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花一匁(はないちもんめ)

【  花を喰らふ者には手をいさすべ。
花を喰らひの歴史を絶たぬ今やがて臓器を土に埋めたまへ。
わたりを守るもののあらずなる救ふよしのなくなる。
奴らは平民共を殺害しゆかむ。
止むべきは、花喰らひばかり。
なんちらは奴らの畏さを分かりたらぬひがごとを犯せる。
救はるべからずなりしほど汝らは初めて後悔しうる 】



数ヵ月前ー花の園。

花々が咲き誇る花の園では、なぜか5000人の敵衆たちが皆命絶え、
気付けば、生き残りは僅か一人だった。
座っている特花級4名 立っている特花級1名  

生き残りの一人は、目の前にいる特花級生徒5人に、口を開く。

「我々が5000人用意したのは、何の意味だったんだ。」 
その恐怖で彼は顔が引きつり上がっていた。

「ぼくたちはただ、学園に向かっていただけですよ
からんできたのは、あなたたちのほうですよね」 

無表情かつ無感情な彼は、生き残った一人の問いかけに冷たく答える。

「からんできた”、、
せめて”奇襲”と呼んではくれないのかい。」 

生徒の余裕な言い回しに、うなだれ顔を歪める。
そんな姿を見て、けたけたと笑い出す他の特花級4名。

「もう行っていいでしょうか? 遅刻しそうなので。」

無感情な彼は、冷めた表情で尋ね、怯える生き残りに問いかけた。
その言葉から、一つの可能性を見出す生き残り。

「もしかして、、
見逃(みのが)してくれるのかい、、? 」

その可能性を示唆し、高揚感で声がすこしうわずった。
無感情な少年はそっと口を開く。

「すいません。噓をつきました。」

そう言って、彼は手に持った ある花”を自分の口に含ませた。
目の前の花喰い(はなぐい)の姿に、怯え叫ぶ生き残り

「貴様、
花喰いだったのか、」

彼はゆっくりとこう言った。

「花喰いモード。」 



花の刻(白昼0時)
場所は花屋敷=学園の”参花級”クラス内、
和装姿の生徒たちが周りで賑やかななか、そのうちの生徒二人。

庵草「なぁ?知ってるか? 数ヵ月前の、あの”花の園”のこと?」
蘭詩「うん、、さっきほかの子もそのこと話してた、」
机の椅子に座りながら、向かい合い生唾を飲む二人。

庵草「ああ、死んでたんだぜ、大量に。
あのときたしか俺たちの新入式だったよな? 先公の一人が見に行ったよ、
そしたら青ざめた顔して戻ってきてよぉ、げろ戻してたよ。」
おえおえと吐く真似をしてみせる庵草。

蘭詩「笑い事じゃないよ庵やん、それ殺したの全部、
この屋敷の生徒って噂じゃん、、」

庵草「ああそうさ、でも知ってるか蘭詩?
そこにいたの、”特花級生徒5人”ってうわさなんだぜ、?」

目をまんまると見開く蘭詩。

庵草「数ヵ月前のその件依頼、この屋敷内では、そいつらが
”花の五人衆”って崇拝されはじめてよぉ、あほみたいな名前だよな、
マジで。」
両腕を上げ、やれやれのポーズ。

「でもよ、蘭詩?、、」

うん?な顔をする蘭詩、

庵草「その五人はなんでか、”花”を喰らってたんだとよ。」

蘭詩「はな、。?」 

庵草「ありえないだろ?」

その言葉とともに、担任の先生が参花級のクラスに入ってくる。

障子(しょうじ)が開く、 

「はい! みんな席についてー!、」

慌てふためく庵草と蘭詩。ほかの生徒たちも一斉に自分の席へ。
向かい合っていた二人も態勢を戻した。

先生「はい、じゃー授業始めるねー!」

そういって、一つの古い書物を取り出す先生。
「今日は君たちに聞いてもらいたい花のお話があるんだ。」

振り返る庵草「ドンピシャ、!!」

先生「君たちも祖父母やお父さんやお母さんたちから、
ずっと聞かされてきたはずだよね?
とある”お花”について」

「はいっ、」  声がきれいに揃うクラス内。

「この世界には、”ある一種の花”しか咲いていない。
他の花々は、その花のせいで全て死滅してしまった。
絶対に触れてはいけないし、切ってもいけない。
燃やすのなんて言語道断なある花。」

真面目に聞く生徒たち。

「歴史は古く さかのぼっても、
数千年前からすでに生えていたらしいんだ。
数千年前、ある”村”で、最初にその花が生え始めたとき、
なぜだか、他の花たちが全て死滅していった。」

