合唱指導 ~指導言について考える~
先日「合唱指導に必要な力とはなんだろう?」という記事を書きました。この記事は、経験の浅い先生と合唱指導に長けている先生の違いについて、「省察的実践家」という言葉を用いて述べたものです。
本記事では、上記の論文を参考に、合唱指導に長けている先生がどのような言葉がけを行っているのかということについて考えていきます。本記事が、合唱指導に悩む先生方にとって意味のあるものになれば幸いです。
1 言葉がけ(指導言)の種類
音楽会に向けて合唱の指導をしている場面をイメージしてみてください。「もっと歌詞がはっきり聴こえたほうがよいな」「このフレーズはfで歌ってほしいな」など様々なことを考えると思います。そんなとき、子供たちにどのような言葉がけをするでしょうか?
図3は、言葉がけ(指導言)の種類を表したものです。この表をもとに、さきほど挙げた「もっと歌詞がはっきり聴こえたほうがよいな」と感じた時に行う言葉がけを整理してみます。
指示:もっと歌詞をはっきり歌いましょう
ミラーリング:みんなの歌い方を真似するとね・・
モデリング:(範唱を行い)このように歌ってみよう
説明:この歌詞が曲の中で大切なので、子音をはっきり歌おう
メタファー:~~のような感じで歌ってみてください
質問:歌詞をはっきり歌えましたか?
評価:まだ歌詞がはっきり聞こえにくいですね。
さて、指導言の種類をもとにして整理してみました。ここからが本題です。経験の浅い先生と、合唱指導に長けている先生の指導言には、どのような特徴が見られるのでしょうか?
2 言葉がけ(指導言)の使用頻度
著者は、経験の浅い先生と、合唱指導に長けている先生の違いとして、以下のことを述べています。
経験の浅い先生は「指示」の使用頻度が高いのに比べて、合唱指導に長けている先生は指示の割合が相対的に低く「モデリング」「理論的説明」「メタファー」「質問」の使用頻度が高い。
もちろん、指導言として「指示」が必ずしも不適切なのではないですよね。では、なぜ合唱指導に長けている先生は、「指示」の使用頻度が低くなっていったのでしょうか?
3 指導言を比較する
上記の(ア)(イ)(ウ)を指導言の種類に分けてみます。(ア)は、修正したいことを直接言葉で伝えているため「指示」です。(イ)も、修正したいことを直接言葉で伝えているため「指示」になります。ただし、(ア)に比べて、具体的な行為が示されており、わかりやすい「指示」になっています。
(ウ)はどうでしょうか?「桜の花びらを散らすはかない感じ」というのは、とても間接的な伝え方になっていますよね。だから、(ウ)は「メタファー」になります。間接的ということは、わかりにくさに繋がることでもありますよね。合唱指導に長けている先生は、指示の使用頻度が低くなるということを先ほど述べましたが、なぜわかりにくさにも繋がるような「メタファー」を使用するのでしょうか?
4 「メタファー」の効果
著者は、「メタファー」は、子どもと教師の双方向的なやり取りを生む効果があると述べています。ここで、先ほどの(ウ)の指導言を見てみましょう。
この「メタファー」を使った場合、子供たちそれぞれが風景を思い描き、具体的な歌のイメージを想起するような知的な練習となるはずです。そして、教師も「その風だと強すぎるな。台風みたいだよ」とか「ひらひらと舞い落ちるような桜の雰囲気が出てきたね!」のように、子どもの歌声を評価することができます。このときに、子どもと教師の双方向的なやり取りが生まれていると著者は述べています。
5 おわりに
合唱指導に長けている先生は、意図的に指導言を使い分けているのだと思います。以下の表を定期的に見直し、自分の指導言が効果的であったか振り返ることで、日々の授業から学んでいくことができるようにいたいです。
この記事を読んでくださった先生方と、合唱指導の在り方についてお話しできれば嬉しいです。ご意見・ご感想など頂けたら嬉しいです!