サイバー探偵ウラヌス:名探偵起動
サイバー探偵ウラヌス:名探偵起動
始めに
一寸した。近未来探偵物語です。
エロテックな話、一寸風変わりなSF、時代劇風の味の話。
等目指しました。ご賞味あれ。
名探偵起動
国分寺署佐久間重蔵警部は、花小金井駅付近で発生した
通り魔被害者の自宅に出向いた。通り魔の犯罪に違い無いの
だが、ガイシャが臨終の間際、気になる事を口走ったのだ。
「頼む。ウラヌスを起動してくれ」
俺は、情に厚い男で有りたいと常に思っている。起動とは、
コンピュータのソフトを立ち上げる事ぐらいは判る。
ガイシャのパソコンは電源ボタンだけで立ち上がった。
ウラヌスも直ぐに見つかった。ディスクトップ上にウラヌス
とカタカナで表示されたアイコンが有ったのだ。
俺は、躊躇無くダブルクリックした。
「け、警部。何をするんですか。鑑識が調べる前に勝手に
触らないで下さい」
「このヤマは、無差別通り魔事件だ。ガイシャとは無関係
だ」
「だとしてもセオリーですよ。この世代の先輩達は、
IT機器が使えないと馬鹿にされるんじゃないかと被害妄想
過ぎます」
部下の高野又三郎が注意した。
「お前だって又三郎なんて俺より年上と思えるような
名前をして・・・」
「何度もお話ししていますが、私の両親が宮沢賢治の
ファンでこの名前になりました。私の世代で他にこの名を持
つ人は知りません」
下らない身内話をしている。捜査の本筋とは離れている事象
なのでお気楽なものだ。
突然、プリンターが作動を始めた。同時にスピーカーから
音声が流れた。
「私めウラヌスの起動、有り難う御座います・・・・・
私成りに調べた捜査情報をプリントアウトしています。
ご利用頂けて仕合わせです・・・私めが起動したという事は
私の創造者は、死んだか死に準ずる状態に成っているはず
です。捜査員のあなた方には敵を討って貰わなければ成りま
せん」
二枚捜査情報と題した印刷物を手に取ると警部が言った。
「何だこれは、本庁プロファイリングのプロとかが示した
緑道沿いのマンションが最重点捜査ポイントと書いてある
・・・何々、詳細は、このアドレスのホームページを開けば
アクセス可能とある。IDとパスワードは、これか」
警部は、やっと使い慣れたスマホからホームページを
アクセスし紙に印刷されたIDとパスワードを入れた。
『名探偵ウラヌスをダウンロードしますか?』
不遜にも名探偵を名乗るのかと思いながら『Yes』を
タップした。暫くして終了した。警部は躊躇無くウラヌスの
アイコンをタップした。長々と取り扱い説明が流れた。
警部は即行スキップし『捜査状況』の項目をタップした。
国分寺署に設置した捜査本部の映像が映し出された。本部の
ホワイトボードの項目を活字に清書して箇条書きに表示し
た。写真と思しきマークをタップするとそれが大きく表示さ
れる。何だこれは、我が署のセキュリティーはグズグズ
じゃないか、『最重要容疑者』の項目をタップした。
捜査本部とは違う情報だ。
緑道沿いマンション二階部分に住む有栖川氏無職と表示され
顔写真を添付してあった。顔写真をタップすると小平駅と
花小金井駅付近の監視カメラに撮られた容疑者と時間帯が、
記述されてあった。この撮影された時間が犯行前後の時間で
ある事は捜査本部のホワイトボードに書かれていた時刻と
一致する。全て一致するのは有栖川氏だけだと表示して
あった。
「又三郎、行くぞ」
「どちらへ」
「ここだ」
とスマホを又三郎に渡し、パソコンを閉じ、ガイシャの
マンションを後にし有栖川氏のマンションへ向かった。
「警部、逮捕状取れますよ。この証拠で十分ですよ」
「馬鹿言え。こうしている間に次の犯行が行われたらかな
わん」
「角さんや徹を使ったらどうですか、元々捜査本部でも
上がっていたホシですが、元皇族系苗字なので躊躇していた
人物です」
「捜査本部は、他の奴をホシと思っている。奴らの承認を
取る暇は無い。銃の準備をしろ奴は凶悪だぞ」
又三郎がドアホンを押した。
「何ですか」
「警察です。少し、お話を聞いて呉れませんか」
「まにあってます」
ふざけた野郎だ。確信した。本ボシだ。
「又三郎、鈎を借りて来い」
「用意しています」
警部は銃を抜き、ドアホンのカメラに写るようにし押した。
「勘弁して下さい。逃げません」
