R6予備口述を受けて

「あった!」
自分の番号を見つけた2024年12月19日16時45分、久々に心の底から叫んだ。予備試験の論文式試験に受かったのである。

自分の番号を発見した直後のuncultured氏

さっそくTwitterを開き、受かった時用に下書きに入れておいたツイートをした。

流石にスカしすぎである。
合格発表の後はすぐ忘年会の予定が入っていた。調子に乗って後輩全員分を奢ったり、カラオケで朝まで歌ったりしつつ、少しづつ「自分が合格率4%
未満の予備論文に受かった」ということに現実味を感じてきた。

さて、朝帰りして夕方まで寝たので、口述用のホテルでも取ろうかと探し始めたところ、会場近くのホテルが全然空いてない。空いていても2泊3日で5、6万はする。仕方がないのでタクシーで15分の浦安駅のホテルに。

実は論文を受けた直後にホテルを予約して落ちたらキャンセル(無料)するという裏技があったらしい。そうすれば会場から徒歩のホテルも安く泊まれるというわけだ。

ホテルを予約したら、口述対策を始める・・・ことはできず、ウィンタークラーク(インターン)の申し込みをしなければならなかった。これが意外と大変で、それぞれ民間就活の如くエントリーシートを書かねばならない。幸いどこもフォーム形式なので履歴書は用意する必要がないのだが、法曹を志した理由、自己PR、ガクチカ、志望動機等々書かなければならないので2000字くらい書くこともあって、慣れないことをいきなりやらされると大変なのである。特に志望動機は事務所ごとに違うから使い回すのも難しい。そもそも五大法律事務所以外碌に知らないのでどんな事務所があるかアットリーガルで探すところから始まる。そうすると年内は大して勉強できないのである。

年が明け、ようやく口述対策を本格化した・・・と言いたいところだが、意外にもやる気が出ない。98%受かる試験だからだろうか、論文に受かって気が抜けているのだろうか。とにかくこんなところで落ちてはならないから勉強仲間の後輩と毎晩ビデオ通話で過去問を出し合うことに。そうは言っても勉強できるのは1日3時間あるかないかで結構焦っていた。

バイトのシフトも減らしてないし、期末試験もある。しかもやる気がない。まずいなと思いつつ腰が重くダラダラと時間が過ぎていった。

そんなこんなしていたら模試の日になった。ロースクールタイムズの模試である。安くてクオリティが高いとのことだったので申し込んでいた。実は模試はこの1回しか受けてない。伊藤塾の模試も申し込んでいたのだが、情けないことに寝坊して受けられなかったのだ。

ギリギリで模試会場に着くと、息つく間もなく始まってしまい、知識も不十分だったので119点をつけられた。119点というのは合格ギリギリである(118点以下が不合格)。
危機感だけが増していくが相変わらずやる気は出ず、部屋の模様替えや弁護士になったらどこに住むかなど考えて時間を無駄遣いしていた(すでに大手町で働く気満々だったので近くでいいマンションがないかSUUMOで探していた。取らぬ狸の皮算用とはこのことである)。

一方、大学では期末試験の時期になっていた。予備に受かればローも行かないので法曹コースもGPAもどうでもいいのだが、流石に卒業はしなければならないので一応対策をしなければならない(ちなみにウィンタークラークはGPA低くてもなんとかなるのだ)。ただでさえ少ない口述対策の時間が減っていった。

とりあえず単位を取れればいいから、行きの電車や休憩時間で論証集を読んで突っ込むという一夜漬けどころか「タレに潜らせた」程度の状況でテストに突撃した。
早稲田大学法学部の期末試験は1月21日から27日にある。そしてなんと今年の口述試験は1月25日と26日なので、丸かぶりしているのである。

24日、スーツケースを引き連れて4限のテストを受けに行き、その足で前乗りのホテルに向かった。浦安ビューフォートホテルという、よくあるビジネスホテルである。浦安駅から会場までは徒歩で50分近くかかるのでタクシーが必須であるが、前日の時点でもうどこもタクシーが予約できなかった。駅前にタクシー乗り場があるので、当日そこから拾うことに。雨が降ったら終わるな、と思いながら夜ご飯は近くにあった「やまと」というとんかつ屋で食べた。80代くらいの老父婦が二人でやっているお店で、ロースカツとエビフライ2本の盛り合わせ定食を頼んだ。「よく考えたら前日に胃もたれしそうなもの食べない方が良かったな」ホテルに帰ってそう思った。しかし、味はかなり美味しかったし、実際胃もたれはしなかったのでいい思い出になった。
夕飯を食べてホテルに戻り、ホテル特有の薄暗い照明の下で、目が悪くなりそうだなと思いつつ大島本を読んでいた。22時くらいに一緒のホテルの別の部屋に泊まっていた先輩と本番形式で問題を出し合った。

