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14 「調整って、何でしたっけ?」 命令しかしない新人達。 〜コロナの功罪〜

 これは、すべて、フィクションです。その点を十分ご理解いただき、お読みください。

(1) 「決めたからやれ」という新人たち
 またまた、七側県の内部の話で、恐縮です。七側県では、知事の意向として、「スピード感を持って仕事をしよう」とされていますが、実態としては、暴走状態です。
 知事が県の方針として打ち出していることはいろいろありますが、ろくに庁内で議論をせずに決められている、つまり、知事の考えだけで進めていることも多くて、なぜ進めるのか、行政として確たる理由、理論的な根拠もなく、やることだけが降ってくる、そんなことがいっぱいあります。知事は議論をしましょうと形だけはいっているが、やることは決まっているので、どうやるのかを議論しようと言っており、そもそも、やる必要があるのかという一番大事な根本的な議論をしようと言っているわけではないと感じます。
 本当は、何のためにするのか、つまり、どういった課題があって、その課題解決のために有用な方策は何なのかということを、あらゆる角度から議論して、ある程度批判に耐えうる論理を組まないと、行政として、説明責任が果たせないということになります。
 しかし、スピード感という名のもとに、とにかく、やることが優先される。なぜやるのか、それを考えるいとまもない。なので、細部に渡っても、合目的性というもっとも重要な「物差し」を持つことができないので、具体的な実施方法も、百家鳴争して、迷走していく。出来上がっものは陳腐極まりないものになってしまうことがままあります。
 個人的にはスピード感を持って仕事をするのは大切なことだと思いますが、そのスピードの具合にも限界がある。関係者への意見聴取を含めて、必要な議論をすべきだと思うし、関係者で、ある程度の合意形成がないと、進むものも進まず、突っ立ってしまう。物事を進めるには最低限、必要な手順というものがあり、なんでもがむしゃらに進めていけばいいというものでもないのではないでしょうか。
 しかし、七側県では、なぜか、こうした過程がすべて省略、割愛され、結果だけが降ってくる
 特に、出先機関に対してはめちゃくちゃで、庁内的な調整が全くなく、突然、「決まったからやるように」と、ほぼ命令口調で、本庁の担当者が出先の担当者に指示をしてくる。寝耳に水の話、ばっかり。一体いつ、誰が、何のためにやることをき決めたのか、何の説明もなく「やってください」ということだけが降ってくる。
 こういう類のものは、現場から見ると、ちゃんちゃらおかしいというものが多い。なぜなら、現場の事情や実態が全く考慮されず、本庁が机上で考えた、ほぼ、絵に描いた餅であることが多いのです。いいか悪いかは別にして、現場では、過去の積み上げとか、関係者に対する配慮とか、現場として様々な事情があって、何とか回っていることが多いのです。こうした現場の事情や実態を絶対に守るべきものとまでは言いませんが、そうした事情も踏まえた上で、やるのはしょうがないなぁと、現場も思えないと、動かない。
 物事をうごかすためには、関係者、特に、現場にも仕方がないなといってもらうことが必要で、そのためには、煙が出そうな(着想の)時点から、文句言われようが何しようが、関係者にサウンドしておくことが大切で、やわらかい段階から、情報共有を徹底して、関係者を巻き込んで共犯者にして、一緒に物事を考えていくってことが望ましい姿です。
 その過程で、いろいろ言われた意見を、取り込めるものは取り組んで、無理なものは無理として代替案を考えて、などといった手間をかけることが必要で、これが、本当の調整というものです。つまり、こうした手数をかけたやり取りによって、お互いへの信頼関係も生まれ、お互いにちょっとぐらい無理を言われても、頑張って何とかしてあげようと思うし、その結果、叶わなくても一生懸命やってくれたんだから仕方がないと思えるのです。
 少し前までは、七側県でも、こうした「調整」が普通に行われていました。しかし、いまは、スピード感という名のもとに、「調整」とは決まったことをやらせることであると、その意味が変質してしまっています。
 なので、本庁の課長よりも、ずっと偉い所属長のいる出先機関に、本庁の担当者から出先の担当者あてに、命令口調で「決まったからやれ」と、”調整”がはいる。なぜ、格下の所属長のいる機関から、何の説明もなく、命令を受けないといけないのか。そんな指揮命令系統になってないのに、お構いなし。一体、この会社、どうなってんだと思いたくなります。
 時代が変わって、人と何回もやり取りして、物事を進めていくという仕事のスタイルが、新人の人達は苦手なのかもしれないので、こうした傾向は徐々に七側県の中でも浸透していたのかもしれませんが、これを一挙に進めたのは、「コロナ」です。このことについて、次の項目で、見ていきましょう。

