斉藤利蔵警視の憂鬱
斉藤利蔵警視の憂鬱
警視は、悶々としていた。何故、FBIから依頼のあった
カルロスをあの凡庸と思っていた佐久間警部が逮捕出来たの
か、甚だ疑問だが事実なのだ。奴がブツブツ独り言を言って
いる。キショイ中年親父だ。腹が立つ、気に成る。
耳を峙てた。
『ウラヌス暇だな、何か面白い事知らないか』
何だ気に成る。警部に聞いた。
「佐久間さん、ウラヌスて誰ですか、日本的な名前じゃ無
いな」
「いやあ、ハンドルネームですよ。私の情報屋、凄く優秀
なんです」
『け、ハンドルネームか、また俺の方がニューヨーク帰り
よりITに詳しいと吹聴しやがる困った親父だ』
内線電話が鳴った。
「佐久間警部、生活安全課です。ITに詳しい方と言う
指名が若いお嬢さんから来ています。相談お願いします」
愉快愉快、俺が、ITに詳しいと署内で評判に成ってる。
警部は上機嫌で会議室に向かった。電話の声は斉藤警視にも
届いた。警視は、不機嫌に成った。
そこそこ綺麗な娘が待っていた。警部はテンション上げた
が、流石に顔に出さ無い。
「リベンジポルノ御存知ですよね」
真下頼子が聞いた。
「お困りですか、何を流されたのですか」
「イヤーン、聞かないで」
「我々は、全力でサーバーを見つけ出し削除します・・
安心してお話下さい」
「警部、我々が出来るのは、削除依頼だけです」
生活安全課の課長河浪佐武朗が釘を刺した。
頼子は不安そうに言った。
「もの凄くITに詳しい警察官が居ると聞いたのです
が・・・」
警部は、スマホに連絡が入っているかの様に席を立ち少し
離れた所からウラヌスに言った。
「出来るか」
「法律的には難点が有りますが、私なら秘密裏に問題の
ファイルをロックする事が出来ます・・・ロックが掛かれ
ば、人間は誰もアクセス出来ません」
ウラヌスの言葉を受けて警部は言い放った。
「大丈夫、夕方に貴女の名前で検索して見て下さい・・
貴女の望みは叶えられますよ」
午後4時半過ぎ、頼子から抗議の電話があった。佐武朗が
受けたが、佐久間警部に回した。
「非道い、私の卒業旅行のムービー等、関係無い物も
アクセス出来無い非道い」
「だから、どの映像ですかと聞きました。
分かりませんから、取りあえず。貴女が映り込んでいる
映像全てをロックしました」
「非道い、常識的に考えて私の裸が映っている物と
セックス映像を削除して下されば、十分なのに・・・」
警部はウラヌスに相談した。
「ロックは、簡単に解除出来ますが、あの宴会で汚らしく
食事をしているシーンとかが入っている映像も有りますので
尋ねて下さい」
警部は、彼女に聞いた。
「イヤーン、だから、常識的に考えて削除して頂ければ
OKです」
「削除するとこの世から消滅する事に成ります。
そこまでの権限は我々は有して居ません・・・だから、
ロックしたのです。ファイルがロックされて居るだけだと
システム異常でファイルが開け無いと思われるだけです
・・・ロックしている間にサーバーの管理者にファイルの
一部削除を申請して了承して頂ければ、我々が問題の箇所を
削除します・・・削除すると復帰しませんので御注意
下さい。その為、ちゃんと必要な箇所をお知らせ下さい」
警部は、スマホ上の文章を読みながら彼女に伝えた。
「警部さん、サーバー上の映像の削除する場所を
お知らせすれば良い事は判りましたが、既にダウンロード
している物に付いてもどうにかして下さい・・危ない男から
電話が掛かるのでは無いかと心配です」
警部はウラヌスに相談した。
「九月九日から本日まで映像をダウンロードした端末の
IPアドレスは把握しました。そのアドレスの端末から映像
の乗っているサーバーにアクセスが有れば、その端末の
ファイルを処置しますのでご安心下さい」
スマホ上の文章を読みながら彼女に伝えた。
「解りました。有り難う御座います。本当に詳しい
警部さんが居てくれて嬉しいわ・・・でも忘れて下さい見た
事は」
感謝された。当然だと警部は思った。でもまて
コンプライアンス上は問題が有る事に気付いて無い。
ウラヌスの処置とは、ファイル削除アプリケーションを
各端末に送り込む事を意味する。
警察がファイルを勝手に削除するウイルスをバラマクのに
相当するのだ。ウイルスと異なるのは自己増殖機能が
無い事だけだ。
「ウラヌス消してしまうのか」
「はい、書類はメールでサーバー管理者に送っています。
正式な書類は、河浪課長と署長に捺印してもらった後
郵送します」
「そうじゃ無く、俺は、件の映像見て無い、消したら
勿体無いと少し思う。お前は、見たろ」
「警部殿も好き者ですね・・・大丈夫ですよ。オリジナル
