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【童話】ねぐらぼっこ -お猪口と色えんぴつ②-
酒が飲めないにも関わらず、やたらと増えていくお猪口。
底に、陶器の花留を敷き、八分目ほど水を注ぐ。実を摘んだ後の、蓮の花托を思わせるその穴に、庭の草花を挿して、窓辺や本棚に飾る。生命力の強いミントなどは、短い茎を水に浸しておくと、数日で根が生え始める。そのまま土に植え替えれば、しっかり根付いて大きく育つのだから、植物たちの生への直向きさには、驚かされるばかりだ。
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小鉢に入れておいた片栗粉の中から、アーモンドチョコレートが1粒、顔を覗かせている。
うっかり入れてしまったのかと思ったが、砂糖の山には、使い込んで3㎝ほどになった青い色えんぴつが、1本立てられていた。
きっと、ぼっこたちの仕業に違いない。
飾っているつもりなのか、もしくは、「おまじない」のようなものだろうか。彼らはときどき、かわるがわるやって来ては、蓋を開けて覗いている。取り出そうとするのではなく、何かを入れ足すでもなく、ただ様子を見に来ているようだ。
米粒の器には、茹でた枝豆が莢ごと刺さっていたこともある。
新茶の茶葉を、お裾分けして小鉢に盛ると、翌日にはビー玉が埋もれていた。
居心地のよい場所を作るために、ああでもない、こうでもない、と、自分なりの試行錯誤を繰り返すのもまた、暮らしの楽しみである。
すっかり萎びてしまった枝豆が、ちょっと気になったものの、余計なお節介は焼かず、そっとしておくことにした。
砂糖と色えんぴつは、相性がよかったようだ。
色えんぴつの青い芯が、滑らかな曲線を描いてするりと伸びている。その先には、奥底にうっすら朝焼けも予感させるような、澄んだ夜色のスミレが、幾重もの花びらをもたげていた。
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