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異界を手軽に感じる方法
僕はオカルトが好きだ。
幼い頃から水木しげるが好きな影響かもしれないし、少し霊感があるからかもしれない。心霊スポットや曰く付きの場所と言えば、仲間同伴でも単身でも積極的に凸してきた。結果として、変なものを見たり、不可解な現象に遭遇したことは少なくない。まあ、それは当たり前だ。霊や怪異は総じてかまってちゃんである。興味を持って訪れる人を手ぶらで帰すことはしない。彼(彼女)らはサービス精神旺盛なのである。
ところが最近、怪異を体験することが非常に少なくなった。ここ数年、前向きに生きているからだろう。神仏のご加護を感じることは増えたが、怪異はめっきりである。
そりゃ、そうだろう。やつらはポジティブが苦手なのだ。察するに、ナオト・インティライミとかは最も苦手に違いない。闇の世界の住人には光は必要ないのだ。
僕は、闇の世界の住人ではなくなったのかもしれない。それは、限りなく喜ばしいことであると同時に、少し淋しいことでもあった。
かつて、見えていたものが見えなくなる…。
良い悪いは別として、異界にノスタルジーを感じてしまう自分がいた。異界は強烈なマイナスエネルギーだが、エキサイティングだ。平和な日常に存在しない興奮がそこにはある。
ところが些細なきっかけで、異世界に簡単に迷い込む方法を見つけてしまった。
僕の職場の本社は倉庫を兼ねているので、荷物用の大型のエレベーターが何基か設置してある。古いエレベーターなので、電灯はスイッチを入れないと点かないタイプだ。
退屈しのぎの、ほんの思い付きだった。
そうだ…。電灯消してみよう。
これが、想像以上の不思議体験だった。漆黒。そう表現しても良いほどの闇なのだ。闇の中、行き先の階の表示だけが頼りなく灯っている。他は目を凝らしても、何も見えない。
重苦しい機械音と共に、エレベーターがゆっくり動いていることだけが感覚的に伝わってくる。暗闇だからだろう。実際には何十秒かの時間が、数分程度に引き伸ばされる。
その…、いつ終わるかもわからない、一秒一秒。
時間軸のズレをリアルに感じる。
現代社会は一秒が短く感じることは良くあるが、長く感じることはあまりないだろう。それが、古い荷物用エレベーター1台で簡単、かつ安全に体感できるのだ。
また、電灯を消して行き先を押さないという新たな選択肢も試してみた。
これは、本当に恐怖である。そこにあるのは真の闇、そして真の静寂だ。聞こえるのは自分の息遣いだけ。見えざるものが見え、聴こえざる音が聴こえてくる。異界は意外と日常の近くにある、と強く実感する。
こんな感じで、このごろの僕はすぐ隣りにある知らない世界を体験している。
手の届く範疇に古い荷物用エレベーター(取扱者は乗れるもの)がある人は是非、お試し頂きたい。
異世界とは遠いものではなく、実はあなたのすぐそばにあるものなのだ。
※怖がりの方、暗所恐怖症の方、霊感が人一倍強い方は危険なのでやめて下さい。