街が炎に包まれた。
「なんてこと…!」
クララはその瞬間、数百万の命が消え去るのを感じた。
彼女の心は大きな悲しみに覆われた。
「もうこれ以上は待てない!」
エレナが声を荒らげた。
「邪魔だ、クララ!どけ!」
その時、今まさに地上で死にゆく若い魔術師の姿がクララの目に止まった。
取り得る方法はこれしかない。
クララは即時に決断した。
「アレフ、あなたを救う。私が、必ず!」
「止めろクララ、何をしている!?」
エレナの制止を無視し、クララは目を閉じて祈りを捧げた。
彼女の全身から白い光が溢れ出し、ABYSSへと向かって流れ込んでいく。
クララは自らの力を限界まで引き出し、アレフの魂を救うために全てを賭けた。
ABYSSが再び動き出そうとした瞬間、クララの祈りの力がアレフの魂に届いた。
彼の魂がゆっくりと呪いから解き放たれ、ABYSSの体から引き離されていく。
クララは息を詰め、若き魔術師の姿にアレフの魂を移していった。
「間に合って…お願い…」
クララの声は小さく震えていた。
次第にABYSSの姿が消え、若き魔術師の身体にアレフの魂が宿った。
だがクララの消耗は限界に達し、彼女の体は次第に光を失い始めた。
「おい、いい加減にしろクララ!」
エレナが怒りの声を上げたが、クララにはもはや答える力は残されていなかった。
クララは静かに目を閉じ、息を吹き返した若き魔術師、シルヴェスターの元に最後の力を振り絞って言葉をかけた。
「命を繋げて…未来を見届けて…」
それは絶望に囚われたアレフを解放する、クララからの祝福だった。
その言葉と共に、クララの姿は白い光となり、静かに消えていった。
2.消えたクララ
その場にひとり残されたエレナは途方にくれた。
理由はわからないがクララがABYSSへの攻撃を妨害し、あげく独断でABYSSを封印してしまった。
そして姿を保てなくなって勝手に消滅してしまい、その魂は現在行方不明である。
これまでに経験したことのない状況にエレナは困惑し、状況把握に努めた。
「クララの魂の行方は?」
エレナはすぐにクララの魂を探し出すべく動き始めた。
しかし杳として手がかりは掴めず、捜索は難航した。
今のままでは捜索に不十分だと判断したエレナは、一度帰還し、クララ捜索のための準備を整えて、再度この世界に降臨した。
エレナが再び降臨した世界では、あれからすでに30年の歳月が経過していた。
クララの魂を追跡するための術を駆使し、エレナは確実にクララの魂の痕跡をたどっていった。
やがて判明したのは、クララの魂が魔術師教会エニグマに捕らえられたという事実であった。
「エニグマがクララの魂に干渉したのか」
そしてさらなる調査を進める中で、クララの魂はエニグマの手によって「トリア」という人間に転生させられ、さらにシルヴェスターに連れ去られたことを知る。
その魂はセレスティアとしてではなく、この世界の普通の人間として生きていた。
「クララが人間に転生させられていたとは…」
クララの魂が人間の姿で生を受けたことで、現時点での魂の回収は難しくなった。
しかし全く不可能というわけではない。
時間はかかるかもしれないが、セレスティアとして復活させ、クララを連れ帰る方法はある。
だが今はまだ、その段階ではなかった。
エレナがさらに調査を続けるうちに、別の問題が浮上した。
巨悪犯罪組織シャドウベインが、かつてクララに封印されたABYSSを人工的に復活させる計画を進めている、という情報を得た。
「ABYSSの復活、それは世界の均衡を再び崩しかねない」
エレナは淡々と事態を分析する。
ABYSSを再び封印し、この世界の平穏を守ることは、彼女にとって極めて重要な使命であった。
クララの魂の回収という目的は未だ達成されてはいないが、今はABYSSの復活を阻止することが優先事項である。
