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魔が刺した一言
人間って、うっかり魔が刺して言ってしまったことが、取り返しのつかないことになるんだとつくづく思います。
俺が自分の行っていた大学に決別して、他の大学の大学院に行き、結局その大学に戻らなかった決定的な理由は指導教授の決定的な一言でした。
そもそも俺は大学の教員になんてなりたいと思っていなかった。
ただ、今で言うところの学歴ロンダをしたかったのです。
俺の入った大学は、当時は人気がなく、学風がどう考えても俺とは合わない大学でした。
俺としては、他の大学の院に入ることで最終学歴を塗り替えたかったんです。本当を言えば、私立の大学で憧れていたところがあったのですが、他の私立大学の院に行くとなったら、自分の大学に対して失礼という思いがありました。
それで、俺は国公立だったら、「学費が安くて済む」とか「国立で勉強してみたかった」とか他の理由をくっつけることができると思ってしまったんです。
結局、俺は大阪の公立大学を受験しました。大学院の受験の場合は、先生の推薦状がいるので、自分で好きに受けるわけにもいきません。その大学は俺のゼミの教授の母校で、「恩師が言っていた大学だったから」という言い訳ができると思ったのでした。
ところが、これが裏目に出ました。
俺は大学院受験を甘くみていたんです。当時は大学生なんて勉強しないのがデフォルトだったし、院に行くやつなんて少ないから、そこそこあれば受かると思っていました。
しかし、実際には勉強している奴は一部にはいて、見事に落ちました。しかも、その時の面接の先生が、昔風の鬼の軍曹みたいな人で、ものすごいきつい言い方で突き放されました。
そこまでならいいのです。
その後、受験に失敗したことを報告すると、ゼミの先生は俺が落ちたのが嬉しくてたまらないような顔で、「下から取る大学もあるんやけどねー。ああいうところは上からと下からと受けるからね」と、いかに自分の大学が俺の大学よりもくらいが上なのかということを自慢してきました。
関西は国立大学志向が強く、私立なんてと思っている人は多いのですが、その先生はその私立大学で給料をもらっている身。おそらく、こんな大学と思いながら教えていたんでしょう。
周りに誰かがいたら、受験に落ちた教え子に対してあんなことは言えなかったはずです。
しかし、その先生はつい学歴自慢をしたくなって、口をすべらせてしまいました。
これが俺にとっては一生消えない傷になってしまい、その大学で教えることは今まで一度もなかったですし、これからもないと思われます。
決定的な一言、英語で言うところのラストワードをその先生は口にしてしまった。その時にうっかり魔が刺しただけだったんだろうけど、俺にとっては一生消えない傷となってしまったのでした。