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キャシディ外伝第1章:影の刺客


導入

魔術師教会エニグマで暗殺者として生きるキャシディ。まだ10代の少女ながらプロフェッショナルである彼女は、その確かな暗殺技術と冷徹な判断で標的を必ず仕留めてきた。

新たな暗殺任務が下される。標的は高位魔術師のマキシマス。いつものように任務に向かうが、マキシマスはまるで彼女の来訪を予期していたかのように温かな笑顔で迎え入れる。予想外の展開に戸惑うキャシディ。

奇妙な二人の出会いが、少女の運命を大きく変えていく。

1.暗殺任務

月明かりが窓辺を照らす。
静寂の中、一人の少女の影が壁に落ちる。
その手に冷たく光るナイフ。
無意識にナイフを弄ぶ様子は、刃先で空中に何かを描いているようにも見える。

少女キャシディは、まだ10代とは思えない冷徹な目つきで窓の外を見つめる。
長い髪が月の光に照らされ、銀色に輝く。
その姿は美しくもあり、同時に危険な雰囲気を纏ってもいる。

ドアがノックされ、一人の男が部屋に入ってきた。
「キャシディ、仕事だ」

彼女は振り向くこともなく答えた。
「標的は?」

男は一枚の写真を机の上に置いた。
「エニグマの高位魔術師で危険な男だ。彼の存在は幹部魔術師にとって都合が悪い」

キャシディは写真を手に取り、そこに写る男の顔をじっと見つめた。
温厚そうな表情の、優しげな目をした男だった。

「なぜ彼を?」
思わず彼女の口から言葉が漏れた。

男は厳しい目つきでキャシディを見た。
「忘れたか?質問は許されない。お前の役目は任務を遂行することだけだ」

キャシディは一瞬だけ躊躇したが、すぐに平静を取り戻した。
「承知した」

男が去った後、キャシディは再び窓辺に立ち、月を見上げた。
「任務か…」

彼女は小さくつぶやいた。
その声には感情の欠片も感じられない。

そしてキャシディは慣れた手つきでナイフを鞘に収め、黒いマントを羽織った。
若いながらもすでに熟練の暗殺者の貫禄があった。

部屋を出る前、彼女は最後にもう一度写真を見た。
標的の名を脳裏に刻み込む。

そこには「マキシマス」とあった。

2.マキシマスとの出会い

夜の帳が降りた魔術師教会エニグマの本部。
静寂に包まれた廊下を、一つの影が音もなく滑るように進んでいく。
キャシディは壁に身を寄せ、周囲の気配を慎重に探りながら目的の部屋へと向かっていた。

「ここか」
そっとドアノブに手をかける。

ドアが開くと、月明かりに照らされた広い書斎が現れた。
その中央に立つ男の後ろ姿が、キャシディの目に入った。
彼女は息を殺し、静かにナイフを抜いた。

しかし、その瞬間。

「やあ、君が来るのを待っていたよ」

男が振り返った。
その顔には穏やかな微笑みが浮かんでいた。
キャシディは一瞬、動きを止めた。

「マキシマス…」
彼女は低く唸った。

マキシマスは優しく微笑んだまま、キャシディに向き直った。

「君はなぜこんなことをしているの?」

その言葉に、キャシディは思わず目を見開いた。
「なぜって…それは…」

彼女は言葉を詰まらせた。
これまでに彼女の姿を見た者は、怯えて命乞いをするか、身を守るために戦いを挑んでくるかのどちらかだった。
こんな質問をしてくる者はいなかった。

マキシマスはゆっくりとキャシディに近づいてきた。

「君は本当にこれが正しいことだと思う?」

キャシディの手が震えた。
初めて感じる感情の芽生えに、彼女は戸惑いを隠せなかった。

「私は…私は…」

彼女は必死に感情を抑え込もうとした。
しかし、マキシマスの優しい眼差しが、彼女の心の奥深くに触れていくのを感じた。

「任務を遂行しなければ…!」

キャシディは再びナイフを構えた。
しかし、その手は明らかに震えていた。

マキシマスは恐れる様子もなく、さらに近づいてきた。

「君には未来がある。僕は君の未来を守りたい」

その言葉に、キャシディの心が大きく揺れた。

「私の、未来?」

彼女の手からナイフが滑り落ち、床に鈍い音を立てた。

その時、突然部屋のドアが開いた。

「キャシディ!何をしている!」

エニグマの暗殺者たちが部屋に飛び込んできた。
マキシマスは即座に彼らの前に立ちはだかった。

「彼女を傷つけさせはしない」

彼は強力な防御魔法を展開し、暗殺者たちの動きを封じた。

「キャシディ、僕と一緒に来てくれるかい?」

マキシマスは優しく手を差し伸べた。
キャシディは一瞬躊躇したが、やがてその手を取った。

動きを封じられた暗殺者たちの叫び声を背に、二人は部屋を飛び出した。


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