エレナは二つの使命を心に据え、行動を再開した。
3.エレナの行動
エレナはシルヴェスターに接触するため、エステルと名乗って彼の前に現れた。
すでに40代の壮年となったシルヴェスターの、その佇まいには威厳が感じられた。
エレナは彼に、自分が知っている誰かの面影を認めた。
しかしそれが誰なのか、エレナには思い出せなかった。
シルヴェスターは冷静な表情でエレナを見つめ、しばらくの沈黙の後に静かに口を開いた。
「ノクテリアか。私に何か用があるのか?」
エレナはシルヴェスターの質問に答えず、ただ彼を見つめたまま、無機質な声で問いを投げかけた。
「お前は、30年前にセレスティアに助けられた者か?」
シルヴェスターはその質問に驚いた表情を見せたが、すぐに冷静さを取り戻し、静かに頷いた。
「確かに私は、クララに命を救われた。しかし、なぜお前がそのことを知っている?」
エレナは淡々と続けた。
「私自身がその場にいたからだ。だがなぜ、セレスティアがそこまでお前の生に執着したのか、理解できない」
シルヴェスターは困惑した様子を見せつつも、冷静に答えた。
「クララが私を救った理由は私にも分からない。ただ、彼女は最後にこう言った。『命を繋げて、未来を見届けて』と。その言葉が、私の魂に生きる意味と戦う覚悟を刻みつけた」
エレナはその言葉を聞きながらも、やはり理解できないという表情を浮かべた。
そしてシルヴェスターに宿る面影が誰なのかを思い出そうとしたが、これもまた徒労に終わった。
これ以上シルヴェスターから得られる情報はないと判断し、エレナは無言で彼の元を立ち去った。
次にエレナは、ABYSS復活を企てる犯罪組織シャドウベインの首領、ジャンカルロと接触した。
ジャンカルロは50代にして、その威圧的な存在感をさらに増していた。
彼はエレナが現れるや否や、険しい表情で彼女を見据えた。
「ノクテリアか。一体何をしに来た?」
ジャンカルロの声は重厚だが、苛立ちを隠しきれないようだった。
エレナは無感情のまま冷静に答えた。
「お前がABYSSを復活させようとしていることは知っている。それを止めろ。お前の目的は、この世界を破壊することか?」
ジャンカルロはその言葉に薄く笑い、
「世界の破壊か。この世界など、すべて無価値だ」
と言い捨てた。
「お前の過去が、そうさせたのか」
エレナはジャンカルロを見つめた。
彼女の目には何の感情も宿っていなかった。
ジャンカルロは鼻で笑い、エレナを挑発するように言い放った。
「お前が私の何を見抜いたかは知らんが、今の私に必要なのは、全てを破壊する力だけだ」
「お前の考えは愚かだ。お前が破壊を望んでも、私がそれを止めるだろう」
エレナは冷たく告げた。
ジャンカルロは苛立ちを隠さず、エレナに攻撃を仕掛けた。
だがエレナはその攻撃を受け流した。
ジャンカルロはさらに激しい攻撃を繰り出したが、やはりエレナには通じなかった。
「お前がその道を進む限り、世界に破滅が待っている。それを止めるのがノクテリアとしての使命だ」
そう言い残し、エレナはジャンカルロを見限ってその場を去った。
最後に、エレナはエステルとして、クララの転生体であるトリアの前に姿を現した。
トリアはエレナの圧倒的なオーラを前に一歩も動けず、ただただその場に立ち尽くしていた。
エレナはトリアを見据え、彼女がまだセレスティアとして覚醒していないことを見抜いた。
エレナは感情を一切表に出さず、トリアの目の前を通り過ぎた。
トリアはノクテリアエステルの圧倒的な存在感に圧倒され、怯えて言葉を失っていた。
ABYSSを倒し、クララを連れ帰るためには、まずトリアをセレスティアとして覚醒させ、クララとしての記憶を取り戻させなければならないと、エレナは考えた。