(2) コロナがもたらした功罪
 日本国として、ダイヤモンドプリンセス号の横浜港入港から始まったコロナ対応は、様々な功罪をもたらしましたが、七側県に残した最大の爪痕は、内部的な調整を全くしないということです。
 コロナは先が見通せないのに、緊急対応が必要であり、激甚災害級の対策が必要で、いわば戦時の非常事態というに相応しい状態でした。
 最新の知見を持つ国が打ち出す対応を見ながら、県独自の対応も立案していくという複雑なオペレーションが求められていました。
 とにかく時間がない中で、本庁で対応を検討し、決めたことを、保健所などの出先機関に流して実施するというサイクルで、グルグル回っていきました。
 本来であれば、こういう時でも、出先機関とのやり取りはする他べきだったと思います。意見を電話で聞くぐらいはできる時間があったはず。でも、当時、本庁で指揮をとっていたのは、知事が連れてきた外部の方。本来であれば、外部の専門家と言いたいところですが、それぞれの専門領域については深い知見があっとのでしょうが、こと、行政のこととなると頓珍漢な人が多い。ですから、出てきた対応案は、専門的にはいいのかもしれないが、行政にそのまま適用するにはどうなのかというものも多く、きちんと、行政にフィットするようにモディファイしていくことが必要だったと思います。しかし、施策の立案の現場には、行政、特に、出先機関がいない。置いてけぼりというか、無視に近い状態です。そうした中でも、現場のことを思って調整しようとしてくれた人はいるのですが、これも、あっけなく押し切られたという感じです。
 ここだけの話ですが、コロナ対応では、七側県は独自のシステムを国に先行して導入していました。例えば、市販のノーコードでアプリが作れるソフトで作った患者発生届の受理システム。まぁ、少しは省力化に貢献したのかもしれませんが、政令指定都市分も県で管理するという、七側県の実力以上に余計な仕事をすることになり、そのために、多くの人員を割くことになってしまいました。挙句のはてには、このシステムと、国が後から導入した患者管理システムとの連携ができていないばかりに、二重にデータ入力をしなければならず、全くの二度手間になってしまったとか。現場の実態と直接関係ありませんが、とにかく、現場の仕事を増やしてしまったことは事実です。
 これよりも、もっと最悪なのは、SNSを利用した患者発生通知システムです。登録したお店や施設ごとに、QRコードを配布して、そこを訪れた人はそのQRコードを読み込むと、いつ行ったか記録され、その後、コロナ患者が発生して疫学調査をしたときに、その日にそのお店や施設を訪れた人に、コロナの感染がある可能性があることをお知らせするというものでした。お店は、様々な補助金の条件に七側県がしたことか、QRコードの表示は一生懸命やりました。
 それでは、保健所の疫学調査の結果、実際に、感染の可能性を連絡された例はあったのでしょうか。聞いている限り、ゼロです。まず、お店や施設に行って、QRコードを読み込んでいる人を見たことがありませんでした。つまり、連絡される対象者がいない。
 さらに、疫学調査の結果、連絡する側の保健所に、その連絡方法が届いておらず、どうやって連絡するのかも誰も知らなかった
 七側県では、コロナお知らせシステムなどと、いかにも先進的な取組みをしたかのように、ことあるごとに喧伝してきましたが、実際はお粗末そのもの
 これも、SNSの会社の幹部を招いて、取組みを進めたものの、疫学調査だけでパンクしていた保健所の現状を全く理解せずに、あるいは、知っていても配慮せずに、全体の仕組みを考えたが、実際は到底無理だということで、連絡する機能はあったものの、内部的には抹殺したということだと思います。
 ことほど左様に、現場の実態、現場の事情、出先機関が無視されて、施策が展開された結果、こういう仕事の仕方が、スタンダードになってしまう。庁内の調整もどうやって行うのかというノウハウも失われていく。特に、コロナ以降に入ってきた新人ちゃんは、こういう仕事の仕方しか見ていないので、これが当たり前になっている。
 本庁から上意下達で命令して仕事をさせるというやり方が正しいこととして認識されていく。そして、それも仕事も丸投げ。これをやってというだけで、その仕事のことも理解しようとしないし、やり方の解説もない。どうせ出先がやることだから、出先に勉強させればいいよと、自分たちでは全く理解せずに、本当に丸投げ状態
 こんな仕事の仕方がまかり通る組織では、将来が不安を通り越して、もはや、どうなっていくのか、楽しみです。
 皆さんはぜひ中からどうなるのかではなくて、外から観察しましょう。中にいるととっても苦労しますよ。だから、七側県に就職するのはやめましょうね。

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