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気候変動と環境政策をメコンデルタの村人の生活を通して考える①


世界のメガデルタ


世界にはメガデルタと呼ばれる、大河川の河口部に位置する低平な地形があります。たくさんあるのですが、例をあげると、南米のアマゾン、北米のミシシッピ、ヨーロッパのラインーマース、アフリカのナイル、東アジアでは黄河、揚子江、南アジアではインダス、ガンジス、東南アジアではチャオプラヤ、エーヤワディー、そしてメコンデルタがあります。アマゾンやナイルデルタなどは聞いたことがあるでしょうか。(世界のデルタの地理的な位置関係については次のサイトを参照)

デルタは、河川が運んできた沖積土が堆積してできた低平な土地で、氾濫原を中心に、肥沃な土壌が分布しています。インダス文明、ナイル文明、黄河文明といった、古代文明が栄えたのもデルタです。

世界に分布するメガデルタですが、その多くは東南アジア、南アジアに分布しています。アジア地域のデルタは特に、洪水や土壌侵食といった自然および人為的な環境変化への脆弱性が指摘されています。

アジアのメガデルタの立地と人口についてはこちらを参照。


気候変動とメコンデルタ


メコンデルタも気候変動の影響を最も受けやすいと言われている地域の一つです。気候変動の影響として、塩分浸潤もその一つであり、かつ農業生産や人々の生活に深刻な打撃を与えています。今年、2024年の乾期は、例年より長引いたため、Ben Tre省、Soc Trang省、Ca Mau省(Tran Van Thoi県)などメコンデルタ各地で塩分浸潤によってイネや果樹などの作物がだめになる、生活用水の確保すらままならない状況でした。(滞在していたKien Giang省でも1週間近くの断水が月に2,3回ありました。)

2024年の干ばつについての英語記事は以下を参照。

今年に限らず、2015-2016年のエルニーニョ現象、2019-2020年の干ばつなど直近10年でも農業生産に打撃を与えた干ばつが3回発生しています。


ベトナムの農水産業の基盤、メコンデルタ

気候変動に脆弱であるものの、メコンデルタの農業生産はベトナムの農水産業において極めて重要です。
近年のメコンデルタの主要な農水産業部門は、稲作、果樹、水産養殖です。2023年時点で、ベトナムのコメの輸出額は世界第3位、生産量は第5位です。
国内食糧安全保障の観点から、稲作が主要農作物であり続けてきました。コメに加えて、2010年以降、主に中国市場向けに果物輸出量が増えています。(イネの作付け面積の比重も低下傾向にあります。)
また、メコンデルタ沿岸部ではバナメイ、ブラックタイガーを中心とするエビ養殖業が基幹産業となっています。2020年時点でのベトナムの輸出農産品の輸出額において、水産物は木材・木工品に継ぐ第2位を占めています。
このように、主にメコンデルタで生産されている農林水産業は、国内需要を満たすのはもちろん、輸出産業としても極めて重要です[1]。

メコンデルタでの水門建設


そのため、気候変動の影響はなんとしてでも防ぎ、農業生産を維持・増加させるべく、ベトナム政府としては乾期の塩水遡上を防ぐための水門建設を、メコンデルタ各地で進めてきました。

メコンデルタ内陸部の稲作や果樹栽培地帯の塩分浸潤を防ぐための代表的な大規模水門としてKien Giang省のCai Lon水門があげられます。

Cai Lon水門
(Kien Giang省2024年7月9日 筆者撮影)

その規模は同国最大。Cai Lon川の支流、Cai Be川と、Cai Lon川河口に流れ出るXeo Ro運河に作られたCai Be水門、Xeo Ro水門と合わせて、ODA等はなしのベトナム単独での水利事業です。2019年に竣工し、2021年に完成、現在に至るまで運用されています。
なお、Cai Lon川はメコン川水系ではありません。水路伝いでハウ川(バサック川)と繋がってはいます。

こちらはメコン川最下流部に位置するBen Tre省を55kmに渡って貫通するBa Lai川(メコン川の支流)にできた水門です。こちらは、2000年に竣工、2002年に完成しました。
ベトナム語記事ですが、様子だけでもご覧いただけたら幸いです。ちなみにこの記事は、塩分浸潤を防ぐために作られた水門の上流側(すなわち、塩水がせき止められている側)の川砂1000万㎥を、ホーチミン市内の道路建設(Dự án đường Vành đai 3)、メコンデルタ各省の建設工事のために浚渫するという計画について書かれています。
ちなみに、Ba Lai川の水はお隣のTien Giang省のMy Tho川から来ているそうです。

上記の水門はメコンデルタの中でも規模が大きな水門です。次回の記事では、この2地点の周辺に暮らす地域の人々の生活が塩分浸潤や水門建設によってどのように変わっていっているのかを書きます。
今回の記事は記事の引用ばかりになってしまいましたが、ここまで読んで頂き、ありがとうございました。😊


引用文献
[1]荒神衣美 2022. 「第4章 中所得段階の農業・農村・農民」藤田麻衣編『ベトナム「繁栄と幸福」への模索――第13回党大会にみる発展の方向性と課題――』日本貿易振興機構アジア経済研究所.


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