【憑(の)り移れるのは一分だけ。】

試合当日ー体育館前ー

バスケ部5名とバスケ顧問は、体育館前に集まっていた。
いたずらっぽい笑みを浮かべてバスケ顧問は言う。

「もう、、
なるようになっちゃえって感じかな、、
全生徒や学園長もすでに観客席に座っていると思うよ。」

バスケ部顧問の言葉に、おもわず発狂する5人。
泣き虫少年は、もう足ががくがくになっていた。

「じゃあきみたち、
ついに最後の”お別れ試合”だ。
形はどうであれ、学園長のはからいには感謝だからね? 」

そういって、バスケ顧問はどでかい体育館内に入場していく。
足ががくがくの彼らも、もう絶望の表情で後ろへくっつき入場していった。

入場した瞬間に、体育館内にとどろく大歓声。いや、、
この大歓声はすでにおきていた歓声で、
彼ら5名に向けられた声ではなかった。

「キャーーーーー!!!!  吉林くーーーん!!!!
イヤぁーーーーーーー!!!! 国永くんこっち向いてっつーーーー!!!!」

本校の生徒なはずの彼女たちは、
本校のバスケ部員5名にはいっさい目もくれず、
そのデレデレの眼差しは、なぜか”ある一ヶ所、ある一点”に注がれていた。

それこそが、もはや”アイドル化”してしまった、
”湘鳳高校バスケ部のベンチメンバー”だった。

吉林颯斗(よしばやしはやと) ポジション パワーフォワード(PF)
敵陣を平気で何人でもかいくぐっていく。ボールを奪われたことがない。
通称 ”湘鳳の点獲り屋(てんとりや)”

国永平次(くにながへいじ) ポジション スモールフォワード(SF)
攻守を同時兼任する。 場所場所でその色を変え、敵陣を欺く(あざむく)。
通称 ”湘鳳のカメレオン”

バスケ顧問は笑みを浮かべながら、口を開く。

「やっぱり、この試合のメインはぼくたちじゃないようだ。
女子たちみんな彼ら二人に釘付けじゃないか。」

なおも女子生徒たちの”黄色い大歓声”は、彼ら”二人”に向けられる。
そんな彼ら二人は、女子たちの叫び声など気にもとめず、
クールな表情でベンチ席に座っていた。

バスケ顧問は彼ら二人を見て言った。

「彼ら二人は、今日はベンチだけどね。」

すでにこれから対戦するであろう、いわば”ベンチメンバーたち”は、
体育館のコート上でウォーミングアップを始めていた。

頭を抱える泣き虫少年。

「終わった、、、絶対、、終わった、、
こんなにいっぱい人いて、、、
おまけにあんなスター選手まで、、、」

バスケ顧問「ま、いいじゃないか。
さぁ君たちも、早くウォーミングアップ始めようか。」

先生たちに促され、コート上に入っていく部員5人。
だが本校の彼らの最後の試合にもかかわらず、誰も彼ら5人を見ていない。
相変わらずその黄色い叫び声は、一点に向けられていた。

無理やり己を鼓舞し、ウォーミングアップを始める5人。
バスケ主審も、コート上の真ん中に立ち準備をし始めた。

泣き虫少年はストレッチをしながら、
緩んだバスケシューズの紐をくくり直す。
くくり直そうとした両手が、すでに震えていた。

「明日から、、もう不登校だよ。」


観客席に腰掛ける教頭は、隣に座る”学園長”に声をかけた。

「学園長、? どうしてわざわざこんな大規模に試合を組んだのですか?
いくら廃部試合とはいはいえ、ここまでの大観客たちと
ましてや、湘鳳高校だなんて。」

学園長は不敵な笑みを浮かべて、ゆっくりと口を開いた。

「奴(やつ)が来ている、ここまで規模を大きくすれば乗ってくるだろう」

その言葉に、教頭は頭をかしげる。

「奴?とは、、
湘鳳の彼ら二人のことですか?」

そう言い終えた瞬間
試合開始の合図となる、けたたましいブザー音が体育館内に鳴り響いた。

ビィッーーーーーーーーーーー!!!!!

一斉に走り出す全選手たち。
それと同時に大歓声が巻き起こる体育館内。

バスケ顧問はいたずらっぽい笑顔を見せていた。

「さぁて、どうなることやら だね。」

必死でボールを奪いにかかる廃部バスケ部5人。
だが、高速の如く動いていく湘鳳のパス回しにまったくついていけない。

しゅんしゅんしゅんしゅん、

軽やかな身のこなしを見せ、敵陣を余裕で抜き去っていく湘鳳選手。
ゴール前、泣き虫少年が必死で飛びつく、、

「おりゃっつ!!!!」

が、、案の定、
なんなく”華麗なレイアップシュート”が決まってしまった。
そのシュートに大歓声が巻き起こる。 開始10秒の出来事だった。

【0ー1】 

湘鳳選手のあまりの緩急に、尻餅をついてしまう泣き虫少年。

「ふぇ、、フェイント、、めっちゃ、、入れてくる。。」

その後もどんどんと湘鳳選手たちに突っ込んでいく、廃部バスケ部たち。
だがそもそも、彼らがコントロールする”そのボール”に触れることができない。
嫌なほど綺麗にゴールが決まっていく湘鳳高校。