「手付の要件事実はなんですか」
「えっ」

まずい、本番は明日の午前中である。全然身についてない。手付に要件事実とかあるんだ。生意気だな。

とにかくやれることをやるしかない。部屋に戻り手付の復習をしているとドアにノックが。さっきの先輩である。
「うい〜あんかるくん、今彼女と電話してんの」
「どうも〜(電話越し)」
なんだそれ、合宿か。もう風呂入って寝ようと思ってたんだが。明日8時半集合だぞ。しかし、私に彼女がいないという話題になり、その彼女が今度女の子を紹介してくれるという流れに。思わぬ収穫に満足して就寝した。

さて、1日目は午前の民事だった。これがかなりきつい、8時半集合で遅れたらもう受けられないのである。なんとか気合いで朝日が昇る前に起床し、自作の要件事実まとめノートを読み返した。

7時になったのでホテルの2階にあるレストランで朝食を食べに向かった。ただのビジネスホテルのはずなのに、合鴨のローストやら鰻の炊き込みご飯やらやたら豪華な朝食がバイキング形式で並んでいた。周りは夢の国にでも行くのだろう人たちばかりだったが、一人スーツを着た学生風の若い男性がいた。仲間なのかなと思いつつ、流石に声をかけるのもだるいと思われそうなのでスルーして一人で黙って朝食を食べた。

懸念のタクシーは無事乗れたので問題はなかった。会場まで時間は15分、料金は2000円くらいだっただろうか。わざわざタクシーで乗りつけるキザな受験生は他にいないようだ。会場に着くとまず名札を渡される。○室○番というふうに部屋と呼ばれる順番が書いてある。順番は1から7まであるのだが、この日は5番だった。

名札を受け取り、誘導に沿って待機室に向かうとそこは体育館だった。バスケのゴールも付いているので、「法務省の建物に体育館は必要なのだろうか」と思いつつ⚪︎5番と張り紙がされたパイプ椅子に座った。「電子機器は封筒にしまって封をしてください!」。呼び込みくんのごとく同じ言葉を繰り返す監督員の声がコンクリ打ちっぱなしの体育館に響く。




待機室は寒い寒いと聞いていたのでユニクロの超極暖を着ていったが、ヒーターが設置されていたので意外と寒くはなく、むしろ暖かくて眠くなってしまったのでコートは脱いだ。

8時半になると注意事項の説明が始まるのだが、みんな大島本に夢中で耳を貸す気はないようである。とにかく本番自分の名前を言わず、電子機器を封筒から出さなければいいのだろう。横耳で注意事項を聞きつつ、また自作の要件事実まとめノートを読んだ。意外と大島本の上巻を使っている人が多かったのが印象的だった。おそらく今買うなら緑の要件事実編を買うべきなのだろうが、それを読んでいる人は見当たらなかった。

周りの受験生の様子といえば、論文までとは一変していた。受けたことがある人はわかると思うが、予備試験の短答・論文受験生の最も多い属性は「おじさん」である。なんならおじいさんもいる。それが口述会場では10人に1人いるかと言った感じであり、ほとんど20代のように見える。誰かが口述会場は美男美女ばかりだと言っていたが、そこまでではないような感じだ。もっとも、肥満体の人はいない。おじさんも太ってないし、仕事ができそうなサラリーマンといった人がほとんどである。

さて、ようやく1番の人が呼ばれて発射台と呼ばれる準備室に向かっていった。一人当たり20分くらいかかるので5番の自分が呼ばれるのは80分後くらいだろうかと計算しつつ、とにかくノートを何周も読んだ。

1番の人は一斉に呼ばれるのだが、2番以降は前の人の終わるスピード次第で呼ばれる順番が人によって異なる。自分は5番だったが、他の部屋は既に6番まで呼ばれているところもあった。「つまり、自分の部屋の1番から4番がつっかえて時間かかっているんだな。難しい問題が出ているということか。いや、他の部屋より出来が悪いということは相対評価的には有利か」などと考えていた。
ようやく呼ばれたかと思うと発射台と呼ばれる部屋でさらに20分くらい待たされた。「どんだけ待たせるんだよ。もう朝からノート4周くらいしたからやることないよ」と思いつつ、もうやれることもないので精神統一を図っていた。

