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【物語】 貴婦人の予祝 《第1章》 拾われた迷い子  黄 Jaune 

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第1章 拾われた迷い子 黄 Jaune    


《第3チャクラ》

色   黄 
象徴  自己 
主題  個人の力
目標  自己を敬う

 恐ろしいほどの強い力で、後ろから首をぐいっと掴まれた気がした。びっくりして振り返った私は、辺りを見回した。でも、そこには誰もいなかった。ただ、いくつもの絵が壁一面に掛けられているだけだ。奇妙な気持ちでしばらくきょろきょろしていると、また引力のように強い何かに、今度は体全体を引っ張られた。

人じゃない。

 私は咄嗟にそう思った。誰かに引っ張られているんじゃない。何かに・・・引っ張られているのだ。私は目の前の壁を見てみた。ルーブルに飾られているのだから、おそらくはどれも名画なのだろう。でも素人の私には見覚えのない絵ばかりだった。不可解な気持ちで視線を壁の下の方に移していくと、突然息が出来なくなった。何かに心臓を鷲掴(わしづか)みにされたまま動けない。

これだ……。

やっと分かった。その細長い板きれのようなものに直接描かれた小さな絵が、強烈な吸引力を発しているのだ。大天使ガブリエルが聖母マリアに新しい命の到来を告げる瞬間。レオナルド・ダ・ヴィンチの「受胎告知」に瓜二つの絵が、何故か古びた板きれに描かれて、無造作に壁に掛けられている。

 いつの間にか、私はその小さな絵に見入っていた。


「その絵が気に入ったのですか?」
振り向くと美しい女性が立っていた。プラチナブロンドの髪を肩の辺りで上品にカットし、淡いゴールドのクラシカルなスーツを着たその女性は、透き通るように白い肌をしていた。赤いルージュ。それとまったく同じ色合いの繊細なハイヒール。古いフランス映画のワンシーンのようだった。
「その『受胎告知』が」
間違いない。私に聞いているのだ。それも日本語で。
「あ、はい。というか、後ろから引っ張られた気がして」
「この絵に?」
「多分。周りに人はいないし、それにこの絵を見た途端、何だか心臓をぎゅっと掴まれた気がしたから」
「この絵が、あなたを引き寄せた」
「多分……」
しどろもどろに答える私を、その女性は長い間じっと見ていた。外見はおろか、心の奥底まで見透かすような鋭い視線だった。まともに見返すことすらできない。そのまま生気を抜かれ、屍を壁にピンで留められてしまうような気がした。
 どれくらいの時間が経ったのだろう。やがて女性は、なす術もなく突っ立っている私から視線を解いた。もう分かった、とでもいうように。
「これからお時間はおありかしら? お連れはいらっしゃるの?」
急に激しい疲れを感じながら、私は黙って首を横に振った。時間はたっぷりあるし、連れも誰一人いない。生まれて初めてパリに来て、古びたボストンバックを手にしたまま、ドゴール空港からタクシーで直行してきた。右も左も分からない。ただ、ここに着くことだけが目的だったのだ。
 女性は軽く頷いた。
「いらっしゃい。一緒に食事をしましょう」
それが、マダム・ロゼとの出会いだった。


 どこかの国の首相か王族が使うような真っ黒なリムジンに乗せられ、私が連れていかれたのは、パリの一等地にある彼女の館だった。
――この大都会で、こんなに広大な屋敷があるなんて……。
思わずため息が出るほど、それは立派な邸宅だった。ガイドブックに載っている「エリゼ宮」みたいだ。
 美しい中庭が見下ろせる格式高いレストランのようなダイニングで、私たちは軽めの(と言われたわりには、すごく豪華な)昼食をとり始めた。


