お母さんになりたかった話④
心臓が動いていないかもしれない。
この一ヶ月間、その可能性はなるべく考えないように過ごしていました。
でもきっと、お医者さんが言ってることと、
機械に映らない心臓の動きが事実なんだと受け入れることにしました。
次の診察までの三日間、まずは私の好きなことをしようと思いました。
のんちゃんといられる日々が限られたものになるなら、私の好きなこと、好きなものをたくさん見せてあげたくなったのです。
まずは大好きなカレー屋さんにいって、お腹いっぱい食べました。
窓から見える景色も好きで、とても緑が濃かった。
私はこのお店が大好きなんだよ、と話しかけます。
するとベビーカーを押した家族が近くのテーブルに来ました。
赤ちゃんが泣いています。
私も一緒に泣きました。
夜になって、夫に今日の出来事を話しました。
悲しいけど、残された時間は楽しく過ごしたいんだとも伝えました。
夫は優しく受け入れて、寄り添ってくれました。
二人とも初めてのことでどうしたらいいかわからないけど、この人となら大丈夫だと改めて思いました。
診察までの残り二日間
大丈夫、大丈夫。
そうは思っても急に辛さが込み上げてきて、
頭のなかも顔もぐちゃぐちゃになるまで泣きました。
こんな元気のない姿、見せられないな と自分を奮い立たせて、大好きなカフェ巡り。
ほうじ茶ラテを飲んだり、本屋さんで過ごしたり。
お義母さんとスタバにも行きました。
店内で最高齢だったろうな〜
そして診察日。
私の母が近くまで遊びに来ていたので、一緒に受診してくれることになりました。
でものんちゃんの状態については伏せていました。
「おばあちゃんになったら、いっぱい可愛がってあげたいんだよね。 ちゃんと稼がなくちゃ!」と母は前だけを見ながら話してくれました。
「そうだね〜。よろしく頼むわ!」と返事をするので精一杯。
でもこのとき、母は私の様子を見て気付いていたそうです。
元気に振る舞っていても、母に隠し事はできませんね。
母が病院の前にドライブへ連れて行ってくれて、景色がとても綺麗でした。青空と田んぼが続いていました。
私はこういう穏やかな景色も大好きなんだ。
綺麗だね。 静かに、のんちゃんに話しかけます。
診察台に乗り、母も一緒にエコーの映像を見てくれました。
三日前に見たときと同じく、白黒の映像。
ぽつんと小さく、のんちゃんはそこにいました。
「やっぱり心臓動いていないですね。
稽留流産 ※ ということになります。
自然に出てくるのを待ってもいいんだけど、それよりは手術で摘出したほうがあなたの体のためにもなります。手術日を決めましょうか」
「この時期は、染色体の異常で赤ちゃんが大きくなれないことが多いんだよね。だから、誰のせいでもないんです。自分を責めないようにね」
心の準備はしていたけど、やはり悲しかったです。
私ってこんなに大粒の涙が出るんだ。
母も泣きながら、私の背中をさすってくれました。
手術は9月18日の予定になりました。
※稽留(けいりゅう)流産とは
出血や腹痛など、流産の徴候はないが、超音波検査で発育が停止していると診断されるもの。