「○室5番の方、荷物を全て持って移動してください」
やっと来たか。誘導員に付き添われ、長い廊下を渡り試験室がある場所まで来た。荷物やコートは部屋の外に置くのでどんな派手なアウターを着ていても実は問題ない。

「ドアをノックしたら中から呼び鈴が鳴るのでそうしたら入ってください」と誘導員が言う。
「(なんでドア半開きなんだろう・・・)」
いよいよか、ロースクールタイムズの模試ではマナーがなってないと言われてしまったので気をつけよう。

「コンコンコン」
「チーン」
張り詰めた雰囲気の場に似つかわしくないコミカルな音がドアの奥から聞こえる。

ドアを開き足を踏み入れる。
「失礼いたします」
ここはハキハキと。
椅子の横まで歩み寄り、「⚪︎室5番です。よろしくお願いいたします」と元気よく挨拶する。
「あ、本人確認するのでマスクは外してください」
「・・・はい(そういえば伊藤塾の再現にも似たような問答あったな)」
「おかけください」

部屋は狭い。5畳くらいの部屋で、おそらく研修に来た人が泊まるように作られた部屋からベッドを運び出して机と椅子を設置したのだ。冷蔵庫はそのままあるし、ユニットバスらしきものもある。



「失礼いたします」
椅子に座ると、机上の左に事案が書かれたパネル(A4の紙にラミネート加工したもの)、右には論文の時に貸与される六法が置いてある。

「では、パネルを読みながら聞いていてください」
主査は40代半ばの優しそうな男性、副査は定年間際のちょっと無表情な感じの男性だった。
主査がかなり丁寧に事案を読み上げる。
主査が読んでいるところよりも先を勝手に読み進めてみると、Yの所有権移転登記とZの抵当権設定登記を抹消したいと書いてある。
「ん、やっぱり登記請求権出たか」
「では、この事案における訴訟物を教えてください」
「はい、Yに対しては、所有権に基づく妨害排除請求権としての所有権移転登記抹消登記請求権1個、Zに対しては、所有権に基づく妨害排除請求権としての抵当権設定登記抹消登記請求権1個です」
噛まずに言い切った。しかし、主査が首を振らず少し黙る。
「Zに対して、何か他に考えられないですか」

もう一度パネルを黙読する。まさか・・・。
「承諾請求でしょうか・・・」
「そうですね」
おいおい、不動産登記法68条の承諾請求じゃないか。こんなの出すのかよ。
「では、その場合の訴訟物を教えてください」
「えー、所有権に基づく妨害排除請求権としてのYの所有権移転登記抹消登記の承諾請求権1個です」

たまたま後輩とやってたから助かったけど、出るなんて思ってなかった。「まあ出ないでしょうけど」そう笑った後輩の顔が思い浮かぶ。

以下の再現は伊藤塾にも提出しなければならないので省略せざるを得ないのだが、グダグダやりつつも誘導には乗って正解に辿り着き、最後の問題まで答えきったようだった。20分くらいかかっただろうか。体感では30分だった。

「ありがとうございました」
少しでも印象が良くなるように頭を下げる。
席を立ち、言う。
「失礼いたひます」
・・・最後の最後に噛んでしまった。

試験室を出ると、「承諾請求が出たぞ!」と誰かに伝えたくて仕方がなかった。しかし午前組は午後組と問題が同じなので午後組が全員揃うまで終了室で待機しなければならない。

明日は刑事なのでその対策をするべきなのかもしれないが、そんな気分でもなかったのでメモ帳に再現を書いた。

やっと会場を出れた。もう13時近い。門を出ると後輩がいた。
「承諾請求出たよ」
「マジすか!?」
そのまま一緒に新浦安のイオンにある牛タン屋で上牛タン定食を食べた。後輩は1日目刑事で、勝ちを確信した様子だったが、私は59の可能性もあるな、と少し不安だった。明日の刑事は絶対に60点取らないといけない。