はパスワードでロックしてバックアップしていますから、
私に命令すれば何時でも閲覧出来ます」
「そうか、後で良い後で良い」
何か不快感を感じた。ウラヌスに見下されて居るんじゃ無い
かと勘ぐってしまう。
斉藤警視は、本庁のサイバー犯罪対策課に呼び出された。
憮然とした態度でパソコンだらけの部屋に入った。
「私は、警視だ。電話一本で呼び出すとは、何だ」
「失礼しました斉藤警視、貴方が国分寺署に出向に行って
いる時だったと思いますが、業者から変な問い合わせが来ま
した」
「失礼な、丁度事件の本部設営で私が本部長として赴いた
ので出向した訳では無い」
「どちらでも良いでしょう。リベンジポルノの削除依頼が
国分寺署から来たのですが、いつもの我々からの依頼と
内容が違う、警視庁の広報サーバーから削除アプリを
ダウンロードしてそれを使うようにと記述して有ったと言う
事です。我々が作成した物でも作成を依頼した物でも有りま
せんでした・・・試しに裏ビデオ映像を
そのアプリで処理したら、安っぽいアイドルDVD見たいな
映像に成ってしまいました。完璧な出来です。勿論、
過去ウイルスやトラッパーにこのような機能を持ったソフト
は私の知る限りでは思い付きません。・・・何故、勝手に
サーバーにこんな恐ろしい物が入っているのか、内定して
欲しいのですが、あくまでも内密ですが、宜しくお願い
します」
つくづく失礼な奴だ。ニューヨークでもIT関係者は、変人
が多かった。
警視庁でもこうなのか、俺はプロファイリングを専攻したの
でIT変人共とは交流は無い。ま、受けて遣った。
怪しいのは、佐久間警部だ。奴を締め上げれば何か分かる
はずだ。それよりも部下の高野又三郎だ。
彼なら簡単に話すだろう。俺はプロファイラー直ぐに解る。
警視は、又三郎が向かった自動車整備工場に行った。
彼は整備係では無い。交通関係の事件は片づいている。
不可解だ。佐久間警部と又三郎刑事の行動はプロファイ
リングの専門家俺でも予測が付か無い。
「又三郎君、何をしているのかね」
「斉藤警視こそ何でこんな所に・・・ウラヌスの事が気に
成りますか」
二度目だ。一度は、佐久間警部がブツブツ言っていた
情報屋のハンドルネーム。ここは、素直に聞くのがセオリー
だ。
「ウラヌスとは、何かね。佐久間警部は情報屋だと言った
が、何か引っ掛かる」
「高性能な人工知能です。花小金井駅前通り魔事件被害者
浦西悟朗氏が開発し、彼の遺言で起動したサイバー探偵
ウラヌスと名乗る存在です」
何だそれは、佐久間警部が作成した物で無い事は解っていた
が、想像の外の結果だ。
でも警視庁のサーバーに潜り込んでいたアプリとウラヌスは
関係が有るのは間違いない。国分寺署生活安全課から相談を
受けた刑事は佐久間警部だと解っている。
「実は、本庁のサーバーに作成した筈の無いアプリが
存在している」
「高性能で役に立つ物なら、ウラヌスが入れた物で
しょう。今、私は、ウラヌスの指示で覆面パトの改造を
工場に頼んでます。監視カメラを四方八方に追加し、
ステアリングコントロールも追加します・・・カルロスの
逮捕は、エンジンのコントロールとブレーキ、ドアロックと
ドライビングレコーダシステムと言う極普通のインテリ
ジェントカーにウラヌスをダウンロードして有った為に奴を
車の中に誘い込みウラヌスが逮捕しました・・カメラの追加
とステアリングコントロールの追加で完全な自動運転
システムが構築出来る筈です」
何だ。アメリカンドラマに似たような物が有ったぞ黒い
アメリカンスポーツカーが建物のシャーターに突っ込んで行
くやつ。あれは、車の妙に英国紳士風な人工知能と
アメリカンヒーロそのままの主人公の掛け合いが売りだった
な。警視は日本で深夜番組として見掛けた事があったが、
リアルに現実的に自分の目の前に存在するとは思っても
居なかった。何だこの事態は、でも勝手に公用車の装備を
変えるのは駄目な筈では。
「高野君、まずいんでは無いか」
「署長の許可は取ってます」
何だ。国分寺署は、部下の言いなりか。
「では、来週、納車と言う事で」
「おい、確か、グーグルでも開発が始まったばかりと聞いて
いる。こんな物、役に立つのか」
「使い方ですよ。カーチェースする訳が無いじゃ無いです
か、安全運転の補助と捜査証拠集めにに使用出来る筈です」
何だこの連中は、ウラヌスとか言う人工知能に操られている
のか、俺には解らん。
先ずウラヌスに対するプロファイリングが出来無い。
どうしたら良い、俺はエリートの筈だ。浦西悟朗と言う
ウラヌス開発者を探るか、ウラヌスは浦西の捩りだろう。
それにギリシア神話の天空の神ウラヌスと言う古い世代の