 私はマダムに尋ねられるままに、自分がパリに来た理由を話していた。――大学の文学部を出て二年になります。今は故郷の高校で臨時の国語教師をしています。でも周りは優秀な人が多いし、どう考えても向いているとは思えない。最近、長い間つきあっていた恋人とも別れました。別の女性と結婚するようですが、綺麗な人だし仕方がないと思っています。二十五になるまでに、ルーブル美術館とパリにだけはどうしても行ってみたくて、せめてそれだけは叶えようと思って来てみました。帰ったら新しい仕事を探すつもりです……。
 自分でも自覚しているつもりだったけれど、実際に誰かに話してみると本当にぱっとしない人生だと思った。当の私ですら味気なく感じてしまう。マダムは15分もしないうちに、そのことを正確に理解したようだった。
「つまり、あなたの自己認識はこういうことかしら? これといった取り得もなく容姿も人並み。いつも周囲の目を気にしながらも、他者からの愛と理解を潜在的に渇望している。心の内では芸術に強い憧れを抱いた、無害で孤独な25歳」
 みぞおちを鋭く蹴られた気がした。マダムの口調はさらりとしていて毒がなかった。それだけに、彼女の言葉は真実味を帯びていて苦しかった。でも、自分とはあまりにもかけ離れたこの人の前では、強がる気持ちにすらなれなかった。それに、どうしてこんなに簡潔で的を射た表現ができるんだろう? それも日本語で。
「そうです。もっと綺麗だったらな、とか、もっと愛される性格だったらな、とか。そんなことばかり考えています」
仕方なく正直にそう言った。答えを待たれているような気がしたからだ。「お金があったら、とも?」
一瞬、言葉に詰まった。お金? 
「もちろんお金もあったら嬉しいと思います。金額を気にせずに、買い物や旅行がしてみたい。でもお金以上に、美しさとか人に愛される性格に憧れます。そして才能にも。だってそれは持って生まれたもので、自分ではどうにもならないから。私がもっと綺麗でかわいげのある性格だったら、何か優れた才能に恵まれていたら、両親にも周囲の人にも好かれていたんじゃないかって」
マダムはフルートグラスを手に、黙って私の話を聞いていた。繊細で細やかなシャンパンの泡が、グラスの中で静かに立ち上っていた。そのデリケートな泡立ちを目にしなければ、時間が止まったような錯覚に陥ってしまう。どこかの美しい貴婦人の肖像画を、間近で鑑賞しているだけのような……。


 話をしている間に前菜が済み、チーズとパンの小さな盛り合わせが運ばれ、気がつくとメインの子羊のソテーが置かれていた。彩りも味も素晴らしい料理が、いつの間にか運ばれては下げられていった。使用人たちはそれくらい「空気のように」振舞っていた。彼女たちは皆、よく見ると驚くほど美しい顔立ちをしていた。しかし、マダムの前では呼吸すらしていないように思えた。まるでバルコニーの向こうに見える庭園の花のようだ。目を留めればその美しさにうっとりするけれど、ほかのことに夢中になっているとその存在にすら気づかない。瀟洒(しょうしゃ)なシャンデリアも重厚な家具も、すべてがマダムの意識に共鳴するように、時に存在感を際立たせ、時にはその質感さえも消し去っている。
「あなたがパリに滞在する七日間、こちらで過ごしなさい」
何の前置きもなく、マダムは不意にそう言った。私の驚きなど気にも留めない。彼女の中ではそれは既に決定したことのようだった。
「私の生活の一部にふれながら、あなたはもう一度、自分について考えてみるといいわ。あなたが切望している生来の美しさや才能、愛される性格について。そして、そもそもあなたがなぜ、生まれてきたのかについて」
「なぜ、生まれてきたか?」
「ええ」
マダムは微かに微笑んだ。
「あなたの左手首のいくつかの太い傷。何度か命を絶とうとした。でも、あなたは死ぬことはなくここに辿り着いた。なぜかしら?」
 頬が熱くなるのが分かった。すごく恥ずかしかった。この人はすべてを見通している。彼女ほどの人にかかれば、私の心なんて安っぽいおもちゃのようなものなのだ。
「時々、自分は生きている価値さえないような気持ちになるんです。自分が本当に嫌いになる時があって、そんな時は死にたくなってしまう。それで……」
私はかろうじてそう答えた。
「あなたは自分を殺すことを厭(いと)わない。人を敵に回してまで自分を押し通す勇気はないし、自分のために人を殺すなんてもってのほか。だから、怒りや哀しみのすべてを自分にぶつけている。激しい自己否定と自己憐憫(れんびん)」
私は唇を噛んだ。みじめで恥ずかしくて、穴があったら入りたかった。ううん、出来ることならこの場から逃げ出したい。それも一刻も早く。どうして、ついてきてしまったんだろう……。


 でもその気持ちとは裏腹に、気がつくと私はマダムの目を正面から見ていた。その瞳は紫がかった水晶のように美しかった。私とは比べものにならない純度。澄み切った湖水を覗くような容易さで、瞬時に誰の魂をも見透かしてきた真実を知る目。
「みぞおちの辺りに手をあててごらんなさい」
やわらかな物腰でそう言いながら、マダムは自分の腹部に右手を置いた。言われるままに私はマダムの真似をした。
「私が、あなたには素晴らしい価値がある、と言ったら、あなたはどう思うかしら? 他の誰でもない、この私が」
私にはその言葉の意味が、すぐには呑み込めなかった。

 あなたには、素晴らしい価値がある……。私?

