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【物語】 貴婦人の予祝 《序章》 この物語を手にとってくれた、あなたへ

次話

《あらすじ》



 夢を抱き、奇跡を信じる すべての人へ。

 25年前の5月。自分に価値を見出せず、灰色の日々を生きていた「私」は、初めて訪れたパリで一人の不可思議な女性に声をかけられる。贅の限りを尽くした世界で生きる孤高の貴婦人、マダム・ロゼ。彼女と過ごす7日間が、やがて忘れられない記憶となって「私」の胸に刻まれていく。旅の最後、人生の流れを変える古の奥義とともに、ある願いを託された「私」は、彼女との約束を果たすべく、25年の時を経て「あなた」にあてた物語を書き始める。

 混沌とした時代の中で、意識の具現化が加速する今、この時。あなたも知らないあなた自身の真実が解き放たれる。
 これは奇跡を信じるすべての人に贈る、愛と祝福の物語。

《序章》 この物語を手にとってくれた、あなたへ


 今年の3月、私は25年続けてきた教師の仕事を、思い切って退職しました。
 一口に辞めたと言っても、次の当てがあるわけでも、十分な貯金があったわけでもありません。私は今、50歳。夫と2人の子どももいます。その状況で仕事を手放すことは、とてもリスクが高かった。これからの生活に対する不安があったのも事実です。
 でも、そうした現実の問題を遥かに超えて、その美しい「コーリング呼びかけ」は私の心を揺さぶりました。それも、とても強く。応えないでいることはできなかった。
 実のところ、それはこの本を手にとってくれたあなたにも、深く関わることかもしれません。ある一つの約束が、私をここまで連れてきました。そして、あなたと私をこうして結びつけている。
 その女性と出会ったのは、今から二十年以上も前のことです。
 当時と今とでは、私自身も世界も大きく変わりました。仕事、家族、年齢や責任――。人生が自分一人だけのものではなくなってから、既に長い時間が経っていました。そして、パンデミックがそれに拍車をかけた。先行きの見えない日々の中で、あなたや多くの人と同じように、私も自分のすべてを、時にはそれ以上を出し切る必要に迫られました。目の前のことだけに没頭する毎日が始まって、気がつけば三年が過ぎていた。
 でも、彼女は忘れてはいませんでした。私との約束をずっと覚えていてくれた。そして遠く離れた異国の地で、ただ黙って私を見守り続けてくれていたのです。
 
 やっと、辿り着きましたね――。
 
その一言で、私はすべてを思い出しました。ああ、そうだった。確かにそう約束した……。蘇る記憶。これから私がしなければならないこと。そして、彼女からの「予祝」。そのすべてを、私はやっと思い出したのです。
 コロナを経た後の世界は、私にとって、それまでとはまったく違ったものになっていました。周囲も職場も、一見すると落ち着いてはいた。徐々にかつての日常が戻り、いつしか毎日が飛ぶように過ぎていきました。でも、もう以前と同じとは思えなかった。何かが違う――。仕事にしても、立ち止まって考えれば、なぜか他のことが進まないようになっていました。すべてがものすごい速さで展開し、心が全然追いつかない。何か、自分がとても大切なことを忘れているような……。そんな思いが日増しに強くなっていた矢先の、彼女の言葉でした。
 
 やっと、辿り着きましたね――。
 
 彼女から送られてきた手紙に書かれたその一言が、再び私の人生をひっくり返すきっかけになりました。そう。必死に生きているうちに、気がつけば約束を果たせる場所まで来ていた。
 
 今だ、と。
 
 私はすべてを受け入れました。教員という仕事に、深い愛着を抱いていたことは確かです。目の前の高校生と一日の大半を過ごす生活を、私はいつの間にか愛するようになっていたから。彼らはもう何年も、私にとって本当に大切な存在でした。何度救われたか分からない。でも、辞めることに迷いはありませんでした。出会ってから長い時間が経った今でも、私はマダム・ロゼを心から慕っていたのです。
 
 この物語は、彼女との約束のあかしとして書かれたものです。彼女から託されたことを、私が十分に表現できるようになった時、私はそれを「あなた」に伝える。たとえどんな状況にいても、私はそのことにすべてを懸ける。それが私たちの交わした約束でした。いつ、その時が来るのか、どうやって形にするのか。当の自分にさえ、その時は分からなかった。それでも彼女は私を信じて、美しい予祝まで与えてくれました。
 
