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アキバ探偵シリーズ 秋葉原八十八ヶ所お遍路事件 #1

ここは秋葉原は昭和通りに位置する秋葉原探偵事務所

日夜、取るに足りないが見過ごしてはおけない、しかし然るべきところに相談するほどでもない、しょうもない事件だけが持ち込まれてくる。

「先生、先生!大変です!」
今にも外れそうなボロドアを、その美しいおみ足で蹴飛ばして事務所内に駆け込んできたのは、秋葉原探偵事務所が誇る紅顔の美少年"小林少年"である。

道行くオタク100人のうち98人を男の娘の道に誘い込む魔貌の持ち主である。振り向かなかった2人は、1人は過激派の百合至上主義者、もう1人は腐女子である。

「なんだい、小林くん。この世には大変なことなんて一つもないんだ。なべて世はこともなし、ケセラセラだよ」
所々ほつれたボロボロの2人がけソファの上で憂鬱げに横になっているのは、我らが秋葉原探偵事務所の汚点、通称"秋葉探偵"である。

相対するもの全てが顔をしかめる胡散臭い風体の持ち主であり、道行く100人のうち98人はこの男に向かってモノを投げる。投げなかった2人のうち、1人はしなやかな肢体で同級生を惑わせている小林少年、もう1人は腐女子である。

「先生?また自律神経の失調ですか?この小林少年を見て元気を出してください!」
バッチコーン☆とポーズを決める小林少年。向かいのビルの窓際社員がその刺激的なポージングを視界に入れてしまい、鼻血を出しながらぶったおれた。おそらくこの社員は、このままクビになるだろう。

「君のその白磁のような肌としなやかな肢体はとても魅力的だが、それだけで私の中のこのぼんやりとした不安と焦燥感を解消することはできない…..僕のこの焦燥感を消してしまうには事件….そう!事件が必要なんだよ!」
クワッ!とソファから身を乗り出し、躁鬱気味に小林少年に食い入る秋葉探偵。ソファのへりを掴む手はふるふると震え、小林少年を見る目は血走っている。

「ああ、お可哀想な先生!でも大丈夫、この僕がお助けして差し上げます!」
舞台上の悲劇役者のように紅潮した目尻の涙を拭う小林少年、後ろに回した手には目薬が見え隠れしている。

「くだらん三文芝居はやめたまえ!小林くん!君は、どうやって、この私を!このどこまでも無気力な地獄から助け出してくれるというのだ!」
ヒステリックにわめく秋葉探偵、我らが麗しき小林少年にこの態度、断じて許すまじ。

「事件!事件ですよ!"秋葉原商工振興会様"からのご依頼です!」
やりましたね、先生!という言葉とともにさらにポージングを決める小林少年。向かいのビルでそのポーズを目に入れた社員たちが、さらに鼻血を出してぶったおれる。

「…..事件?」
ピクリと震える秋葉探偵。

「事件とな!?」
事件というキーワードがインプットされたことにより、停滞していた海底火山が噴火するように、体中に活力を漲らせ始める秋葉探偵。

どん、と大きい音を立てながら座り直す秋葉探偵。先程までの態度が嘘のように威厳ある姿勢でソファに腰掛けている。

「詳しく聞かせたまえ。小林くん」

その目は宝物を目の前にした少年のように爛々と燃えていた。



多分、続く。

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