「私がたった今あなたに言った言葉を、ゆっくりと三回繰り返してみて」
私は深く息を吸い込んだ。
「あなたには、素晴らしい価値がある。あなたには、素晴らしい価値がある。あなたには、素晴らしい価値がある」
「どんな感じがする?」
その尋ね方には、ほのかな温かみがあった。マダムに促されるままに、私は自分の感情を辿ってみた。
「少し穏やかな感じがします。前よりも緊張感が取れたような」
マダムは頷いた。
「そこがあなたの魂の中心よ。あなたの魂は、自分に価値があると告げられて穏やかになっている。なぜならそれは真実だから。あなたが信じようと信じまいと」
何と答えていいのか分からなかった。なぜか、泣きそうになった。
「あなたに私の生活の一部を披露するわ。自分は無価値だと固く信じているあなたに。理解してほしいのだけれど、私が自分のプライバシーに他人を招き入れることは、ごく稀(まれ)なの。ほとんどない、と言ってもいいくらい。それは決して誇張ではない。その機会をなぜ、私があなたに与えようとしているのか。その理由を知りたくはない?」
 その瞬間、体に触れていた右手が熱くなった。みぞおちの奥深くで、目には見えない「何か」が動いた。私は理解した。これまでに経験したこともないような特別なことが、今、自分の人生に起きようとしている。どうしてなのかは分からない。でも、自分を超えた何か大きな力が働いて、私をこの人の前に連れてきている。

 その理由を、知りたくはない?

 恐い結果になるかもしれない、と思った。これは犯罪に関わる何かで、事が済めば私の体は細かく裁断されてセーヌ川に撒かれ、それで終了、といった具合に。彼女ほどの人なら、それくらい簡単に実現できるのだろう。私が生きていた痕跡なんて跡形もなくかき消されてしまう。行方不明という状態のまま、いつしか誰からも忘れられて。
 でも……。私は心の中でそう呟いていた。

 どっちみち、今までだって死んだように生きてきたんだ。

 そう、そうなのだ。
 どっちみち、今までだって死んだように生きていた。いつも自分に自信がなくて人の目ばかりを気にして、そんな自分が本当に嫌で。それでも最後の最後では自分を見捨てることができずに、何かを求めて飛行機に飛び乗った。

 こんな自分を、こんな人生を、どうしても変えたくて。

今、ここでそれが起こるのかもしれない。彼女が私に興味を示している理由が何なのか、それを知りたい。たとえそのために死んだとしても、後で後悔するよりはずっとましだ。

 私は立ち上がった。「分かりました」
震える声でそう言うと両手を揃えて背筋を伸ばし、マダムに向かって深々と頭を下げた。
「よろしくお願いします」
長い沈黙が続いた。私は目を閉じたまま、マダムの返事を待っていた。「Oui」
やがてマダムが短くそう答えた。貴婦人のレッスンが幕を開けたのだ。


~マダム・ロゼのレッスン・心身を洗い、自分に対する意識を変える~


 マダムから放たれていたオーラは、本当に圧倒的でした。奇跡のような彼女の存在感を、私は今でも忘れることができません。そのオーラは、時には誰をもひれ伏させるほど崇高で近寄りがたく、時には美しい透明感を帯びた純粋な愛に満ちていました。体と心、そして魂。この三つの見事な統合が、そのように多彩なオーラを生み出すことを可能にしていた。人は彼女の存在に釘づけになり、心の深い部分を揺さぶられるのです。そして、彼女が何らかの意図を持って誰かに真摯に接する時、その人の人生は明らかに次元を引き上げられる……。
 一体どのようにして、彼女はその力を身につけたのでしょう?

