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キャシディ外伝エピローグ: 丘から見た光

導入

丘の頂に、一つの小さな石碑が佇んでいた。かつての暗殺者は今、慈愛に満ちた表情で石碑に手を触れ、優しく語りかける。後悔と悲しみは消えることはないが、それを希望へと変える決意が、彼女の心には宿っている。

丘の麓からは子供たちの笑い声が風に乗って届く。闇の中で生きてきた少女は今、光の世界で新たな希望を灯す母となる。

1.弔いの祈り

夕暮れ時の柔らかな光が、静かな丘を包み込んでいた。
風が草を揺らし、かすかに花の香りを運んでくる。
丘の頂上には一つの小さな石碑が立っていた。

キャシディとマキシマスは、その石碑の前に静かに立っていた。
名前も日付も刻まれていないその石碑は、かつてキャシディに憧れ、彼女と刃を交えたあの暗殺者の少女の墓だった。

キャシディは深く息を吐き、ゆっくりと膝をついた。
彼女の目には、深い悲しみと後悔の色が浮かんでいた。

「あなたがこうして眠ることになったのは、私の過去の選択が原因だったわ」

キャシディの声は静かだったが、その言葉には深い悲しみの感情が込められていた。

「あなたの未来を奪ったこと、本当に申し訳なく思います」

彼女は目を閉じ、祈りを捧げた。
その姿は、かつての冷酷な暗殺者の面影を微塵も感じさせない、慈愛に満ちたものだった。

マキシマスも静かに膝をつき、手を合わせた。
彼の表情には、キャシディの後悔への深い理解と、少女への哀悼の意が表れていた。

「君の悲劇を無駄にはしない」

マキシマスは静かに言った。

「私たちはこの先に続く未来を、君のような子供たちが笑顔で生きられる世界に変えていく」

キャシディは目を開け、マキシマスを見た。

「ええ、そうよ」

キャシディは静かに頷いた。
彼女の目には涙が光っていたが、同時に強い決意の色も宿っていた。

「この子の分まで、私たちは生きていかなければならない」

二人は再び石碑に向き直った。
夕日が丘の向こうに沈みかけ、辺りは黄金色に染まっていた。
その光景は、悲しみの中にも希望を感じさせるものだった。

キャシディはそっと手を伸ばし、石碑に触れた。
「安らかに眠ってね」
彼女の声は優しく、まるで子守唄のようだった。

「あなたが幸せに生きられるはずだった世界を、これから私たちが作り上げていくわ」

マキシマスは静かにキャシディの肩に手を置いた。
その温もりがキャシディに確かな力を与えていた。

二人は長い間、そうして石碑の前に佇んでいた。
過去への悔恨と、未来への決意が、彼らの心の中で静かに交錯していた。

やがて黄昏の気配が忍び寄る頃、キャシディはゆっくりと立ち上がった。
彼女の表情には、もはや迷いはなく、ただ強い決意があった。

「行きましょう」

キャシディはマキシマスに向かって言った。

「私たちにはこれから、やるべきことがたくさんあるわ」

マキシマスは頷き、キャシディの手を取った。

「ああ、一緒に歩もう。僕たち二人で新しい世界を作るために」

二人は静かに頷き合い、丘を後にした。

2.孤児院の開設

柔らかな日差しが、丘のふもとに建つ孤児院を包み込んでいた。
白い壁と赤い屋根の建物の周りには、色とりどりの花が咲き誇り、子供たちの笑い声が風に乗って運ばれてきた。

キャシディとマキシマスは、孤児院の玄関前に立ち、目の前に広がる光景を温かな目で見つめていた。
庭では、様々な年齢の子供たちが元気に遊んでいる。
彼らのほとんどは、大災害後の混乱で身寄りをなくした子供たちだった。

孤児院の日々は、穏やかで温かいものだった。
朝はキャシディが作る栄養満点の朝食で始まる。
テーブルを囲んで、子供たちはわいわいと賑やかに食事を楽しむ。
「お母さん、おかわり!」
と元気な声が上がると、キャシディは優しく微笑みながら「たくさん食べてね」と応じる。

昼はマキシマスが子供たちに読み書きや算数を教える。
彼の優しく分かりやすい説明に、子供たちは目を輝かせて聞き入る。
「先生、わかった!」
と小さな男の子が嬉しそうに叫ぶと、マキシマスは「よくできたね」と頭を撫でる。

午後には、庭で鬼ごっこやかくれんぼが繰り広げられる。
マキシマスやキャシディも時々参加しては、子供たちと一緒に走り回る。

夕方になると、みんなで協力して夕食の準備をする。
包丁を使う年上の子が野菜を切り、小さな子はテーブルを拭く。
その光景は、まるで大家族のようだった。
子供たちが自主的に役割を見つけて動く姿に、キャシディとマキシマスは目を細める。

夜はキャシディとマキシマスが子供たちにおとぎ話を聞かせる。
暖炉のそばで、子供たちは目を輝かせて物語に聞き入る。

「そして、王子様とお姫様は幸せに暮らしました」
とマキシマスが語り終えると、子供たちから「もっと聞きたい!」という声が上がる。

就寝時間になると、キャシディが一人一人にキスをして「おやすみなさい」と優しく声をかける。
子供たちは安心して眠りにつく。

そんな日々の中で、子供たちはすくすくと成長していった。
彼らの笑顔はみな輝いていた。

「見て、あの子たちの笑顔」
キャシディは感慨深げに言った。

マキシマスは優しく微笑んだ。
「ああ、本当に素晴らしいものだ」

やがて子供たちの輪に赤子のトリアが、そして親を亡くしたハロルドが加わった。

キャシディとマキシマスは、夜になると孤児院の屋上に上がり、満天の星空を見上げた。
二人は星空の下で、これからも子供たちの幸せを守り続けると誓った。

3.丘から見た光

黄昏時、キャシディとマキシマスは小さな丘の頂に立っていた。
夕日が地平線に沈み、空は深い赤紫色に染まっている。

キャシディは遠くを見つめ、深い感慨に浸っていた。
かつて彼女は闇の中で孤独に育ち、冷酷さだけを知る少女だった。
しかし今、彼女の目には丘のふもとで輝く孤児院の温かな灯りが映っていた。
それは希望そのものが具現化した光であり、闇を追い払っていた。

キャシディの目は小さな石碑に向けられた。
そこにはかつて命を奪った少女が眠っている。
キャシディは静かに祈りを捧げた。
今や彼女が灯す光は、きっとその少女の魂にも届いているはずだ。

マキシマスは黙ってキャシディの傍らに立っていた。
言葉は必要なかった。
二人の間には深い理解と信頼が流れていた。

孤児院からは、子供たちの笑い声が風に乗って聞こえてくる。
かつて彼女が奪った未来を、今度は彼女が守り、育んでいる。

キャシディは深く息を吐いた。
彼女の表情には、感謝と決意が混ざっていた。
この光を、もっと多くの人々に届けたい。
かつての自分のような闇の中にいる者たちに、希望を与えたい。

マキシマスが静かにキャシディの手を取った。
二人は無言で頷き合い、丘を下り始めた。

丘の上に残された二人の足跡は、過去から未来へと続く道を示しているようだった。
そして丘の上で眠る少女の魂も、その光に包まれて安らかな眠りについていた。

-fin.


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