ホテルにタクシーで戻ると、スーツのまま寝てしまった。連日寝不足だったし、とりあえず解放された感じだったので気が抜けたのだ。

夕方になりのそのそと起床し、スーパーに行ってパック寿司、フライドチキンを買った。疲れたのでコンビニでキリンクラシックラガーも買ってしまった。ホテルに戻りYouTubeを見ながらフライドチキンにかかっているスパイスが辛すぎてカラムーチョのおばあちゃんのようにヒーヒーした。

次の日も刑事が残っているのだが、刑事の方が自信はあったので舐めてた節があると思う。1時間ほど基本刑法各論を読み、また同じホテルの先輩と問題を出し合った。実体法は問題なくスラスラと答えられた。問題は手続だ。あとは基本刑訴1読むかと思ったが、なんだか体調が悪い。熱っぽいし、咳は出るし、鼻も詰まってる。朝起きたら治っててくれと思いながら体調優先で勉強せずの就寝した。

また朝日が昇る前に目が覚めた。頭がいたい。寒気もする。呼吸も苦しい。口述試験に再試験などない。ここで受けられなかったらまた短答からやり直しである。もう少し寝ればマシになると期待して10時まで寝た。ホテルの朝食は9時までなので、美味しい朝食は逃したが、そもそも食欲はなかった。

ホテルをチェックアウトしてマツキヨでバファリンとQPコーワゴールドを購入して、少ししたら良くなった。時間まで浦安駅のマックで基本刑訴を読み、またタクシーで会場に乗った。ここでブラックコーヒーとアップルパイを胃に入れたのはおそらく悪手だが、特に問題はなかった。

そういえば2日間でタクシー代8000円くらいかかってるから遠くて安いホテルに泊まるメリットなかったかもしれないな、と思いながら法務省浦安センターを知らなかった運転手の運転で会場に向かった。

会場前には既に人だかりができていた。タクシーを降りるとあの有名な岡口先生と呉先生が。アガルーターなので呉先生はスルーし(岡口先生も今は伊藤塾の講師だが)、「あ、岡口先生!」と一言声をかけたら「頑張ってください!」と応援をいただいた。こんな人が白ブリーフやらなんやらで罷免になったとは思えないな、と思いつつ会場に入り列に並ぶ。

隣の列にはたまたまバイト先の先輩がいた。「〇〇さん!」「お〜〇〇くん」お互い論文に受かっていたことはここで知ったので少しテンションが上がった。意外と体調は大丈夫そうだ。バファリンすごいな。やっぱり理系はすごい。数学も理科もできない私立文系はそう言葉にすることくらいしかできない。

2日目なので特に緊張することもなくまた体育館に入る。今日は2番だった。すぐ終わるということだ。体調が悪いから待たされるよりはいいだろうが、刑訴の対策はあまりできていない。おそらく呼ばれるまで1時間ほどかかるから短いがその間に条文素読と基本刑訴をざっと読んで、基本刑法の出そうなところだけ読むことにした。

心拍数は平常だった。
「⚪︎室2番」
スーツケースもあるので荷物が多いが、もう2日目なので慣れてきた。緊張は全くない。

また昨日のように試験室に入ると、仏のように優しい顔をした男性といかにも検察官という風貌の強面の男性がいた。
「それでは、手元のパネルをご覧ください」
「(ああ、優しい方が主査か)」
そう思いながらパネルを見ると「9ヶ月の胎児が」と書いてある。
「(え、胎児性致傷?堕胎罪?)」
流石に対策してない。というか1日目が非財産犯だったんだから2日目は財産犯なんじゃないのか。今までの傾向はなんなんだ。
主査が事案を読み上げていくうちにどういうことか理解した。殺人罪と保護責任者不保護致死罪の問題だった。
「(よし、それならわかるぞ)」そう思い、主査の質問にテンポよく答えていく。
「うんうん、うんうん」ホロライブのリスナーくらいうなづいてくれる優しい主査だ。この人も検察官なんだろうか。

手続の問題も大体難なく答えられた。
弁護士倫理は弁護士職務基本規定21条と答えたが、違う気もするが、まあ主査が突っ込んで来なかったのでいいだろう。
ともかく15分くらいであっさり終わった。15分で終わる場合、いい点が来るというのが相場である。風邪を引いていることも忘れ清々しい気分で会場を出た(午後組は自分の番が終わるとすぐ出られるのだ)。

とにかく、最後まで受け切れて安心した。あとは結果発表を待つのみである。



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