淡々と書物を手にして、話す先生。

「でもね? 、、もっと怖いことがあってね、」
急に前のめりに教壇に突っ伏せる先生。

聞き入る生徒たち。

「その村で花が咲き始める数ヶ月も前に、
なぜか村の住人たちがみんな死んじゃったんだ。」

庵草たちは顔を歪める

「その理由は未だわかっていないんだけどね。
でも村の住人たちが”突然いなくなった” 
とこの書物には書き記されている。
まぁ古い文字だし、事実かどうかは誰にもわかんないんだけどね。」

楽しそうに書物をぶらんぶらんさせる先生とは相反し、
振り返りお互い苦虫を嚙み潰したような顔をする庵草と蘭詩。

再び、先生の口が開く。
「まぁみんな、花の名だけは頭の片隅にでもいいから、
入れておいてよ。
みんな覚えておいてね。」

そう言って、黒板にその文字を書いていく先生。
黒板に書かれたその言葉をみて、身の毛がよだった。

「壊臓の花。 」えぞうのはな。


和を感じる京の都。

「へえーい! 寄ってきなあー! 寄ってきなあー!」

着物姿の女性やけん玉を嗜む子供の姿、下駄で歩みを進ませる老いたち、
そのたくさんの大衆の中で、一際目立つ団子店主の声。

「串団子ぉー! いかがかなあー! 今なら安くつけとくよぉー!」

冷めた顔でその店前を通り過ぎようとする一人の無感情な生徒。

「おおー!!そこの兄(あん)ちゃんー!! どうだい?串団子! 
上手いぜー?」

自信満々に薦めようとする団子屋店主。
冷めた目で店主を見返す彼。

そこで目をまんまるにさせる団子店主。

「おおたまげたー、、兄(あん)ちゃん、結構な二枚目だね、?」

一切表情が無い。 そっと口を開く。

「ぼくはいりませんよ おなかはすいていませんから」

それでも引き下がらない団子店主。

「買っててくれよー? まけとくからよー? 
なー、、どうどう?、、」

氷のように冷たい声で返す。

「わかりました 一本ください 
やっぱりおいしそうなんでもらいます。」

目を輝かせる団子屋店主。

「食ってくれるんかぁー!!! よしきたっ! 待ってろぉー 今準備するからぁ!」

うねりのごとく我が自慢の串団子を準備しだす店主。

「へいお待ちの団子だいっ! 一本3文だよー、兄ちゃん!」

そっと3文を差し出す。
手渡された串団子はなぜか2本。

店主「兄ちゃん、その紋様の和装姿、 おそらくや
花屋敷(はなやしき)の生徒だろ? 良いよ! 一本おまけだ!」

串団子2本を手渡され、両手がふさがる。

「まいどありー!また来てなー!」

貰った串団子のうち、桃色の団子を、ゆっくり口で口に含んだ。
それでも無感情さは何も変わらないでいた。

死んだように冷め切った態度やその謎に満ちた雰囲気は
やはりその都を歩く人々の中でも少し異質だった。

通り過がるたびに振り返り彼を見る人々。

心ここにあらずなほど無表情な少年は、
いっさい周りの目を気にしていなかった。


花の参刻(夕の4時)

花の屋敷=学園の授業が終わり、屋敷から出ていく生徒たち。
庵草と蘭詩もまた町を通って帰ろうする。

庵草「あーあ、やっと終わったよ、相変わらず屋敷はだりーぜ。」
蘭詩「そうだね、今日はなんか長く感じたね。」

賑やかな都、提灯に灯りがともりはじめ、下駄の老若や着物姿の男女たちの
足並みは”なぜか”いっそうに早くなっていた。

驚く庵草と蘭詩。

庵草「なんだなんだ?? 薄暗くなってきたとはいえ、みんなして
やけにせかせかしちゃって、?」
蘭詩「ほんとだー?どうして? 珍しい。。」

なぜか町の老人たちは、青ざめた顔で家の扉を固く閉じようとしていた。

庵草「なんであんな必死こいて、自分たちの家閉めようとしてんだよ、、
頭飛んじまったか? あのじじい共は?」
蘭詩「でも、、ちょっと血相変えすぎじゃ、、おしっこちびりそう、、」

