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小説「蛇口をひねる」第六話


 学校の駐輪場に自転車を停めて、いつものように昇降口までの道のりを歩く。ウサギ小屋のところで右に曲がって、そのすぐ先の警備員詰所で左。そのまままっすぐ20秒歩けば、すぐ昇降口に辿り着く。下駄箱に履いてきたスニーカーを入れて、上履きに履き替える(上履きの色は学年ごとに指定されていて、一年は青、二年は黄、三年は赤だ)。
いつも通り急な憎き階段を何段も何段も上がって3階に辿り着く。ふう。唯一の救いは、私の教室は階段を上がってすぐのところにあることだ。私は教室のドアの前まで来ると、取っ手に手をかけた。
 教室のドアを開けると、そこには英美がいる。
「おはよう」英美の声。
「おはよう」何も考えずに返す。
なんでここに英美がいるんだろう。いつも教室に一番乗りするのは私。先客がいることなんてこれまでの中学校生活で一度だって無かった。

「びっくりした?いつも私が遅刻魔だからって、もう」英美の冗談めかした声色。
「いやそりゃあ、英美も私が遅刻したら驚くでしょ」
あーまーそれもそっかー、と気楽そうに抜かす英美。私は気になっていることを聞いてみることにした。余計な詮索は私のモットーに反するが、この程度の質問は別に相手の大事なナニカに踏み入ることもないだろうしいいでしょ。
「ちなみに、なんで英美はこんな時間に?」
「あーそれはね、…」
英美が言い淀む。しまった。結構ヤバめの事情があったのかもしれない。
相手に選択肢をあげなきゃ。
「…嫌なら、別に言わなくてもいいんだよ?」
「いや、私がれーちゃんに言いたい。……あのさ、凛、部活辞めたんだって」

…は?なんでそれを。英美が。
凛が言うはずもない。隠してたし、あんなに。
私もこのこと、誰にも言ってない。
とにかく、早く、今私が取るべき最善の行動。
「えええええええっっっ!?!?!?」
不自然な間、と会話の途中の自然な間、の境界線ギリギリ。で、あの発言。
あからさまだったかな?言葉を返すまで少し長すぎたかな?大丈夫?大丈夫?
そもそも、凛と交わした約束はきちんと守れてたの?
大丈夫?
頭の中がぐるぐるぐるぐるぐるぐる。
だって、今、私自身が、凛と英美と私の友情関係を握っている。私、手を握り締めることもできちゃう。
そしたら、図書研は、どう
「そうなんだよーショックっしょ」

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