神を被せた事は解る。
納車の日が来た。斉藤警視も立ち会った。ウラヌスの
性能を試して見るのだ。覆面パトの外観は変わって無い。
巧妙にカメラを配しているが、少し離れて見れば分から
ない。内部は、一目で分かる違いがあった。
ダッシュボードに14インチの車載としては際だって大きな
液晶ディスプレーが装着してあった。
搬送してきたトラックから、無人で降りて所定の駐車位置に
着いた。縦列駐車等を披露した。パイロンギリギリで駐車に
成功した。
『何だ人でも出来る』警視は思った。
「ドリフトに対応出来るかどうか見ますので皆さん少し
下がって下さい」
又三郎が言った。
タイヤを試すように加速してはブレーキングし、
ステアリングを切り左右に車体を振り一旦停止すると
縦列駐車用にパイロンを並べた所に頭から突っ込むとお尻を
大きく振り駐車位置に納まった。見事なドリフト駐車
テクニックだ。
ドリフトがどうした。アホな兄ちゃん追い掛けるのに使用す
るつもりか、斉藤警視は嘆いた。佐久間警部が運転席に座り
斉藤警視が助手席に座った。
「これが、ウラヌスか」
「斉藤警視でしたね。確か、ニューヨークで
プロファイリングを勉強されたエリート様とか、私のような
人工思考体のプロファイリングは無理でしょう」
いきなり挑戦的な事を喋る奴だと警視は感じた。
「最新の捜査機器をお見せしましょう」
車のトランクが開き中から、プロペラを5基備えた小型ヘリ
コプターが飛び出した。音は静かだ車内から騒音は聞こえ無
い。助手席のモニタ上に上空から捉えた映像が映された。
運転席で佐久間警部が勝ち誇った顔で見ている。癪に障る。
「航続時間はどれくらいかね」
「ホバリングやプロペラ航法では十五分間ですが、
飛行船モードでは、数日間継続可能です」
「飛行船にも成るのか」
「警部手伝って下さい・・・一旦、トランクに戻します
・・・飛行船への換装を手伝って下さい・・・警部手持ちの
タブレットに説明は表示します」
警部はタブレットを持って車外に出た。ほぼ同時に
ヘリコプターがトランク内に着陸した。ヘリ中央部の
カメラ一体型コントローラを飛行船の下部に装着しヘリウム
ボンベからガスを規定圧力注入し準備を終えた。
「警部、有り難う御座います・・飛行船を発進します
・・警部も車内に戻って下さい」
飛行船はかなり高空へ飛び立った。
「どうです警察署が豆粒くらいに小さく見えるでしょう
・・・この機能を使用して俯瞰で監視可能です・・ヘリ
モードでは、対象者を威嚇しながら追跡も可能です」
「何で最初から二機用意しないんだ」
「予算を出して頂けるよう・・お口添え頂けたら幸い
です」
何だ俺に都合の良い書類を書けと言う事か、それは御免だ。
斉藤警視は、ウラヌスの制御する装置にはまだ懐疑的だ。
河浪課長に何と言おう。ウラヌスと言う人工知能が国分寺署
の佐久間警部の手で起動された事から警視庁のホームページ
に変なファイルが送り込まれたと言えば良いのか、
浦西氏殺人事件は俺が本部長の事件だ困る俺にも責任が有る
のか。ええい、どうにでもなれ。
「河浪君、国分寺署の佐久間警部が花小金井駅前通り魔事件
で被害者の浦西氏より遺言的に依頼されたウラヌスと言う
ソフトを起動し、あまつさえ自分のスマホや署内のパソコン
にウラヌス関連のソフトをダウンロードしたらしい事が原因
だとまで解ったよ」
「そうですか、内部犯行ですか、警視の監督下に有った
警官ですね・・・でも特に危険なウイルスやポッドに指定さ
れた物ではありませんから当方としては一寸、勝手に変な
ソフトをダウンロードしないで下さいと言う他ありません」
奴は、何を言っているのだ。私には何が何だか判らんぞ。
「君は、ウラヌスとは何か分かるのかね、危険は無いと
言ったがどうするのかね」
警視は課長に言った。
「私なりにこれから調べます。御存知の様に我々は多忙を
極めます・・・」
階級が上の俺に押し付けて何という奴だ。
一言言ってやろう。
「私は、ウラヌスと言う名探偵を名乗る人工思考体が事件
を複数解決しているのが気に入らない・・・何だか分から
無い」
つい本音が出てしまった。
「人工思考体・・人工知能では無いんですか、変わった言
い回しだ」
「ウラヌスが人工思考体だと名乗ったんだ」
「それは、興味深い・・暇を作って調べてみたい」
河浪課長が興味を持ったようだが、警視は釈然とし無い。
ITオタク達は嫌いだ。
編末
このサイバー探偵ウラヌス世界は、楽天的長編小説『
ベテルギウスの夜に』のスピンオフ作品です!
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