 秘密の一つはチャクラです。

彼女は体内、体外のチャクラを常に意識的に整えることで、心身を美しく活性化させていました。更にその力を適切に使って圧倒的な意識のエネルギーを生み出し、自分の発する波動に転写していたのです。

 7日間を一緒に過ごすことで、彼女は私にその効果の一部を体感させてくれました。教えるのではなく実際にそのオーラを纏(まと)わせてくれた。それはほんの短い時間でしたが、私にとっては強烈な体験でした。

 「チャクラ」とは、サンスクリット語で円や車輪という意味です。ヨガの普及で日本でも馴染み深くなり、「サードアイ(第3の目)」や「クンダリーニ」といった言葉も、よく耳にするようになりました。 
 私たちの誰もが、体内に七つのチャクラを持っていると言われています。しかし目では見えないことから、それぞれのチャクラを適切な状態に保つことはとても難しく、知識やスキルを必要とします。

 今だからこそ分かるのですが、マダムはその術(すべ)に長けていました。しかも彼女は、現代では休眠状態にあると言われている「幻のチャクラ※①」にも働きかけていた……。チャクラは私たちの体と心を繋ぐ働きも備えています。「橋渡し」とでもいうのでしょうか。チャクラを自分の一部として大切に思い、適切に浄化して整えることで、私たちは大きな恩恵を得ることができます。

 ですから私はこの物語を通して、マダム・ロゼとの日々だけでなく、私たちの体内に現存する七つのチャクラについても比喩的に表現してみました。そうすることで、マダムが「あなた・・・」に伝えたかった真意に、より近づけると考えたからです。その上で私はあなたに、自分自身のチャクラに日々意識を向けてみることを提案します。

 幼い頃のトラウマなどで自己否定が強かった私の潜在意識には、自分に対する無価値観が深く根づいていました。羨望や嫉妬、怒りや怯え。そんなねっとりとした油のような感情が、自分でも知らない間に積もり重なっていたのです。常に他人との比較が頭を離れず、いつしか何に対しても、汚れまみれの重たい意識を通してしか見ることができなくなっていました。それが原因で自分が発する波動(ここでは自分が放つ雰囲気や空気感とイメージしてみて下さい)も、低く重たいものになっていた。結果的に私が引き寄せる現実も、鬱々とした悲しいものになっていたのです。なぜなら、現実とは意識と波動の鏡のようなものだから。 
 自分が抱いた意識や放った波動と同じような現実を、私はこれまでの人生で確実に受け取ってきました。
 そんな私にマダムがしてくれたことは、「私」という存在の徹底的な浄化でした。身に着けるもの、体、細胞のすべて、そして心の細部に至るまで、自分を構成するあらゆる部分にこびりついた「汚れ」を、洗い流してくれたのです。
 心に湧き上がる感情をすべて受け入れた上で、徹底的に浄化をし、「意識」をクリアにして波動を変える――。「心のクリアリング」という言葉がありますが。マダムが私に体験させたのは、それ以上に強力な、言うなれば「クレンジング」。体と心、五感のすべて、そして七つのチャクラを強力に「クレンジング」するのです。

 方法は多岐にわたります。それを適宜アレンジすることで、マダムは「意識の純度」を日々アップグレードしていました。彼女の奇跡的な存在感は、その弛みないクレンジングの賜物だったのです。興味深いのは、すべてを手にしているように見えた彼女自身が、自分を浄化し続けることを誰よりも切実に必要としていた点です。 
 この物語では各章ごとにイメージするチャクラがあり、章末ではそのチャクラについて簡単な説明をつけています。ぜひ、気軽な気持ちで読んでみて下さい。もしかしたら、あなたの日々の生活や人生をより好転させるヒントに出会えるかもしれません。


~第3チャクラ ・ ソーラープレクサスチャクラ~


・チャクラ名……ソーラープレクサスチャクラ(太陽神経叢たいようしんけいそうチャクラ)
・サンスクリット語……マニプーラ(光る宝石)
・色……黄色・またはゴールド
・関連する体の部位……胃・膵臓すいぞう・副腎・腸上部・胆のう・肝臓・脾臓ひぞう


