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妊娠してご飯が作れない妻を支えた夫

あなたは、あなたやあなたの奥さんが妊娠していたとき、どんな気持ちでしたか。


私は初めて妊娠したことがわかったとき、夫に伝えると「おめでとう」と言われた。
「人事やん!」って笑ったけど、夫はどう反応したらわからなかったのだと思う。

でも、私自身もはじめは人事のように、
お腹に子どもがいるという実感はなく、お母さんになるという実感もない。不思議な感覚だった。

それでも、妊娠7週目くらいになるとつわりがひどくなってきた。
うれしい気持ちと、人に迷惑かけることに不安になった。



当時、私は仕事をしていた。
職場までは、JR(特急)に40分乗ったあと、40分歩いて通勤していた。
しかも、40分歩くうちの20分は標高126mのところまで歩いていた。
家に帰るのは19時。
私はつわりで、眠くて眠くて、ご飯を作ることも食べることもできず。しゃがんで椅子にへばりつき、うとうととすることが度々あった。

仕事中は、眠気はなかった。
職場に安定期までは伝えないでいようと決めていたから、周りが知らないことで気が張っていたのだと思う。
その反動で、家では動けなかった。

友だちにも、4カ月後に式をすることが決まっていて、この人には報告して、この人には報告していなかったとなることを避けたかったため、当日まで誰にも言わなかった。
そうすることによって、自分が「しんどい」と言える場を失ってしまっていた。
実家の家族にも連絡するのもしんどくて、一緒に暮らす夫にだけ辛い気持ちを見せていた。

つわりは、眠気だけではなく、吐き気もあった。
灯油のにおいもダメ
ご飯のにおいもダメ
夫の汗のにおいもダメ

私は夫に、「ごめんね」って言いながら、明るいキッチンに1人残して、うつむきながら静かに扉を閉めていた。

ベットで横になっていた私は、夫に対して、"ごめんね"の気持ちでいっぱいだった。
自分が、夫にだけたくさん心配かけてしまっていること。
ご飯を作るのが苦手なのに作らせてしまうこと。
独りぼっちで私のことを心配しながら食べさせることになること。
私が食べられるようになるまで、待ってくれることもあった。




何もできなくなる自分がイヤで、不安な気持ちになった。




夫は、暗い部屋のベットで横になっていた私のところへも来てくれていた。
そっとのぞいて、起きているとわかると、横まで来て、「大丈夫?」と声をかけてくれていた。
私は、その夫の優しさに、もっともっと"ごめんね"の気持ちでいっぱいになって涙が出た。

「どうしたらいい?」
私は泣きながら聞いた。

すると夫は、
「お腹の子を一番に考えたらいい」
って言ってくれた。

とっても嬉しかった。
夫は、私の心も支えてくれた。
嬉しくて、もっと涙が出た。
でも、"ごめんね"って気持ちから、"ありがとう"に変わった涙だった。
その後、私はやっと眠ることができた。


目が覚めたころ、また夫が部屋に来てくれた。
「なんか食べれる?」と聞いてくれて、焼きそばを作ってくれた。
料理が苦手でも一生懸命、私と私のお腹の中にいる子どものために作ってくれた。

私がご飯を作っているところをいつも見てくれていたから、味や入れる野菜は私が作ったものと同じだった。
でも、違うところもあった。
それは野菜の切り方だ。
私よりも野菜を丁寧に細く切っていた。
想いが伝わってきた。
私が作るより時間もかかっただろうなって思った。


うれしいご飯って、味や見た目だけではない。
つわりがあっても、作ってくれている人の想いがこもったご飯は、私の体にすーっと入っていく。どんな高級料理店のご飯よりも美味しく感じた。
あのとき夫が作ってくれた焼きそばは、私にもお腹にいた我が子にとっても栄養満点のご飯になったと思う。
うれしくて幸せな味だった。


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ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
毎日ご飯を作っていると、大変だなって思うことがあるんです。
でも、妊娠中、私は"あなたのご飯が作りたい"って思いながら作ることができず、辛かったのを思い出しました。また、夫が私と私のお腹の子のために作ってくれたことも。
あのときの、私の心と身体を支えてくれた夫への"ありがとう"の気持ちは一生忘れません。

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