 書き始めたのは、2023年の5月。退職して、気持ちも少し落ち着いてきた頃のことです。
 
 それから3カ月。
 
 まったく予想もしなかったところから、まったく予想もしなかった形で、私の頭上にそれは舞い降りてきました。文字通り、突如として一気に降ってきたのです。しかもたっぷりと、あり余るほどに……。時間。お金。深い愛情。何もかもが満たされ、そして約束された幸せな生活。遠い昔、心から欲していたすべてのものが、今、私の手の中にある。

 
 一体何があったのだろうと、あなたはいぶかしく思うかもしれません。
 今から25年前、マダム・ロゼという一人の女性が、パリを訪れたばかりの私に目を留めました。彼女は信じられないほどの富に恵まれ、魔法の国さながらの贅(ぜい)を尽くした世界で生きていました。その美しい貴婦人が、なぜか私に白羽の矢を立てた。そして彼女は私を拾い、その後の七日間を自分と一緒に過ごすことを提案しました。半ば引きずられるようにその言葉に従った私は、幸運にも彼女の秘密の世界を垣間見ることになりました。そしてそれは、私の一生を変える旅になったのです。
 その奇跡のような7日間の、最後の夜。翌日の朝、私は日本に帰ることになっていました。彼女と過ごした眩い日々が終わりに近づいていました。夢は覚めるもの。数日後にはまた、灰色の現実に引き戻される。でもその世界に戻ると決めたのは、ほかでもない私自身でした。
「私たちの約束をあなたが果たした時、私はあなたに祝福を贈ると約束するわ」
「祝福?」
「ええ。あなたが手にし得る最上級の祝福を、目に見える形で、その手に受け取れる形で。その日が必ず来ると信じて、二人で予祝をしましょう」
 
 予祝。願いを既に叶えたこととして、あらかじめ、その成就を祝うこと。
 
 その予言通り、当時はおろか、ほんの数か月前ですら予想もできなかった世界で、私は今、生きています。それは約束を果たした私への、美しい貴婦人からの贈り物でした。
 「あなた」に伝えるよう彼女が私に託したことは、言葉にすればとてもシンプルです。
 
 あなたが今、どんな状況で生きているかに関わらず、あなたという存在の奥深くには、人生を素晴らしい奇跡へと導く無限の力がある。その力を発揮するための唯一の鍵は、他でもない、あなたの「意識」そのものである。
 
 一見ありきたりのこの真実を、確かな体感とともにあなたに伝えられるようになるために、私は自分という存在のすべてを、ゼロから創り直さなければなりませんでした。不器用で何もかもが欠けていた私には、二十年以上の歳月が必要だった。
 でも、今、この時代に生きているあなたは、そんなに長い時間をかける必要はありません。なぜなら、私たちの「意識」が現実化するスピードは、以前とは比べものにならない程、加速しているからです。月並みな言葉に聞こえるかもしれませんが、意識が変われば現実も変わる。「思考は現実化する」という考え方は、今では一般的になってきましたが、私はもう少し踏み込んで、「意識」という言葉を使いたいと思います。
 量子力学の進化に伴い、「意識と現実」の仕組みについてはこの数年で飛躍的に知識や情報が広まってきました。今なら、マダムの下で私が体験した不思議な出来事をあなたは受け入れてくれるかもしれない。そう思って勇気を出してみることにしました。
 
 私はあなたと同じ世界に住む実在の人物で、ここに書かれている私自身のことも起こった出来事も、私にとっては紛れもない大切な真実です。でも私はこの話を、世の中にあふれる数多(あまた)の物語の一つとして書いています。あなたが気軽に楽しんでくれるように、少しばかり細部をアレンジしてもいます。ですから、あなたはこの話を「全部作りごと」と思っても全然構わないし、肌に合わなければその感覚を大切にしてページを閉じ、ただ忘れて下さい。「物語」は自由です。好き嫌いも含めて、すべてがあなたの大切な感性なのだと気づかせてくれる。それが物語の素敵なところです。
 
 私に言えることは、ただ一つ。
 この現実の世界で、あなたの人生にも素晴らしい奇跡は起こり得るのだということ。
 今、あなたを見つめている、あなた自身の「意識」さえ変われば。
 
 あなたがほんの束の間でも、この話を楽しんでくれたら。
 あるいはあなたこそ、すべての幸せを手にする価値があるのだと気づいてくれたら。
その時、この物語はきっとあなたの夢を叶える予祝になってくれる。
 
 その可能性に思いを馳せるだけで、今の私は十分に幸せです。




☆第1章 拾われた迷い子
 


☆第2章 貴婦人の表現


☆第3章 貴婦人の大地


☆第4章 貴婦人の秘技


☆第5章 貴婦人の直感


☆第6章 貴婦人の予祝


☆第7章 そして、奇跡


☆最後に、再びあなたへ




#創作大賞2024 #ファンタジー小説部門


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