 第3チャクラは、あなたのみぞおち周辺にあるエネルギー場のことです。 おへそから上に指を1、2本置いた場所をイメージしてみて下さい。
 仕事や知性、自尊心といった部分と深く繋がっている第3チャクラを整えることで、「あなた」という自己が、望ましい形で確立されていきます。他人の言葉に不安になって自分を見失うこともなくなり、自尊の気持ちが自然と芽生えてくる。すると自己肯定感が上がり、前向きなエネルギーが体を巡り始めます。
 日本語でも、腹に落とす、腹をくくる、腹を決める、腑に落ちる、腹に据えかねる、などといった言葉がありますよね。様々な選択や決断、行動を起こす際にも、自分を信じるエネルギーを生み出す第3チャクラの安定は、きっとあなたを助けてくれるはずです。
 チャクラは目では見えません。だからこそ、その存在を忘れがちです。ですが私たちの体と心は密接に、時には直接的に繋がっています。日々、シャワーを浴びたりアイロンをかけたり、あるいはメイクをしたり肌の手入れをしたりするように、あなたのチャクラを大切に整えていくことで、七つのチャクラが司る体と心の領域をパワフルに強化していくことが出来るのです。チャクラと私たちの心身の関わりについて、もう少し具体的に考えてみましょう。

 チャクラのバランスを整えるとは、七つのチャクラを適切に開き、エネルギーがうまく出入りするように調整していくということです。

 仮に第3チャクラが閉じていると、慢性・急性の消化不良や胃潰瘍、糖尿病などに繋がる場合があります。魂が宿るとされている第3チャクラのエネルギー場にネガティブな感情を溜めこんでしまうことで、その場所にある臓器や体の部位に負担をかけてしまうのです。第3チャクラは感情の「溜り」になりやすい場でもあります。「自分は我慢をしすぎてないか、自分の考えや思いを否定しすぎてはいないか」など、ぜひ日々の感情に意識的になってみて下さい。
 逆にこのチャクラが開きすぎていると、自我が過剰に強くなり、他者をないがしろにしてしまう場合があります。自分の意見が絶対だと信じて疑わないため、周囲と衝突するなどの状況が起こりやすくなってくるのです。言い争いや意見の対立が続く場合には、自分の意見を押し通すことだけに固執せず、そうした状況が自分の心身の健康にもたらす将来的な負担についても、気を留めるようにするといいかもしれません。無理に他者に合わせる必要はありませんが、「協働」することで、より良い状況が生まれるという視点も忘れないでください。
 チャクラが「閉じている」とは、回転が完全に止まっていることであり、「開きすぎている」とは、回転が速すぎる、乱れている、ということです。チャクラを整える際には、他のチャクラとのバランスも意識しながら、それぞれのチャクラの回転をちょうどよく保つことが、あなたへの真の恩恵になります。
 あなたがこれまでチャクラを意識してこなかった場合には、焦らずに、みぞおちの辺りに手をあて、語りかけることから始めてみてはどうでしょう? 実際に声に出さなくてもかまいません。深く呼吸をしながら、過度に刺激をしないように、子どもの頃にかけてほしかった言葉を、ゆっくりと優しく、心をこめて言ってみる。自分が穏やかな気持ちになるまで、続けてみて下さい。慣れてきたら、腹式呼吸でも試してみましょう。その際、光り輝く太陽をイメージしながら行うと効果的です。あなたの落ち着いた心の状態は、第3チャクラの穏やかで適切な速度での回転を促してくれます。
 私の変化のすべては、固く閉じていたこの第3チャクラに話しかけることから始まりました。
 「あなたには価値がある」と私に言ってくれたのは、マダムが初めてでした。本当に嬉しかった。彼女は嘘をつくような人には見えなかったから。だから、私は素直にマダムの言葉を信じ、彼女と別れた後も第3チャクラに言葉をかけ続けました。
 私たちの魂が宿ると言われている場所。その「みぞおちの辺り」に手を置きながら、深い呼吸を繰り返す。そして自分への温かな言葉をかけるだけで、あなたの魂を深く癒すことができるとも言えます。
 混沌とする社会で日々生き続けているだけで、私たちの体や心には、知らず知らずのうちに負荷がかかっています。そんな自分自身をいたわり、大切にする。まずはそこから始めてみてはどうでしょうか?


※① 「幻のチャクラ」には諸説があり、人間のチャクラの総数は十二とも、十三とも、あるいはそれ以上あるという説もあります。一般的には、現在は休眠しているという五つ、もしくは六つのチャクラが開かれることで、超越意識や宇宙意識と完全に繋がることができるとされています。


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