チッと舌打ちしながらドアを開けた。容疑者は、玄関口に
屁たり込んでいた。
「任意同行してもらう」
「任意ですか」
有栖川の態度が少し大きく成った。彼にとって残念な事に
スマホからの証拠映像を突きつけられ、大きな態度も直ぐ
萎んだ。逮捕状を請求しようとして困った。証拠の映像が
正規の手続きを踏んで無い物が含まれている。
「佐久間警部、我々本庁の鼻を開かしてさぞや気分宜しい
様ですが・・あの証拠はどこから手に入れられたのですか、
困りますよ独断行動は、違法捜査はありませんね」
嫌みを言ってきた。本庁のエリートニューヨーク帰り
プロファイラ斉藤利蔵警視だ。
「私がネットを駆使して集めた物ですが、残念な事に
提供者に正規捜査協力を戴いていません。ホシを自白に追い
込む役にしか立ちませんでしたが、お陰様で凶器の発見
間近ですので送検予定です」
五十台後半警部としてはITを使いこなしていることを自慢
に思っている面倒くさい爺だと思っていたが、本当に事件を
解決しやがった。イヤまて俺のプロファイリングが、早々
間違えるか、奴、佐久間警部が難航必至と思われるこの山を
簡単に解決出来るはずが無い。奴は、犯人検挙より昇進試験
の勉強を優先させて警部に成ったと称される奴だ。俺みたい
なエリートと違い頭脳の出来は高が知れている。おかしい、
要注意人物として記録しよう。
高野又三郎が言った。
「警部、ウラヌスって何ですかね」
「儂も全然わからん・・・又三郎、お前もここにアクセス
して調べて見たらどうだ」
「え、良いんですか。何者とも分から無い得たいの知れ無
いアプリをダウンロードしたら、只じゃ済みませんよ多分」
又三郎もかなり好い加減な男だ。
「そもそも今回のガイシャから頼まれた事だ・・・
ガイシャは既に死んでいる・・恐らく仇を取る為には、
ウラヌスが必要だったと言うことだ・・俺も少し調べたい。
お前も調べてくれ・・・俺の感想だがダウンロードした
アプリは、ウラヌス専用のブラウザだ本体は何処かの
サーバ上に構築されているのだろう。恐らくウイルスの
類では無い様だダウンロードしても無害と思うから署内の
パソコンにダウンロードしても良いと思うよ」
又三郎がインターネットエクスプローラからウラヌスを呼び
出しアプリをダウンロードした。当然、警部より上の許可は
取って無い。アプリを起動した。警部のスマホ上の表示より
緻密な画面が現れた。又三郎は最初に表示された取扱説明書
をプリントアウトした。警部より又三郎の方がやや慎重なの
だ。何々、音声認識モードを設定すれば会話出来るだと
彼は、モード指定をクリックし音声・映像認識機能を
チェックした。
「私がウラヌスです。浦西悟朗氏の事件は解決した筈です
ね。マスターも涅槃で喜んでいると思われます。さて私は、
名探偵ウラヌスとして制作されたサイバー空間上の人工思
考体です。貴方は高野又三郎巡査長ですね。今後とも宜しく
お願いします。私は如何なる難題もサイバースペース上で
解決出来る事案なら解決出来ます。何時でも依頼下さい」
「マスターとは浦西さんの事ですね。彼は一体何何ですか
」
「私ウラヌスの創造主です。それ以外の情報は警察が握っ
ている情報と同じ事を述べる事になりますが宜しいですか」
ウラヌスが、浦西氏の履歴書情報から喋り出した。
「もう良い。浦西氏の事は判った。僕は君が作られた
経緯を知りたい」
「人工知能を研究していたマスターが自身の不老不死の
夢から自身の自我を真似たコアに自身を凌駕する知識を備え
た人工思考体を開発した。それがウラヌスです」
「何故、君は浦西氏が生きている内に起動し無なかったの
ですか」
「自身の意識を私に移す事は不可能だと判っていた
マスターは、似た様な自我をもつ存在が現れるのを嫌ったと
思われます。自身が死を覚悟したので私の起動を決断したと
思われます」
何やら解るような解らないような解説を聞かされたが、
刑事又三郎にとって強力な捜査上の武器を手に入れたのは、
間違い無い。又三郎は、個人持ちのスマホにもアプリを
ダウンロードした。
編末
このサイバー探偵ウラヌス世界は、楽天的長編小説『
ベテルギウスの夜に』のスピンオフ作品です!
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