華やかイヤリングの佐藤君 第一話
あらすじ
内気な少年、丸川亮。いつも一人ぼっちだったオタク高校生の元に派手な転校生がやってくる。名前は、佐藤流伽。ルカとの日々は丸川少年の世界を彩っていく。
ルカはノンバイナリーでメイク好きの少年。ルカと過ごしたり、彼のことを知るたびに丸川は変われることのうれしさを知り、おしゃれの楽しさ、生きることの楽しさに気づいていく。
しかし、いつも明るいルカが抱えていたのは重く暗い心の闇だった。
強いから武装するんじゃない、弱いからこそ強がるんだ。
男子×お洒落の青春ストーリー開幕。
読んだ後のあなたと作者に人生が変わるきっかけが来ますように。
本文
第一話 「華やかイヤリングの佐藤君」
3月某日。千葉県○○市。映画館近くのアニメグッズショップの片隅、野暮ったい青年や少し綺麗目な女性に紛れ、やせっぽちの眼鏡の少年が美少女のアクスタを吟味していた。
一律1750円...今年から高校生の財布にはちょっと高い。だがしかし、オタクっていくものはいつの時代も金銭感覚が少々イカれているのである。
少年は迷わず2つのアクスタを持って、レジに向かった。唯一のなじみ(?)の女の子。吉田い○んちゃんみたいなバイトがいつもの萌え声で対応してくれる。
「2点で3500円です。特典2点付けときますね。お支払いは?」
「ペイペイで。」
支払いを済ませ、残高を確認し、ホッとする。まあ、当分のお昼ご飯は購買のミニアンパン108円になるだろう。
あ、僕ですか?令和のオタ活陰キャ男子。丸川です。
もうすぐ高校生になるのに、普段着はお母さんの選んでくれた謎の英字のロンTに小学校の頃買ってもらった使い倒した黒の肩掛けエナメルバッグ。
これでよいのだ。だって、彼女いないし。生身のおしゃれな女とか一生抱けないし。
推しに課金して、満たされればそれでよいのだ。
いそいそとアニメショップを出ると、日差しがまぶしい。帰りはまっすぐ帰ろう。
駅のホームで電車を待っていると、目の前の女性がスマホを落とした。
「あ...」
小さく声が出たものの、手はなぜか動かなかった。
「拾ってくれてもいいのに。」
以外にも目の前の女性から出た声は少し低く、よく通る声だった。
女性はスマホを拾うとスカートを整えた。
少年はある違和感に気づく、(あれ、今の男の声だよな。)
もう一度よく女性を見ようとしたけれど、女性はさっさと電車の中に消えてしまった。
その後家にて。
コトン。
たくさん並んでいるアクスタは俺の勲章だ。今日の仕事はネトフリでアニメを見る。それくらいだ。
これでいい。適当に勉強量こなして、適当に飯食って寝ればいい。
今の日本はオワコン。夢とか恋愛とか全力でぶつかる青春なんてこれからの時代には合ってないんだと思う。
インスタで承認欲求を満たす。
Twitterで自分が尊大な意見を言っているような快楽を得てはいいね数を確認する。
Googleのサイト検索で今夜のお供を探す。
LINEの返信が来なかったら簡単に病む。
推し活という自分を見失った奴らの投資先。
連絡先なんて簡単に得られるし、消える。
マッチしてもヤリモクしかいないという恋愛弱者のるつぼ(マッチングアプリ)。
カスみたいな私生活を公開しては他人に良くわからない優越感を与えるユーチューバー。
今の日本人って何がしたいのか分からない奴らばっかりな気がする。
いつの間にか、今日の天気も分からない。
散歩していてもそうだ。
澄んだ外気の緊迫感、星の輝き、
登下校中にすれ違う犬の吐く息の音でさえ、今聴いている音楽、ラジオ番組の邪魔にすぎない。
先人よ、僕たちはこんなつまらない社会にいます。
なぜこんなに満たされないのか、自分でも分からない。中学生の簡単な頭にはこんな小さなことしか考えられないのです。
こんな人生を変えたいって思ってる。
だけど、自分が何をしたら満たされるか。そんなことさえも分からないんだ。
(第二話に続く)