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「騎手娘」 第1話「出会いと憧れ」
第1話「出会いと憧れ」
空は高く、晴れ渡っていた。窓の外を見つめる美月の目には、広がる青空がまぶしかった。今日もまた、彼女の日常は何も変わらない一日になるはずだった。しかし、運命の歯車は、すでに静かに動き始めていた。
「美月、早く下りてきて!朝食が冷めちゃうわよ!」 母の声が、階下から響いてくる。そういえば、今日は日曜日。学校もないし、のんびりしてもいいかな、と一瞬思ったけれど、母の声に急かされるままに、美月は階段を駆け下りた。
朝食を終えて、リビングのソファに腰掛けると、美月はふとテレビのリモコンを手に取った。普段はアニメや音楽番組ばかり見ている彼女だったが、何気なくチャンネルを変えると、目に飛び込んできたのは、競馬のレース中継だった。
「競馬?」
彼女にとっては、まるで異世界のような光景。馬たちが力強く地を蹴り、風を切って駆け抜ける。その速さ、その迫力に、美月は思わず見入ってしまった。
「すごいな…こんなに速く走れるなんて。」
画面に映る騎手たち。その中に、ひときわ目立つ存在がいた。女性騎手だ。風になびく髪、激しく動く姿。彼女は他の騎手たちと肩を並べ、時にはそれを追い越していく。
「女性がこんなにかっこよくて、強いなんて…」
その瞬間、美月の心に何かが響いた。彼女は、ただの女子高生。特別な才能もなければ、目立つ存在でもない。だけど、その画面に映る女性騎手の姿は、何かを変えるきっかけになるかもしれないと、ほんの少しだけ思った。
テレビの音量を少し上げ、レースの解説に耳を傾ける。解説者の熱い声、観客の歓声、そして最後の直線に差し掛かる緊張感。すべてが新鮮で、ワクワクするようなものだった。
ゴール直前、女性騎手が他の騎手を追い越し、先頭に立った瞬間、リビングにも歓声がこだました。美月は、思わず立ち上がり、拳を握りしめた。
「やった!すごい!」
その瞬間、美月の中で何かが変わった。テレビの画面に映る、女性騎手の勝利の笑顔。それは、ただの興奮以上のものを彼女の心に残した。
昼食を食べながらも、美月の頭の中は競馬のことでいっぱいだった。レースの緊張感、騎手たちの技術、そしてあの女性騎手の輝かしい勝利。
「競馬って、本当にすごい世界なんだね…」
彼女は自分のスマートフォンを手に取り、検索を始めた。競馬について、女性騎手について、どんどんと情報を集めていく。何か新しいことを始めたいと思っていた美月にとって、これはまさに運命の出会いだった。
夜、布団に入りながら、美月は空を見上げた。あの青い空のように、広く、高く、自由な世界が彼女を待っている。明日からの日々が、どんなものになるのかはわからない。でも、今日の出会いが、彼女の人生を変える第一歩になることは、間違いなかった。
美月は、その夜、ほとんど眠れなかった。彼女の頭の中は、昼間見た競馬のレースと、あの女性騎手の姿でいっぱいだった。布団に横になりながら、何度もあのレースのシーンを思い出し、心は高鳴り続けていた。
「私にも、あんな風になれるかな…」
自問自答するものの、答えはすぐには見つからなかった。ただ、彼女の中で何かが変わり始めていることは確かだった。競馬という全く新しい世界への興味が、じわじわと心を満たしていく。
翌朝、美月はいつもより早く目覚めた。昨日の興奮がまだ残っていて、目がすっかり冴えてしまっていたのだ。朝食を食べながら、彼女はふと思い立った。
「もっと競馬について知りたい。あの女性騎手がどんな人なのかも…」
食事を済ませ、美月は自分の部屋に戻り、パソコンを開いた。競馬のルール、歴史、騎手という職業について。彼女は一つ一つ丁寧に調べていった。そして、昨日のレースで勝利した女性騎手についての記事を見つけると、目を輝かせた。
「彼女の名前は…光。元はアマチュア騎手で、数々の困難を乗り越えてプロになったんだって。すごいな…」
美月は光のインタビュー記事を読み進めた。光の言葉には力があり、苦労話も正直に語られていた。それを読むうちに、美月の中で新たな感情が芽生え始めていた。
「私も、何かできることがあるかもしれない。葉月さんみたいに…」
その日の放課後、美月はいつもと違う道を歩いた。彼女が向かったのは、地元の図書館だった。競馬に関する本を何冊か借りるためだ。図書館の中を歩きながら、彼女は心の中で決意を固めていた。
「競馬のこと、もっと知りたい。そして、いつか…」
図書館で借りた本を手に、家路につく美月。彼女の顔には、新たな夢を見つけたような輝きがあった。そして、その夢は、まだ小さな一歩から始まることになる。彼女が競馬の世界へ足を踏み入れる日は、もうすぐそこまで来ていた。
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