その時、一人の血相を変えた老人が話しかけてきた。

「お前たち! 花の屋敷の生徒じゃないか! 
こんなところでなにしている!
ここから早く離れなさい! その年で死にたくはないだろう! 
早く帰りなさい!」

驚く庵草と蘭詩、
老人からそんな言葉が出てくるとは思っていなかったからだ。

町の老人「ついさっき若い女(おなご)の変死体が見つかった。
なんとか性別は確認できたが
どの家の誰までわからぬほど、顔立ちの原形がなかったそうだ。」

絶句する庵草、ちびる蘭詩。

庵草「おい、、じいちゃん、どういうことだそれ。
誰がんなこと、

老人「もうえぇ。 はよぉ、帰りなさい。薄暗くなってきおった、」

蘭詩「庵やん、早く帰ろ、、暗くなってきた、、」
庵草「だな。 。
んでも、 どこのどいつだよ。ったくよぉ。」


ー広い大廃屋ー

無感情な少年は、古びた大廃屋の床で寝っ転がっていた。

「貴方が花月悠太(はなつきゆうた)くんですね?」

寝っ転がる無感情な少年に声をかける謎の男。

「はい、そうですけど、なにか」

花月は、起き上がると、カバンに入れてあった串団子を食べ始めた。
謎の男は、ゆっくりと問いかけた。

「君はこの世界に咲き誇る壊臓(えぞう)の花について。
なにか知っているかい?」

「いいえ。なにも。」

彼は、怪訝そうにまた口を開いた。

「あの花は、正体不明の猛毒な花なんだ。
焼き払っても、切り刻んでも、必ずまた同じ場所に生えてくる。
そしてなぜか、あの花に手を加えた人間は皆、
自死を選び自分の命を簡単に絶ってゆく。
それにあの花のせいで、他の花が死滅した。
もうこの世界には、他の花は一輪たりとも咲いてはいない。
壊臓(えぞう)だけがなぜか狂い咲いている。」

「そして、、」
謎の男は、そう前置くと、無感情な少年に向かってこう投げかけた。

「その花をなぜか君が食べていたと、目撃情報が入ったんだ。」

無感情な少年は、冷たい表情で問いに返した。

「ぼくはなにも知りません」

そう言うと、謎の男に対し問い返した。

「その目撃情報は誰が仰っていたんですか?」

謎の男は、ゆっくりと口を開いた。

「町民の一人さ。数ヶ月前、花の園に5人の生徒がいたらしいんだ。
そのうちの一人が、その壊臓を口にしていたと。
目撃した若い女は、花屋敷の生徒で串団子を買っていた君に
そっくりだったと言っていた。だから君に問いていたんだよ。?」

「そうですか」

謎の男は、両手をあげ、花月に謝った。

「本当に申し訳ない。今、壊臓について情報を収集していてね。
さっきの団子屋から君の後をつけさせてもらっていたんだ。
だが、君はこの花とは何の関係もないようだね?
それはすまないことをした。」

彼は、そういうと、大廃屋の出口へと歩き出した。

「本当に申し訳なかった。今回のこと忘れてくれ。」

そう笑顔で手を振ると、出口に歩みを進ませていった。

無感情な少年は、ゆっくりと口を開いた。

「花印を施す。」

その瞬間、謎の男の背中に花の紋様が大きく描かれた。
彼は、花印を施されたことにまだ気付いていない。

花月悠太は、左手を彼にかざすと、静かなリズムで囁いた。

「3・2・1」

その瞬間、
謎の男の身体が、なぜかばらばらに吹き飛んだ。

散らばる遺体を背に花喰いの彼は
また手元にあった串団子を口に加え始めた。

彼のポッケには、壊臓(えぞう)が入っていた。


ー屋敷の一室。

「【花喰いモード】をご存知でしょうか。?」

「はなぐいもーど??」

屋敷の先生二人は、真剣な表情で話していた。
彼から飛び出た言葉に、思わず聞き返す。

「なんですか??
その花も-どなんちゃらとは、、?」

「花喰いモードという名です。
この花の屋敷のある書物にはそう書かれてありました。
真新しい書物でしたので、最近の書物だとは思うのですが。」

「はて、?? 聞いたことのない言葉です、それは。」

疑問符を抱く先生に、再度、先生はその口を開く。

「書物によれば、例の花を喰らうことにより、
その身に何かが起きるようなのです。おそらく。」

その言葉に驚愕する先生。

「あの花を食べるのですか、?
それは有り得ないですよ、自殺行為そのものです。
花に触れても、触れた箇所から壊死が始まっていきます。
おそらくは、その書物は偽物でしょう。」

「ですよね。。
すいません変なこと聞いて。」

そう言って、彼はその一室を退出したが、やはり、
あの書物が偽物とは、どうしても思えなかった。

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