【0ー12】

アイドル選手二人も相変わらずのクールな表情で、目の前の戦況を見つめていた。
なおも湘鳳選手の勢いは止まらない。

大量得点に繋がる”スリーポイントシュート”をどんどんと決めていく。
あまりの正確無比なそのシュートに、泣き虫少年たちはどうすることもできない。

さすがに笑ってしまうバスケ部顧問。

「”2軍”選手なのに、、このレベルかい、、今の湘鳳は。
ドリブルもシュートも2軍でこの全国レベル。隙なんてあったもんじゃないよ。」

笑う先生にいっさい遠慮のない湘鳳選手たち。量産体制に入っていく。

【0-40】


あまりの実力差にぐうの音も出ないバスケ部顧問。
目の前のドタバタな彼らを見て、もうあきれ返るしかない。

バスケ顧問は、たまらずタイムアウトを選択する。
審判の合図とともに、試合が一時中断し、1分間の作戦タイムとなった。
両選手とも、互いのベンチに戻っていく。

ベンチに戻ってくる彼らは、なぜか1クォーター目(10分間)にして、
すでに疲労の顔だった。バスケ顧問は、彼ら5人に言った。

「さすがに1クォーターで、0-40は取られすぎでしょ、、?
君たちボール触れてないんじゃない、?」

うなだれた表情で同時にうなずく五人。
その情けのない姿に余計、呆れる先生。
そしてその瞬間、後方の観客席から、なじみのある罵声が飛んできた。

「0-40はねえだろうがっつ!!!
おまえらっ300点取られるつもりかよっつ!!!
だから廃部になったんじゃねえのっ?」 

罵声の主は、紛れもないクラスメイトの”いじめっ子4名”だった。
彼ら4人の罵声に、周りのクラスメイトたちがどっと湧いた。

泣き虫少年は顔を真っ赤に染め上げていく。
”彼ら”に、この試合を見られることが何よりも嫌だったからだ。

ピィーーーーーーー、、

審判の笛の合図とともに、1分間のタイムアウトが終わる。
またゆっくりと、コート上に戻っていく両選手たち。

ビーーーーーーーーーーー!!!!

けたたましいブザー音とともに、第一クォーターの試合が再開される。
さきほどまでの歓声とは変わって、罵り(ののしり)声が激しくなった。
完全に”いじめっ子4名”が先導を切り始めたようだ。

湘鳳選手が、またも高速なパス回しを披露する。
その速さに、どたばたとコメディのように、あらがう選手5人。
バスケ顧問も踏ん切りがついたように口を開く。

「これはもう可哀想になってきたよ。
2クォーター目で止めるしかないね。」

そう言うと、学園長の座る”観客2階席”に向かって歩き始めた。

そのあいだも湘鳳選手たちのシュートは、次々にゴールリングに突き刺さっていく。
それに比例して後方から遠慮なく罵声が飛んでくる。
もう廃部バスケ部5名のうち一人は、走りながら泣き出していた。

「学園長。」

バスケ部顧問は、異質な雰囲気をまとう学園長の前に立っていた。
淡々と話しかける。

「今回は学園長の粋な計らいで、最後にこのような試合を組んでくれたこと、
心から光栄に思います。ただ、あまりにも実力差があり過ぎる。
この試合は彼らのためにも、”2クォーター”目で終了して頂きたい。」

その言葉に、隣に座る教頭が代わりに口を開いた。

「無礼ではないか? 久遠(くどう)くん。
学園長直々の”廃部試合”なんですから。
4クォーター最後まで試合は続けますよ。」

「さすがにそれはないでしょう教頭。 
お言葉ですが、
そもそもどうしてこのような”無謀な試合”を組んだのですか?
これでは廃部試合どころかもはや”ピエロ試合”です。」

あまりの強い口調に、おもわず声を荒げる教頭。

「おいっきみっ、なんなんだピエロ試合とはっ!!
仮にもきみの生徒たちの試合なんだぞっ!?
言い方をわきまえなさいっつ、言い方を!」

バスケ部顧問は、構わず”学園長”を見つめる。

「 学園長。 2クォーターです。 次でこの試合を止めます。
反論するつもりは毛頭ございません。ですが、よろしいですね?」

その言葉になにも反応しない学園長。
ただ、、なぜかひとりでに笑い始めた。 
その”異様さ”に思わず返すバスケ部顧問。

「学園長、、何が可笑しいのですか、?」 

そう彼が言い終えた瞬間だった。

ドンッッっっっっっっつ!!!!!!!!!!!

”けたたましい音”が体育館内に響き渡った。
嬉しそうに笑う学園長。 観客席はすでに静まり返っていた。

その”異常な音”の方へ目を向けるバスケ部顧問。
異常な音の先にはなぜか泣き虫少年が突っ立っていた。

観客席の誰かがゆっくりと口を開いた。

「ダンクシュート」

静まり返る体育館。 
あれだけ”泣き虫”だった少年は
コート上の”ど真ん中”で、
なぜか腹を抱えていた。 

けらけら狂い笑う彼は、天を仰ぎながら
その両腕を大きくだだっ広げて、絶叫した。

【今の全国レベルはこんなもんか"""”?
国永 吉林 こんなレベルで最前線張ってんのか。??
この程度のもぶバスケなら""
湘鳳もろともおれが沈めてやるよ。】

なぜか湘鳳のベンチにいるスター選手2名を名指しして
狂気的に煽り始めた。

泣き虫少年の理不尽極まりない発言に、
監督やコーチ、生徒や教師たちは皆、口をあんぐりさせる。

『二重人格、、?』

ベンチにいる国永は、驚愕の表情を浮かべていた。
吉林も取り乱していた。目を引きつらせ敵を睨みつける。

泣き虫少年・本体
「なにが、、どうなってるんだ、、
言動と行動が制限されて、、感覚がまひしてる、、
でもなんでぼくは、あんなダンク決めれたんだ???
凄い滞空時間だった、、」

泣き虫少年本体は、【天才の感覚】をその肌で感じていた。
このお手本を境に、彼自身のバスケテクニックが跳ね上がっていく。

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